第七話「裏切りの刻印」
1
レーダ復活から一週間。
だが、王宮内の空気が変わっていた。
「エコー教官を信用していいのか?」
廊下で、竜騎士たちの囁きが聞こえる。
「奴は異世界人だ。魔族と同じ——」
「もしかしたら、スパイかもしれない」
俺は拳を握りしめる。
戦果を上げても、異邦人への不信は消えない。
「気にするな」
タイガが肩を叩く。
「俺たちは知ってる。お前が何をしてきたか」
「......ありがとう」
その時、エリスが血相を変えて駆け込んできた。
「大変!王宮で裏切り者が出た!」
2
作戦室。
エリスが資料を広げる。
「竜騎士の一人——ガルスが、魔族に情報を流していた」
「ガルス......?」
俺は彼を知っている。30代のベテラン竜騎士。訓練でも優秀だった——
「なぜだ?」
「家族を人質に取られていたそうよ。魔族に」
くそ——
「ガルスは今?」
「逃亡した。恐らく魔族の拠点へ——」
「追うぞ」
「待って!」
シェリルが止める。
「今、王宮内で異世界人への不信が高まっているの。もしあなたが単独行動したら——」
「スパイだと疑われる、か」
「......ごめんなさい」
俺は壁を殴った。
「くそ!」
3
その夜、俺は一人で考え込んでいた。
守りたい。
この世界を、シェリルを、仲間たちを——
だが、不信の目。
どれだけ戦っても、異邦人は異邦人。
「立花」
ドリックが酒瓶を持ってきた。
「飲め。考えすぎだ」
「......ありがとう」
一口飲む。強い酒だ。
「なあ、ドリック。俺は——」
「信じてるぜ」
彼は即答した。
「お前がどれだけ頑張ってきたか、俺は見てた。背が低いだけでドワーフ扱いされる俺には、わかる」
「......」
「異邦人だろうが、なんだろうが——お前は仲間だ」
俺は、初めて泣いた。
この世界に来て、初めて——
「ありがとう......」
4
翌朝、緊急召集がかかった。
「大規模襲撃!数は150!」
150機——今までで最大だ。
そして、先頭に——ガルスの竜がいた。
「ガルス......!」
竜騎士たちが絶句する。
「裏切り者め!」
「全機、迎撃態勢!」
俺は303に跨る。
だが——
「エコー、お前は出るな」
隊長が制止する。
「なぜだ!?」
「王の命令だ。お前への不信が強すぎる——戦場に出れば、味方に撃たれるかもしれない」
「そんな......!」
「すまない」
隊長は出撃していく。
俺は地上で、ただ見ているしかなかった。
5
戦況は悪化していった。
敵の数が多すぎる。
竜騎士たちが次々と撃墜されていく。
「くそ!このままでは——」
シェリルが管制室で必死に指示を出している。
だが、劣勢は覆らない。
そして——
タイガの竜が被弾した。
「タイガ!」
彼の竜が墜落していく。
俺は我慢できなかった。
「303、行くぞ!」
「待って!命令違反よ!」
シェリルの制止を無視して、出撃。
全速でタイガのもとへ——
墜落寸前の彼を303が掴み、地上へ降ろす。
「エコー......バカ野郎......命令違反だぞ......」
「知ったことか」
そして、再び戦場へ。
だが——
「エコー!味方が攻撃してくる!」
シェリルの警告。
竜騎士の一人が、俺に向けて魔法を放った。
「異世界人め!貴様もスパイか!」
「違う!」
回避するが、他の竜騎士も攻撃してくる。
「魔族と繋がっているんだろう!」
「やめろ!」
混乱の中——
ガルスの竜が突っ込んできた。
「エコー!お前を殺せば、俺の家族は助かる!」
「ガルス......!」
彼の目は狂っていた。
家族のため——そのためなら、何でもする。
わかる。わかるが——
「303、回避!」
ガルスの攻撃を避け——
だが、避けた先に、味方の竜騎士がいた。
「あ——」
303の体当たりが、味方に当たる。
竜騎士が墜落——
「嘘......」
俺は、味方を撃墜してしまった。
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次回「罪と罰」




