獣を超え 人を超え 今こそ見せろ 三神合体(3)
「オロチお兄さん、あれ見て」
旭は結界の中で、天上天下唯我独尊と光り輝く幻想を見た。
蜃気楼と思ったが、点であったものは針の穴となり、ドンドンと大きくなっていく。
それは実体のある巨大な何かが、物凄い速度で近づいてくる証であった。
「あぁっ。何の為に僕は、お前を眠らせたと思ってる。まだそのタイミングじゃぁない」
オロチはその正体を知っているのか。やれやれと頭を抱え込む。まるで、年の離れた妹の悪戯を怒るに怒れない。
そんな態度に旭は感じた。
二人は知らない。今結界の外の病院では、患者さんがいなくなったと大騒ぎだと。
患者。即ち御門美亜。長い眠りから自らの意思で美亜が覚醒したのだ。
「今ならわかるよ。霊体にして、あたしを護ってくれていたんだよね。オロチ兄。ありがと」
美亜が全天周囲モニター内でレバーを握り操縦するは、深い海底の地中で隠されていた第三の鬼神。その銘は真紅のツクヨミ。
大空。海原。地の底までも泳げる真紅の超巨大鯨が使い手の目覚めと共に、ついに復活したのだ。
「あたしだけじゃない沙耶姉も。イザナミに寄生させたのも、お姉の肉体を獣から護るため。でもさ、もう皆が苦しんでるの黙って見たくないよ。あたし達だって戦える。待っていたんだ。この時が来るのを信じ、お兄は裏切り者の名を受けても転生の契約を結んだ! そうだよねオロチ兄ッッ!」
*
「随分と騒がしいわね」
「よそ見してんじゃねぇッッ!」
蛇腹にしなるムラクモがクサナギに絡みつく。
「イザナミ。お前じゃアマテラスを操れねぇよ。その歪な外見をよく見てみやがれ」
「蛇カワイイわ」
――ニイイッ。
沙耶の顔で、口角を耳までつりあげ笑う。
「確かに沙耶は最高にカワイイぜッ! だがそこじゃねぇ! 姿だ姿ッ!」
「あぁ。これ? だって仕方ないじゃない。鬼神を操りながらクサナギもだもの。作戦が大幅に狂ってしまったわ。当初の予定では操縦はオロチに任せ、わたくしは今のリリスと同じ様に、神殺し(刀)になっていたのに。全くあの子ったら何処で道草喰ってるのかしらね」
コクピットにいる沙耶の姿は人ではある。しかし中身がスカスカと言えばいいのか。
沙耶の姿はハリボテ。内側の部分がクサナギに変化してる状態であった。
「そんなハンパな状態で、俺様とババアに勝てるわけあるかッ!」
スサノオンの拳が、アマテラスの顔面にめり込む。
「――待っていたんだ、この時が来るのを」
二つの機体、遥か頭上に日輪は射し、美亜の声が響き渡る。
「今だッ 沙耶姉ッ!」
美亜の合図。それは日数をかけて完成したドミノを倒す背徳と興奮、高揚感そのもの。
「……おはようございます」
精神世界で静かに座して、刻を待ち続けた沙耶も覚醒する。
ゾワリ。沙耶の姿したツクヨミの首に死神の刃が当たる。受肉して理解してる。これは恐怖だと。
人は臆病だ。脆く弱い。だからこそ多種多様の生存競争で生き残り、地球の王となれた。
イザナミが恐怖するもの。それは勇気だ。
零を壱にする力。
最初の一歩を踏みだす。それこそが世界を進化させられる唯一のモノ。
イザナミはそれを望まない。
人は決められた安全な道だけを歩けばいい。勇気が無くちゃ進めない世界など必要ないのだから。
「ついに見つけたわ! 鬼神ツクヨミッ! あなた邪魔なのよッッ!」
三鬼神が一つになれば百万パワー。人々に勇気を与える存在となる。
そんなことさせない。少しずつ肉体が剥離していく。イザナミの魂は、沙耶から離脱しようとしていた。
その前にせめて、アマテラスを破壊してやる。
ドクロマークの描かれたスイッチが目に飛び込む。
これは自爆ボタンだ。
「ポチッと……」
「させませんッ!」
イザナミの全身に激痛が走る。沙耶が放つ薔薇の蔓が、魂に絡みつき動きを無理やり止めさせた。
「黄泉の牢獄へ帰りなさいッッ!」
薔薇の棘。その正体は姿を変えたクサナギ。
全てを取り戻した沙耶の一撃は、イザナミの魂がズタズタになるまで、神殺しの刃で切り刻む。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
沙耶の背後から、髑髏姿の痩せ細った枯れ木の霊体が飛び出し苦しみだす。
これこそが、イザナミの魂なのだろう。
沙耶は神殺しヒノカクヅチの化身。彼女が最も苦手とする天敵。
このままでは狩られてしまう。
霊体はアマテラスから脱出すると、全力で逃げだした。
「熱い。熱いわ。わたくしの魂を漆黒の炎焔が焼いていく」
このままではいけない。待っているのは虚無だ。それだけは駄目だ。可愛い我が眷属達までも、巻き添えになってしまう。
「わたくしを信じ、ついてきたあの子達だけでも、この世界から逃がさなければ」
その為に出来ることはなんでもする。
見えた。あの教室の窓から輝く贄の光。あそこに旭はいる。当然結界が張られているだろう。この衰弱した魂で飛び込めば、自殺行為だ。
それでも一か八かだ。旭を喰らいイザナミの本体、蛇神黄泉津大神を召喚する以外、生き残る選択肢は無い。
――スウッ。
近づくイザナミの気配に気づいたオロチが静かに窓を開き、旭を見せた。
「あぁ。オロチ愛しい人。わたくしの為に贄を捕まえてくれていたのね」
骨と皮だけの両腕を大きく開き、オロチに抱きつこうとした瞬間だった。
――斬。
胸部。内蔵も何もない空洞に、黒鋼の八又に広がる槍が突き刺さる。
刺した相手の名は八又の使い手、オロチ。
失われし龍の国ムーの第一皇子。




