23話 ルール
翌朝、サラヤに呼び出されました。
応接間には女子三巨頭、サラヤ、ナル、カランが並び、向かいには俺、ジュード、トールが座らされている。
なんで速攻バレてんだよ。
どうなってんだ?
盗聴器でもしかけてんのか、コイツラ。
隣を見ると、ジュード、トールの顔色が悪い。
え、マジで俺達、叱られるのか?
席の真ん中に座ったサラヤはさっきから一言もしゃべらず、組んだ両手に顎を乗せながら、無表情のまま俺らに視線を向けている。
そのポーズ、とこかの総司令みたいだ。
ナルはちょっと困った顔、カランは表情変わらず。
対する俺達も呼び出された理由は聞いていないが、おそらく昨日のカロ○ーメイトのことだろうということは分かる。
……………………
沈黙が続く。
みんな朝忙しいのだから、さっさと済ませてほしいんだけど。
仕方ない。俺から口火を切るか。
「サラヤ、早く要件を言ってほしいんだけど」
ジュードとトールが話し出した俺を見てギョっとした顔をする。
え、そんなにマズイことなのか?
思わずサラヤの顔を見ると、先ほどの無表情から一転、ニッコリと微笑んで、俺の問いに答える。
「ごめんね。朝早くに呼び出しちゃって。ちょっと聞きたいことがあったの。ヒロ、昨日の晩にみんなにフルーツブロックを振る舞ったんだって」
フルーツブロック? いえ、カロリーメイ○のフルーツ味ですが………
まあ、そうは言えないので、ここは頷いておくか。
「そう。それはヒロがここに来る前に持っていたものなんだよね?」
「ああ、そうだよ。最後の一つだったんだ」
「本当に最後の一つ?」
「……何が言いたいの?」
まどろっこしいやり方にだんだんイライラしてくる。
何が言いたいんだ?
なせ女の子達用に残していないんだ!って、怒るなら、早く怒ってくれ。
と思っていたら、サラヤの話は意外な方向へ進んだ。
「本当に最後の一つだったら問題ないんだけど。もし、他にも持っているようならこのチームで配ったりするのは止めてほしい。公平じゃなくなるから」
「どういうこと?公平じゃなくなるって?」
「このチームへ入ってくるのは、大抵身一つで来る人が多いの。だから、私たちがその人たちの働き具合によって、公平になるように食料なんかを分配している。でもたまに財産を持ってたりする人が入っちゃうと、働かなくても食べていける人ができちゃうよね。そうなると、周りにあんまり良い影響を与えないの。最悪、自分の持ってる食料なんかを渡して、自分の派閥を作ったりしちゃうこともあるんだよ」
んー………まるで共産主義みたいだな。
財産を持たないようにさせているのか。
それがこのチームを維持する為の秘訣みたいなもんだろうな。
「ヒロが持っているものを渡せとは言わない。でもそれを見せびらかすのは止めてほしい。このチームは持たざる者の集まりだから。持つ者と持たない者が同じところにいると必ず争いが起こるわ。それを避けるために協力してほしい」
どこかの宗教団体で入信するときに財産を全て差し出されるっていうのを聞いたことがあるけど、それと比べれば大分マシか。
まあ、元々チーム全員には渡さない予定だったから問題ない。
「分かった。このチームに入る前に俺が持っていた物を渡したり、見せびらかしたりはしない」
さり気なく、このチームに入る前に持っていた物と限定しておく。
チームに入った後に召喚したものは対象にはならないからね。
まあ、もうしないけど。
俺の返事に満足したのか、サラヤがほっと息をついて体から力を抜く。
「良かった。分かってくれて。なかなか分かってくれない人もいたりするのよ。その場合はどうしてもチームに置いておくことができないから、どうしようかと思ってたの」
「でもー。私もフルーツブロック食べたかったですー」
「ナル。昨日シュガードロップ貰ったでしょう。あきらめなさい」
「カランさん。でもでもでもー」
「いい加減にしなさい」
ナルがぐずぐず言っているのをカランが窘めている。
確かに女の子には悪いことしたかな。
よく考えれば男子だけでなく、あの場で女子に渡しに行っても良かったのに。
まあ、夜ふけに3階に上がるのは勇気がいるが。
「あ、そうだ。さっきの理屈なら、俺が大きく稼いでそれをチームに入れてから、皆に配分すれば問題ないんだよね」
「え、ええ、まあ、そうね」
「俺が貰ったやつを渡すのも問題ない?」
「ま、まあ、ヒロがそれでいいのなら」
サラヤが俺の意図を読み切れず、つっかえながら返事をする。
「よし。ナル、カラン、俺が稼ぎまくって皆にフルーツブロックを配れるようにするさ。それまで、待っておいてくれないか」
「えー。本当ですかー。ヒロさん、大好きー」
「おいおい、期待させといて落とすのは残酷だぞ」
俺の宣言に大喜びするナルと、少し皮肉気なことを言うカラン。
「ふふ、ヒロの活躍で皆がフルーツブロックを食べられるようになるのを楽しみにしておくね」
あんまり信じてなさそうなサラヤ。
まあ、見てるがいいさ。
それぐらい稼がないと俺の生きたいようには生きれないからな。
応接間から解放された俺達3人はすぐ男子部屋に向かう。
「ジュード、トール。なんですぐバレたんだよ。ここに盗聴器でもあるのか?」
「いや、盗聴器だったらフルーツブロックとはならないはずだよ。多分、子供の一人が告げ口したんだろうね」
「はあ、あれだけ言ったのになあ。ちょっとショックだ」
「ジュード。仕方ないよ。サラヤがリーダーだもの。今回は僕たちに非があるしね」
割と落ち込んでいる様子のジュードをトールが慰めている。
「二人とも、俺が私物を渡すのをどうして止めなかったんだよ」
「あれは仕方ないよ。止める間もなくヒロが取り出したんだし。それにシティの食料って言われたらほしくなるだろう」
「ああ、トールのいう通りだ。あれは旨かった。僕は後悔していない」
「それにね。ヒロ。さっきはサラヤが各人財産は持たないってみたいなこと言ってけど、皆へそくりはどこかに隠しているのが普通なんだよ」
「僕も狩場に隠し場所を用意しているぞ」
おい、じゃあなんで俺は叱られたんだ。
「そりゃあんまり大ぴらにしないようにって釘刺しじゃない?」
「ヒロはやることがいちいち大事になるからだろう。入団3日でここまでした奴はいないぞ」
建前ってやつか。
まあ、しょうがないな。
「そろそろ僕は狩場に行かないと」
「ああ、僕も遅刻だ。急がなきゃ」
ジュードとトールが慌てた様に部屋を出ていく。俺もそろそろ狩りにいくか。
2階でナルから水筒と袋とブロック、そして銃を受け取る。
出ていく際にナルから「フルーツブロック、期待してますからねー」と声をかけられた。
ひょっとして毎朝言われるんじゃないだろうな。
白兎を迎えに行ってから狩場へと向かう。
とりあえず俵虫を探してみる。
ノルマである5匹取れれば、銃の試し撃ちといきたいところだ。
しかし、昼頃になっても3匹までしか見つからない。
白兎と一緒になって、地面に這いつくばって探し、
石をどかしたり、草を搔き分けたりしても、虫の影すら見当たらない。
うーん………、虫は見つけるまでが大変だな。
獲物を変えた方がいいかもしれない。
廃墟に隠れながら、昼飯に惣菜パンを召喚して食べる。
これ以上虫を探しても見つからなさそうなので、
銃の試し撃ちをすることにした。
銃のマガジンにマテリアルを3つ入れる。
ストッパーを外して、壁に向かって銃を構える。
パンッ
まず1発。
パンッ
2発目。
壁に近づいてみると銃弾が3cm程めり込んでいた。
銃弾がめり込んだ隣に自分の人差し指を突き立ててみる。
ズズッ
何の抵抗もなく指が壁に沈んでいく。
ズブッ
根元まで指が刺さり込む。
「……銃、役に立たないな」
結論。
銃は俺の指先より威力が低く、おそらく威圧用としてしか役に立たない。
遠距離攻撃手段ではあるが、当たらなくては意味が無いし、俺には動いている目標に当てる自信がない。
「はあ、生まれて初めて銃を撃ったにしては感動が少ないな」
なぜか、どこかでもう少し上等な銃を撃っていたような気がする。
だが、銃なんて現代日本で手に入るはずもなく、気のせいであるのは明らか。
聞くと、この銃はスモール・最下位クラスに分類されるらしい。
銃の中では最も安価で、威力も一番低いそうだ。
それでも「シリアルブロック」1000個分はするそう。
チームの1カ月分の食費くらいだそうだが、いまいち比較対象がないからわかりづらい。
やはり遠隔攻撃は「仙術」スキルに期待するしかないか。
しかし、相変わらず発動条件が不明。
何かしらのとっかかりすらない状態だ。
発動する為の条件が足りないのかもしれない。
たとえばレベル。俺が見えないだけで隠しパラメータがあって経験値が蓄積されているという可能性がある。
また、覚醒イベントという線もある。主人公が危機に陥った際に発動するアレだ。
その場合は危機的状況にならないと一生発動しないということもありうる。
また、宝貝が必要ということも考えられる。封神演義でも仙人は宝貝をもって大いなる奇跡を起こしていた。逆に宝貝無しではロクな術が使えないという説もある。
この場合、どうしても宝貝を作成しないといけないが、当然、作り方が分からない。
はあ、説明書どっかにないのかなあ。
不親切すぎるだろう。
「白兎~、なんか知らないか?」
パタパタ
『ファジー過ぎる質問をウサギに振らないで欲しいなあ』
と言いつつ、白兎はしばし考え込むようなポーズを取り、
フリフリ
『仙術というくらいなんだから、仙人がするような修業がいるんじゃない?』
「げ! 俺が一番嫌いな展開じゃん。それは却下」
フルフル
『考えろって言われたから考えたのに……、もうっ!』
提案をいい加減な理由で却下され、プンスカ怒る白兎。
後ろ脚でバシバシ地面を叩いて不満を表明。
「いやいや、今更修行なんてやりたくないって。ネット小説でも修行パートはウケが悪いんだ。誰しも楽に強くなれるのが一番だからな」
ピコピコ
『でも、一時期、ネット小説で、もの凄い長期間修行をしていましたってパターン、流行らなかった?』
「そりゃあ、さらりと数行で終わるなら、いいんだろうけど……、実際修行をやる身からすれば、溜まったもんじゃないぞ」
何年くらいならともかく、
何十年も何百年も修行なんてできる奴は、どこか壊れていないか、とも思う。
しかしながら、仙人だとそれくらい修行してからが本番だというから恐ろしい。
もし本当に『仙術』スキルを使いこなすのに、
何十年、何百年の修業がいるなら、
習得は諦めた方が良いかもしれない。
「ああ~………、折角チートスキルを手に入れたんだ。その辺もチート(ズル)して、何とか楽に仙術を使えるようにならないかな~。そうすれば、俺の目標もあっという間に達成できるはずなのに~………」
自分に都合の良い話を口にして、俺は比較的平らな瓦礫の上に寝っ転がり、空を見上げる。
目的は財産を手に入れて、豪華な暮らしをすること。
その為には狩人になって機械種を狩りまくるのが一番近道だろう。
その為には武力が不可欠だ。それも普通じゃないレベルの。
でなければ短期間で目標を達成するのは難しい。
何十年かけてお金を貯めて引退生活始めましたなんか待てるわけない。
それに今の俺は不老の可能性が高い。
飲食不要、トイレも不要となれば、通常の生命活動をしているのかどうかも怪しい。
権力者なんかに俺の特性が目をつけられたら、それこそ捕まって実験動物にされるパターンも考えられる。
それまでに他からの干渉を防ぐだけの武力を手に入れなくては。
青い空にゆっくりと漂いながら浮かぶ雲。
この辺りは前の世界と変わらない。
外でゴロンと仰向けになって寝転ぶなんて久しぶりだ。
しばらく空を見上げながらボーっとする。
白兎も俺の傍でゴロンと横になって添い寝。
ずっと、生き急いでいたような生活だったから、
偶にはこんなのんびりした時間も良いかもしれない。
どうせ俺は不老の存在。
時間は無限にあるのだから焦る必要は無い。
究極に言えば、飲み食い必要もないし、生きていくだけなら何とかなる。
おそらく病気にもかからないだろうから、身体の心配をしなくて良いし。
………そういえば、この体になってから腰痛がなくなったな。
前は固いところに寝転がると腰が痛くなってきたが。
寝転がりながら、腰を浮かせて、手を腰に当てて、マッサージしてみる。
グリグリ
「ふう。腰が痛くなくてもマッサージは気持ちいいな」
グリグリ
そうそう、この辺り。確か仙骨って言うんだっけ。
グリグリ
仙骨?
むくりと起き上がる。
フル?
『マスター、どうしたの?』
白兎も俺が起き上がったのを見て、何事かを見上げてくる。
「いや、ちょっとな……」
そんな白兎の頭を一撫でして、
ふと思いついた思考を続行。
確か、仙人になるには仙骨が必要とかなんとか聞いたことがある。
手を腰に回して探してみる。
あ、これだ。直感で分かる。これが仙骨だ。
仙骨を意識すると腹の下から熱いものがこみ上げてくる。
手を目の前にもってきて、なんとなく呟いてみる。
「炎よ」
ボウゥ!
人差し指からロウソクくらいの火が灯る。
しばらく呆然と指を見つめる。
消えろと念じれば炎は消え去った。
再度、「炎よ」と呟くと指先に火が灯る。
「炎」じゃくなくて、「火」だろ、これ。
ともあれ、ようやく仙術スキルが使えるようになったのは間違いない。
新しく目覚めた力によって、
俺の野望も少しは前に進んだのだと思いたい。
しかし……
「新たな力の目覚めって……、もう少し感動的なイベントがあってもいいんじゃない?」
どうにも物語の主人公らしからぬ覚醒に、思わず愚痴がこぼれ出た。




