第九話「最後の告白」
1
ローゼンベルク捕獲作戦。
だが、彼の居場所がわからない。
「レーダでも捉えられない......」
シェリルが頭を抱える。
その時、無線に通信が入った。
「——エコー、聞こえるか」
ローゼンベルクだ。
「聞こえる」
「話がある。単独で来い。座標を送る」
「罠か?」
「罠ではない。私は——疲れた」
通信が切れる。
「行くのか?」
タイガが尋ねる。
「ああ。これが、最後のチャンスかもしれない」
2
中立地帯。
ローゼンベルクが一人、立っていた。
俺は303から降りて、彼に近づく。
「来たか」
「話とは?」
「私の——告白だ」
彼は座り込む。
明らかに衰弱している。
「異世界適応不全が、進行している。もう、長くない」
「......」
「だから、すべて話そう」
彼は語り始めた。
1945年、終戦直前の転移。
50人の部下と共にこの世界へ——
最初は、神の恩寵だと思った。
だが、地獄だった。
仲間が次々と死んでいく。
異世界適応不全で——
「私は——30人を、自分の手で殺した」
「何......?」
「苦しむ仲間を、安楽死させた。それが、指揮官としての責任だと思った」
彼の目に涙が浮かぶ。
「だが、間違っていた。殺すべきではなかった——」
「......」
「生き残った20人と、私は誓った。必ず、帰ると」
「だから、戦い続けた......」
「そうだ。資源を集め、戦力を整え——『世界の果て』を目指した」
「でも、もう無理だ......」
彼は咳き込む。血が混じっている。
「私は——間違っていた。多くの人を殺した。王国の民を、竜騎士を——」
「......」
「だから、罰を受ける。お前に——殺されてもいい」
彼は目を閉じる。
俺は——
拳を握りしめる。
だが、殴れなかった。
「殺さない」
「なぜだ?」
「お前は——俺と同じだからだ」
「......」
「異世界に放り込まれ、必死に生き延びようとした。仲間を守ろうとした」
「だが、私は——」
「間違った方法を選んだだけだ」
俺は手を差し伸べる。
「来い。王国へ——治療を受けろ。もしかしたら、助かるかもしれない」
「......本気か?」
「ああ」
ローゼンベルクは震える手で、俺の手を取った。
3
王都へ帰還。
ローゼンベルクを連行——ではなく、保護して。
王宮は大騒ぎになった。
「なぜ、敵の指揮官を生かしておく!?」
「殺せ!」
民衆が叫ぶ。
だが、俺は王に直談判した。
「彼を裁く前に——話を聞いてください」
「......」
王は迷ったが、許可した。
4
謁見の間。
ローゼンベルクが、すべてを語った。
転移の経緯。
仲間の死。
帰還への執念。
そして——犯した罪。
「私は、償いたい」
彼は跪く。
「命を差し出す。だが——残った部下たちは、赦してほしい」
「......」
王は沈黙する。
そして——
「お前を、死刑にはしない」
「なぜ......?」
「お前は——哀れだ」
王は立ち上がる。
「80年間、異世界で苦しんできた。それは、死以上の罰だろう」
「......」
「だが、自由も与えない。余生を、王国の復興に捧げよ」
「......ありがとうございます」
ローゼンベルクは、初めて心から頭を下げた。
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次回「喪失」




