荒ぶる神の王(3)
機体内に侵入してくる毒は、アマテラス・エネルギーを介して奥深くまで浸食していく。
その根が染みこみ、鬼神は動く事を忘れてしまう。
「くそっアクチュエータが、ご機嫌ななめだぜ」
ガチャガチャとテンプレ陽気なDJなみに、レバーを操るが鬼神のノリは悪い。
「お兄ちゃんどうする?」
「ぬうっ。これを試してみるか」
別にDJの真似や癇癪を起こしたわけじゃない。
毒の影響受けず正常動作する箇所を探していたのだ。
「その方法はこれだ」
響樹がコントロールパネルのダイヤルを最大まで回した。
「お兄ちゃん、それは駄目だって!」
そのダイヤルの最大値は、腹部にある動力炉のリミッターを解除する。
「……」
リリスと沙耶は何も言わない。それが何を意味するのかわかっていても。
彼女達は魂のある武具。出会った時から使い手に運命を委ねていた。
響樹の策。それは動力炉の限界を越えさせ、アマテラス・エネルギーを超強力に熱する事。
動力炉の中で真っ赤に燃える小型太陽。その力を利用し、アマテラス・エネルギーの中を泳ぐ毒を蒸発させようと、響樹は考えたのだ。しかしそれは機体内で、奥義アマテラスを放つようなもの。
このままではゴッド・スサノオンが保たない。短時間ならともかく長い時間続ければ自ら放つ超高熱で、融解し壊れてしまう。
「ッッもう少しだけ気合いれろッ! スサノオンッ! 炎の神に笑われちまうぜッ!」
「あぎぃぃるッッ!」
響樹の叫びに、機体は答えた。
毒は蒸発し、炎の咆哮と共に放熱を開始。鬼神は再び自由を取り戻す。
「ふはははッ反撃開始だ!」
「くすっ」
イザナミから笑みがこぼれた。
「何笑ってやがる!」
「直ぐにわかるわ」
「お、お兄ちゃん……あたし気持ちわる……い」
「んぐぉ……俺もだ……」
「蒸発した毒を貴方たちは吸ってしまってのよ。密閉された空間でね」
「くそったれぇぃ!」
響樹の意思に従い動きだす鬼神。右腕が腹部に伸びた。
「ぬううん!」
鉤爪のついた指先を装甲へ突っ込み、無理やり引き剥がす。
腹部バーツの体内から現れたのは、孤独の太陽。危険過ぎて誰も近づくことは叶わない孤高の存在。
取り入れた外気で酸素の循環をはかろうとする。だが転生した人の体である今世では、わずかな量でもこの毒に触れてはいけなかったのだ。
「誇りなさい。転生した龍戦士達よ。貴方たちは人の身でありながらよくやったわ。響樹、美亜」
イザナミの下半身、巨大蛇頭が不気味に動きだし、鬼神を噛み砕きながら上空へ持ち上げる。
「定命のものにとって美しく、そして我らにとって憎き太陽よ。貴方は今から起こる悲劇を見届けるというわ」
詰みだ。この状態から反撃は不可能。体内の毒で体は自由を奪われた。逃げることも許されない。
生死の選択はイザナミに託された。
朦朧とする二人に囁くイザナミの声は、子守唄。
ねんねんころりよ。おころりよ。坊やはよい子だ。ねんねしな。
「確かそんな歌詞だったか。そっちよりも光のオーロ……いやそういう場合じゃぁない」
そう言いながら結界内まで入り込む日の光を背に、長めの白銀髪を風に靡かせて黄泉津大神の背中である黄泉比良坂を通り青年が近づいてきた。
ここは戦場。賭けるのは命。ギャンブル場じゃない。それを理解してもなお恐れずに、蜷局を巻く螺旋階段を登っていく。
肉体を構成する鱗が反応し蛇と亡者へ変わり、青年の前で壁となる。
神聖なる戦いの邪魔をしてはいけないと、殺気を青年にぶつけてきた。
「そこをどけ。僕は二人の兄だぞ」
――ヒュン。
風の音が聞こえた瞬間、亡者達は故郷へと導かれた。
「う、う……そ。どうしてここへ」
「やっぱ来たのかよ……アニキ」
響樹と美亜の瞳に、銀河の海が浮かぶ。
「当然だろう。僕は長男だからな」
亡者達を屠った八又の矛先を、オロチはイザナミに向けた。
「お兄、これ以上近づいたらダメだよ。毒でやられちゃう」
「大丈夫だミア。効かないんだ、僕にはね」
「えっ?」
「アニキは俺達を守る為、あえて闇に落ちた。そうなんだろ、クソアニキ」
「フッ。この毒は同族には効かない」
「クスクス。それで優しいお兄さんは、どうするのかしら」
余裕ぶった表情から、プツプツと辛さが吹き出てくるのを響樹は見逃さない。
イザナミが嘘偽りなくオロチを眷族として迎えいれ、母として姉として恋人として、彼を愛していた事が響樹にも伝わってくる。
演技だったとしても兄に裏切られた絶望を知っているからこそ、余計にイザナミが気の毒に感じてしまう。例え前世からの宿敵だったとしても。
「……くそっ」
余計な事を考えてる場合じゃない。体内に残る毒は致死量を余裕で超えている。二人して生きてるのが奇跡なようなもの。
「ぜってぇ諦めね……ぇからな」
響樹と美亜の瞳に映るは、逞しい兄の背中。
神話の時から光御子の為に戦い続けてきた武神。本当なら彼こそが、勇者の銘に相応しい。
「もう少しだけの辛抱だ。響樹、ミア。」
そう言って一瞬振り向いたオロチは、ラガとキリンが大好きな兄の優しい微笑みであった。




