獣を超え 人を超え 今こそ見せろ 三神合体(終)
召喚などさせてたまるものか。
二体の鬼神の必殺技は、反螺旋状に渦巻く暗闇に炎という名の光を照らす。
アマテラスはというと、地上でトグロを巻きつつある泥の塊へアマ・テラスを放った。
皆、本能で理解してるのだ。少しでもダメージを与えなければ。
もし完全体の黄泉津大神が受肉すれば、神話と同じ結末となると。
それは超古代文明高天原ムーとアトランティスに起きた悲劇。大陸は沈没し、鳥は空を捨て人は笑顔を無くす。暗黒時代の再現である。
「ちぃぃ。化け物が丈夫過ぎんだろ」
響樹が毒を吐くのも仕方ない。
三鬼神の攻撃は薄皮を一枚一枚剥いでいく行為に等しく、ゴールは果てしなく遠い。
それでも確実に距離をつめていた。
「攻撃終わりかしら?」
闇からイザナミの声が響く。
手は尽くした。これ以上の攻撃は、無駄にエネルギーを消費するだけ。
だがしかし……。
「何いってやがるッッ! ここからが本番に決まってるだろうがぁぁッッ!」
このタイミングでしか無い。イザナミが黄泉津大神となる一瞬の隙。三鬼神が一つになれるのは、この刹那の時以外無かった。
「みんなの魂ッッ! 俺が預かるッッ!」
「うんっ!」
「はい!」
――ジャコン。
スサノオンのコクピット頭上から、Tの字型のレバーが降りてくる。
先陣を切り空を飛ぶスサノオンに急激なGがかかり、響樹の意識は激しく揺れる。
転生以来久々だ。魂は神。龍族そのものでも、器自体今世の人間。
肉体を襲う衝撃は、想像の遥か先を超えていた。
「うぐっううっ!」
内出血した白眼から血が滲み、視界は霞む。
ついにこの時が訪れた。正直来ないで欲しかった。
当然だ。誰もが皆、笑って暮らせる世界を望む。
「その世界を手に入れる為に俺は俺達は……」
「深呼吸じゃ。お主たちならやれる!」
腰に帯刀してるムラクモから、リリスの声が脳内に響く。
コンマ零秒にも満たないが、響樹は気を失っていた。
「わかってるぜッッ! ばばあ。来いッ美亜ッッ!」
「うんッ! あたしは今まで寝てたんだコンディション最高だよッ! お兄ちゃんッ!」
ツクヨミのボディ中心から縦に分離し、スサノオンの後を追う。
「沙耶さんッ!」
「はい! 響樹くんッ!」
アマテラスの翼はそのままに、胸部ハッチが開き収納されていた左右の腕パーツと兜がせり出し、スサノオンの頭上を同じ速度で飛ぶ。
これで準備は整った。
「三・神・合・体ッッッ!」
三人の使い手の声が重なり、響樹は頭上のレバーを手前にスライドした。
結界バリアが三鬼神を護る中、スサノオンは蒼い輝きに包まれ足首が真っ直ぐになる。
ツクヨミは月のように形を変え、赤い光を放ちモーフィング変形すると箱形の足となり蒼い足首を呑み込む。
「行きますッ!」
沙耶は高まる高揚感で頬を染め、白い翼で背後から抱きしめる。
スサノオンの腕は折りたたまれ厳つい肩に変わると、その代わりアマテラスに収納されていたゴツイ腕がはまった。額にダイヤ型の装飾が入る兜を手に取り被る。
「三位一体ッ! ゴッド・スサノオンッッッ! ここに光臨す!」
緑色に瞳を輝かせ、合体は無事完了。
三体の鬼神は一つとなり、邪悪なる侵略者の前に立ちふさがる。
「くすくす。あの時神話の時代以来かしらね。その姿を見るのは」
イザナミもまた黄泉津大神との合身が済んでいる。
トグロを巻く蛇の末端が見えない。それだけ超巨大という事だ。毒蛇を象徴する三角頭の中央に、銀の鎧を纏う美しい女性の上半身があった。
死を司る女神イザナミだ。
その姿は先ほどまでとは違い、骨でも皮でもない。
真白い肌。つり上がった瞳は紅い。
兜をかぶりそこから蛇で出来た長い髪の毛がウネウネと蠢く。
口角は耳まで裂けているが、その美しさに陰り無し。
「出し惜しみは無しだ。全力でいくぜ。沙耶ッ!」
「はい! 主様」
ゴッドスサノオンの背中に合体してるアマテラスから、沙耶の姿が消えた。
「抜刀」
左右の鞘から引き抜くは、ムラクモとクサナギ。
「思い出させてやるよ、イザナミ。双子の刀の力をよ」
ムラクモとクサナギが螺旋状に重なり、一本の刀となり真の姿を具現化させる。そいつに斬られるものは、消滅を意味する。その銘は、神殺し・焔のヒノカクヅチ。
「そうそれよ。わたくしが、唯一恐怖する対神対魔兵器」
イザナミは汗で濡れた掌を見せる。
鱗で覆われた体はガタガタと震えていた。
恐いのだ。神であろうと。この宇宙で死ねば虚無となる。転生もなく、魂も生きた証しも思い出も全てが忘却の彼方。
前回のバトルではオロチの采配により痛み分け。それが無ければイザナミは海底に封じられず、虚無に吞まれていた。だからこそ今世でも彼を信じ、母として姉として恋人として愛した。だが……とイザナミは不安に襲われる。
それすらも今日この時の為の作戦だったとしたら。
考えすぎかも知れない。それでもゾクリッと魂は悲しみで震えた。
「ぬっ」
イザナミの様子が変だ。両者共に合体は終わり、今から神と鬼のアーマゲドンという状況で、心ここにあらず。
強者としての余裕か。いや先ほど見せた掌の汗はブラフじゃない。
「お兄ちゃん?」
「……ふはははっ。やぁぁてやるぜぇぇッッ!」
止そう。頭を使うのは、頭突きの時だけでいい。
響樹は口角をつり上げ、アクセルペダルを強く踏み込んだ。




