表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

その名はオロチ(6)

「スサノオン・ビームッッ!」

 群がる拳を熱光線で塵とする。数の暴力という比喩の通り、それでも次から次へ湧いてでてきた。だが当初の予定通り、四肢を抑えつけていた拳は排除できた。

 これで使える。神殺しの片割れ。黒刀のクサナギを。

 ――シュッ。鋭い風の音が鳴り響く。

 じゅうっっ。肉は焼け、滴り落ちる美味しそうな汁の香ばしさが、その場を支配する。

「ぐぅっッ!」

 流石のオロチも、うなるしか無い。

「……フッ。これほどとはな。予想以上だ。神殺し」

 アマテラスの腕が合図を送ると、無事である拳達は日輪へと帰っていく。

「響樹よ。その力はやがて彼女さえ飲み込む。それを知っても、お前はイヨリを使うのか」

「くどいッ! 俺は沙耶を信じているッ!」

「……ならばもう何も言うまい」

 ――ギュンッ。

 目の錯覚か。アマテラスの機体が幾重にも見える。

「ちぃっっオロチめ。ギアをあげおったか」

 アマテラスの速度があがり、分身はぐるりとスサノオンを囲む。その手にはレイピアが握られていた。

「うらっ!」

 先手必勝。クサナギを振る拳にも力が入る。

「どうした? 弟よ。力み過ぎだぞ。何をそんなに恐れている」

 レイピアの先端が、手首に触れ動かせない。アクチュエータに食い込み駆動できず、異音と火花を散らす。

 その為、刀を振り下ろす事ができないのだ。

「フッ。刃に触れなければ、どうって事もない」

 速度を求め外装を外し、身軽るになった事が裏目となってしまった。

 ウズメフォームが弱いわけじゃなく、只アマテラスが強いのだ。

「ウズメなど所詮は付け焼き刃よ。僕の鬼神の速度についてこれない」

「くぅぅっ!」

 リリスは悔しく呻きながらも、ウェポンを起動し叫ぶ。

「ボルトン・サンダーッッ!」

 雨雲が雷を呼び、それに応えた雷鳴はアマテラスを貫く。

「無駄だ。あくびがでる」

 貫いた時はもう遅い。雷鳴は残像をすり抜けた。

 ――トンッ。

 気づくと側にアマテラスがいて、レイピアの先端が再び手首に突き刺さる。

 コイツは不味い。響樹の野生の直感が、開けるな危険と描かれた扉を叩く。

 オロチの目的がわかった。

 手首を破壊し、クサナギを無力化したいのだ。

 扉を開かせてなるものか。

 アクセル全開。翼を羽ばたかせ全速力で逃げだす。

「ふんっ。この状況で敵から背を向けるか。やはりお前はラガじゃない。人間というチンケな下等生物よ。響樹ッ!」

 離れたのも一時。二体の距離が一瞬で縮まる。

「フッ。響樹。鬼ごっこは終わりのようだな」


 アマテラスとの距離を一気に離すため、急降下しすぎたか。大地が迫ってくる。

「わははっ」

「かははっ」

 響樹とリリスは、口角をつりあげ笑った。

「絶望のあまり気でも触れたか」

 違う。二人の目には強い意思が宿っている。決して勝利を諦めたわけじゃない。

「貴様らに逃げ道など無い。チェックメイトだッ!」

「……いいや。これでいい。これがいいんだ」

 大地に激突する瞬間、スサノオンは振り向く。

「勝ったッ! 死ねぇいッ! スサノオンッ!」

 アマテラスのレイピアが、クサナギ握る右手首を破壊する。

「な、なにぃぃッ!」

 叫んだのはオロチの方だ。

 アマテラスの胸部がごっそりえぐれていた。

「名づけてスサノオン・タヂカラオウ・フォームじゃ」

 背中の翼は消えていた。構成してた外装パーツが、新たなる形へ組みあがる。

 それはスサノオンよりも、巨大なサブアーム。

 そのゴツい拳が、アマテラスを貫いていた。

 カウンターの一撃であった。激突した攻撃は、そのまま本人に返っていく。

 右手首を確実に破壊する為の超加速が裏目となり、アマテラスに胸に大きな穴があいたのだ。

「二体共に大ダメージ。この兄弟喧嘩。残念ながら痛み分けじゃ」

「フッ。フハハハハハッ! いや違う。勝負は僕の勝ちだ」

「!」

 そうか。それが最初から目的だったのか。

 響樹は理解した。

 それを手に入れるためなら、自らの機体だって破壊する。

 そこまでして、兄が渇望するもの。その銘は……。

「今から僕のものだッ! イオリィィィ!」

「くぅぅ。最初からそれが目的じゃったのかッ!」

「ふんっ。これでツクヨミに続き、クサナギも僕の手に。一つまた一つと、貴様らの希望を削りとってやる」

「返せ。ソイツらは俺の家族だッ!」

「フッ。タヂカラオウ。パワーに特化したフォームか。胸部を大破したアマテラスでは勝てない。目的は果たした事だし、逃げるとするよ」

「誰が逃がすかッ!」

「そうじゃ! 主よ、アマ・テラスで……いやダメか」

「フッ。賢明だなリリス。アマ・テラスを放てば、イヨリは巻き込まれて死ぬ」

「――撃って。響樹くん。母様」

「出来るかッ! 沙耶さん必ず迎えにいく」

「ふんっ。今の貴様の実力では……!?」

 ぐにゃり。突然結界が歪む。それはオロチも想定外だったのだろう。

「な、なにぃぃ」と、驚きの声が聞こえてきた。

「贄贄贄」

 侵入してきたのは鷹に寄生したヨモツ獣。闇夜、ライトに群がる羽虫の如く、美味そうな魂に惹かれて来たのだ。


「贄贄贄。その魂を母に捧ぐ」

「戦いの邪魔をするなッ! カトンボがぁぁぁッ!」

 アマテラスは、クサナギを獣に突き刺す。躊躇など無い。哀れ獣は、うたかたの夢となり消滅する。

「興がそがれた。ここまでだ」

「仲間まで殺すのか?」

 動き出す機体。離脱するオロチに、響樹はそう問いかける。

 想い出した前世の記憶では、オロチは確かに残虐な面もある。だがそれは仲間を守る為に必要だったから。

「……」

「答えろよ! 兄貴ッ!」

「答えて欲しければ強くなれ、響樹。誰よりもな」

「待てよ! 兄貴、兄貴ィィィィ!」

 響樹の声は届かない。オロチ操るアマテラスは結界から外れ飛び去った。


 *

「フッ。また一つ強くなったな」

 それは誰に伝えたかった言葉なのか。イザナミ神が眠る海の底。ヨモツ国へ帰る道中、アマテラスのコクピット内でオロチは笑みを浮かべた。

 その表情に険はなく鬼相も無かった。

『……わたくしが寝てる間、ずいぶんと楽しめたようね。坊や』

 オロチの頰に横一列の切れ目が入り、そこから女性の声が聞こえた。

「いつから起きていた?」

『今起きたところよ。わたくしは貴方に寄生してるから、感覚でわかるの』

「おはよう。イザナミ」

「おはよう。わたくしのオロチ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ