表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

その名はオロチ(5)

「放て。――無限後光の拳よ。打ッ打ッ打ッ打ッ打ッ打ッッッ!」

 無限の拳。その技名の通り、結界内の空を拳が埋めた。

 それは数の暴力。質量の暴風雨の中、羽虫が飛び回る。

 病院周辺建物を巻き込み破壊しながら羽虫は迫り行く。そこに逃げ場所など無い。

「リリス、結界内って確か……」

「そうじゃ。壊れても問題ない。解除すれば元のままよ」

「さすが頼れる皆のお母さんだな。前世から全く変わってない」

「かははっ。変わらぬは外見だけよ。肉食えば胃もたれじゃ。儂も胃腸気にせず食いたいものよな」

「へへっ。なら高級なの食いに行くか。全てが片付いたその時に、皆で」

「そうじゃな、胃薬用意して行こうかのう」

 リリスの目がキラキラ輝く。

 刹那、リリスの操作で動きだすクサナギの黒刃に湧くは、炎に惹かれ集まり焼かれ炭となる沢山の拳。

「かっはっはっは。羽虫共には、ちと火力が強すぎたかのう」

「神殺し(ヒノカクヅチ)。イヨリに移植したその忌まわしき力は今世でも健在か」

「貴様のような悪い虫がついても困るからのう。オロチよ」

「フンッ。貴様らが不利なのは、何も変わらない」

「かっ。うぬが惰眠を貪る間、儂が何もしてないと思うたかい?」

「リリス貴様!」

「忘れたか? 儂は狂気のマッドサイエンティストじゃぞ」

「やれリリスッ!」

 響樹の合図を受けて、リリスは前方のとあるスイッチに手を伸ばす。

「チェンジ・天翔る女神ウズメッッ!」

 響樹の叫びに音声認識システムは作動し、スサノオンに変化をもたらす。

 機体を覆う装甲がパージする。

 寒さで着膨れした冬。お風呂に入るため脱ぐと痩せていた。

 それと同じで、武者鎧型装甲を外したスサノオンの素体はスリム。これでは裸のまま極寒で過ごしている様なもの。

 バナナで釘を打ち終わる前に、凍死してしまう。

「気でもふれたか! 死ねぇい!」

 再び天空から無数の拳。灼熱無限華が放たれる。

 その時不思議な事が起こった。

 パージした一部の装甲が、拳を弾き飛ばしながらスサノオンを守る盾となっていく。


 *

「フンッ。よく考えたなリリスよ。だがねぇ。無限打撃は無敵だッ!」

 ――キラン。キラキラ輝く一筋の糸がアマテラスを横切る。

「な、なにぃぃ!」

 オロチは驚愕の表情を浮かべていた。

 全天周囲モニターの背後に映るは、スサノオンであった。

「どうやってここまで……いやそれはいい。このオロチが捉えられなかっただと」

 オロチのつり上がる目が見たものは、背中から一対の翼を生やした素体のスサノオンであった。

 あの翼は今までスサノオンの装甲であったものだ。なるほど。リリスが新たに開発した武装とはこの事か。

 組み上げて造りだすブロックの玩具。そこから彼女は、インスピレーションでも受けたのだろう。

 パージした装甲は様々な武装となり、宿主により姿を変える多種多様なヨモツ獣に対抗するのだ。

「大空羽ばたく黒鋼の翼というやつか」

 深き眠りより目覚めたとき、今世での文化をオロチは学んだ。

 その中で空を飛べないスーパーロボットが周囲の協力を得て、翼を手に入れるアニメがあった。

 今のスサノオンは正にそれか。

「同じステージに立てた。ふんっ。それがどうした。大空を手に入れた代償が、その痩せ細った機体。貴様らに何ができる」

「それを今から確かめるッ!」

 スサノオンの背に魂宿した翼が今産声をあげ、アマテラスとの距離を一瞬で縮める。

「その貧弱なボディで、何が出来るかぁッ!」

 アマテラスが振り向く。だがその時、スサノオンはそこにいない。

 アマテラスの背後に移動していた。

「ちぃ忌々しい」

 オロチは苦々しく吐き捨て理解する。

「その姿、ウズメと言ったか。あえて軽装にし推進力に特化した翼を持つ事で、このアマテラスのステージまで登りつめたと」

 まとわりつく蠅を払うように腕を振り回すが、拳は空を切るばかり。

 スサノオンは常時アマテラスの背後に立つ。

「ちぃっ!」

「ふはははっ。どうだ怖いだろう。いつ背中から攻撃が来るのか。集中力が摩耗するよなぁ!」

「……フッ。僕とした事がつい取り乱してしまったな。やってみろ響樹。その自慢のウズメで、アマテラスを攻撃してみるがいい」

 今のスサノオンは身軽さが売り。

 酒場で薄布一枚で踊る孤独なダンサー。下卑た酔っぱらいの相手するしか取り柄のない踊り子。色恋以外ではターゲットの上客からチップすら貰えない、非力な者。

「アマテラスの背後を奪えても、只それだけの取るに足らない存在よ。この機体に傷一つつけられない。さぁ、ご自慢のクサナギはどうした? ブスッと一撃入れてみよ!」


 *

「ふははっ。その挑発のってやるぜッ!」

 響樹は口角を吊り上げ笑う。

 クサナギを構え、背中への一刀。だがそれは後光の拳に阻まれてしまった。

「なにぃぃ。後ろにも目玉でもあるのかよ!」

「オート……いや今のはマニュアルか。しかしモニターから背面を見ながらでも動作が早すぎじゃ!」

「フッ。いいリアクションが心地よい」

 拳達がスサノオンの四肢を掴み動きを邪魔する。アマテラスは再びスサノオンと顔を合わせた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ