第六話「蒼穹のレーダー」
1
王宮地下、工房。
ドリックが汗を流しながら作業している。
「くそ、この部品が合わない......」
彼の前には、F-4のコックピットと303の竜体模型。
どうやって融合させるか——それが問題だ。
「無理に機械的に取り付けるんじゃない」
俺がアドバイスする。
「303は生物だ——いや、生物と機械の中間存在だ。コックピットを『食わせる』んだ」
「食わせる......?」
「ああ。303の体内に取り込ませ、一体化させる」
ドリックは目を見開く。
「そんなこと、できるのか?」
「やってみる価値はある」
俺は303を連れてくる。
竜はコックピットを見て、興味深そうに近づく。
「303、これを——取り込め」
竜は躊躇している。
だが、俺の目を見て、何かを理解したようだ。
ゆっくりと口を開け——コックピットを飲み込んだ。
「おい、マジか!?」
ドリックが驚愕する。
303の体が光り始める。
鱗が変形し、背中の部分が開いていく——
そして、そこには——コックピットが埋め込まれていた。
完璧に一体化している。
「成功......だと......?」
俺は恐る恐るコックピットに座る。
シートが体にフィットする。
計器が作動し始める——エリスの雷魔法で給電されている。
HUDが起動。
スティックを握る。
303が反応する——完璧だ。
「これで、精密な操縦ができる!」
ドリックが拍手する。
「お前ら、化け物だな......」
「褒め言葉として受け取っておく」
2
翌日、エリスの魔法研究室。
彼女は古代のレーダ設計図と格闘していた。
「この回路、複雑すぎる......」
「手伝おう」
俺が横に座る。
「レーダの原理は単純だ。電波を発射し、反射波を受信して、物体の位置を特定する」
「電波......見えない波、ね」
「そうだ。この世界で言うなら——魔力の波に近い」
エリスが何かに気づく。
「魔力探知魔法......」
「それだ!」
「魔力探知魔法なら、私も使える。でも、範囲が狭いのよ。せいぜい1キロ程度」
「だから、増幅する。この設計図にある『アンテナ』で」
俺たちは協力し、レーダのプロトタイプを組み立て始めた。
金属板を円盤状に加工し、魔法陣を刻む。
エリスの魔力を流し込み——
「反応あり!」
ディスプレイ——魔法で作った映像投影——に、複数の光点が現れる。
「これは......」
「王都上空の竜騎士たちだ!距離50キロ!」
成功だ。
シェリルが駆け込んでくる。
「何が起きたの!?管制室に映像が——」
「レーダだ!空域全体を監視できるようになった!」
シェリルは映像を見て、涙を流した。
「これが......祖父が残そうとした技術......」
「ああ。そして、これで——」
俺は北方を指差す。
「魔族の動きが、すべて見える」
3
レーダ設置から三日後。
魔族の大規模な動きを探知した。
「全機出撃!数は50!」
50機——今までで最大だ。
「全竜騎士、発進準備!」
だが、王国の戦力は30騎。
数で不利だ。
「立花、どうする!?」
シェリルが尋ねる。
「迎撃する。だが——正面からじゃない」
俺は作戦図を広げる。
「敵は一直線に王都へ向かってくる。つまり——」
「側面が無防備......!」
エリスが理解する。
「そうだ。敵の進路を予測し、側面から奇襲する」
「でも、タイミングが——」
「レーダがある。完璧なタイミングで攻撃できる」
俺は全竜騎士に通信する。
「全機、西方空域へ待機。敵編隊が通過するまで攻撃するな」
「了解!」
303に跨り、出撃。
他の竜騎士たちも続く。
西方空域で待機——
レーダが敵編隊を捉える。
「敵、接近中。距離30キロ」
「20キロ」
「10キロ——」
「今だ!全機、側面から攻撃!」
一斉に突撃。
魔族の編隊は、まったく気づいていない。
側面から——
「攻撃開始!」
竜騎士たちの魔法と体当たりが、魔族を襲う。
「な、何!?」
「側面から!?」
魔族の編隊が崩壊する。
混乱の中、次々と撃墜——
「10機撃墜!」
「15機!」
だが、魔族も反撃してくる。
「編隊立て直し!反撃する!」
ローゼンベルクの声——指揮官が直接来ている。
赤いFw190が現れる。
「貴様か、エコー!」
「ローゼンベルク!」
「見事な奇襲だ!だが——終わりだ!」
赤い機体が加速——異常な速度だ。
303も全速で回避——
「速い......!」
ローゼンベルクの攻撃が、次々と迫る。
火球、雷撃、氷槍——
「くそっ!」
回避し続けるが、距離が縮まる——
その時、横から別の竜が割り込んできた。
タイガだ。
「エコー!お前一人に戦わせるか!」
「タイガ!?体は!?」
「動けるうちに戦う!」
彼の竜——Me109を取り込んだ姿——がローゼンベルクに体当たり。
「邪魔を!」
ローゼンベルクが反撃——タイガの竜が被弾する。
「タイガ!」
「気にするな!お前は奴を倒せ!」
タイガが捨て身の攻撃を続ける——
その隙に、俺は上昇。
高度を取り、反転——
「303、急降下!」
全速力で降下。
ローゼンベルクの背後を取る——
「今だ!」
303の爪が、赤い機体を捉える——
だが、ローゼンベルクは回避。
「甘い!」
彼は急旋回し、逆に俺の側面に——
だが、俺は笑った。
「引っかかったな」
「何?」
その瞬間、他の竜騎士たちがローゼンベルクを包囲した。
全員、レーダ情報を共有し、完璧な連携で——
「これが、近代戦だ」
四方八方から攻撃が集中——
ローゼンベルクの機体が被弾。
「くそ......!撤退だ!全機撤退!」
魔族の編隊が北へ逃げていく。
今回の戦果——敵機撃墜23機、味方損害5騎。
大勝利だ。
4
タイガは重傷だった。
医療室で治療を受けている。
「無茶しやがって」
俺が見舞うと、彼は笑った。
「まあな。でも、後悔はしてない」
「......」
「なあ、エコー。俺、思うんだ」
「何を?」
「この世界で死ぬのも、悪くないって」
「何を言ってる」
「だってさ、元の世界に戻っても——俺、独身だし、特に帰りたい理由もない」
「......」
「でも、ここには仲間がいる。守りたいものがある」
タイガは窓の外を見る。
「だから、最後まで戦うよ。この世界のために」
「......バカ野郎」
俺は彼の肩を叩く。
「死ぬな。生き延びろ。それが命令だ」
「了解、教官」
彼は敬礼した。
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その夜、俺は一人、城壁の上にいた。
北の空を見つめる。
魔族との戦いは、まだ終わらない。
ローゼンベルクは撤退したが、必ず戻ってくる。
次はもっと大規模な——
「立花」
シェリルが隣に来た。
「眠れないの?」
「ああ......考え事をしていた」
「魔族のこと?」
「それもある。だが——」
俺は彼女を見る。
「お前の祖父——ゴーストのことだ」
「......」
「彼は、この世界で家族を作り、戦い、そして死んだ」
「ええ」
「俺も、同じ道を辿るのかもしれない」
シェリルは俺の手を取った。
「それは——悪いこと?」
「......いや」
俺は微笑む。
「悪くない、かもしれない」
夜空に、星が瞬いていた。
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次回「決戦前夜」




