獣を超え 人を超え 今こそ見せろ 三神合体(2)
「そうなのか! ふはははは! 俺の名は御門響樹。何処にでもいる普通の高校生だ! リリスお前も俺の女になれ! 沙耶、ミア、リリス三人で仲良く俺とウハウハよッッ!」
「カッハッハッ。言葉の意味はわからぬが、とにかく凄い自信じゃな。そういうところじゃ我が主よ。お主は最高の漢じゃ!」
「くすっ。わたくしも好きよ。あなたのそういうところ」
「……ならば争うのやめて、お前も俺の女になれ。そういう選択があってもいいだろうが」
「素敵なお誘いね。でも駄目よ。わたくしには使命があるの。この世界は虚無に支配されている。命を失ったものが訪れる場所は、無限の牢獄。転生する事も許されず、愛する者達は二度と会うことさえできない。それがこのイザナギ宇宙のルール。そんなの悲しすぎるじゃない。わたくしの目的は、虚無から無垢な魂を救うこと。死は救いなの。真面目に生きてきたものは転生し、死の住人となり報無垢われるのよ。イザナミ宇宙でね。
「戯れ言を」
「わたくしは蛇神イザナミの分身。嘘は言わないわリリス」
「イザナギ宇宙では転生しないと言ったな。ならば何故ラガとキリンとイヨリは、今世に転生した?」
「そういう契約をしたのよ。神話の時代、わたくしの本体と。あなたの兄、オロチがヨモツ族になることと引き換えにね」
「どうして兄貴はそんな契約を」
「わからないかしら? 報われない愛を今度こそ手に入れたかったのよ。転生してでもね」
「たわけが。そんな事したところで、願いが叶うなんて保証はない。人の気持ちは神ですら、コントロールできぬ」
ここまでは響樹でも理解できた。だが一つだけわからない。
「神話の時代、兄貴は契約を結んだが、結局はお前らを裏切った。そのオロチを何故今も信じてる?」
「家族だからよ。あなたなら理解できるでしょ? 響樹の坊や。裏切られても、わたくしはオロチを信じている。あの子のせいで本体が封じられていても、わたくしの彼への愛情は変わらないの」
沙耶を通して映るイザナミの瞳は、慈愛に満ちた母の愛に包まれている。そこに偽りなど無かった。
「へへっ。気に入ったぜ、イザナミ。アンタを」
「わたくしもよ、坊や。きっと違う世界線では、わたくしたちうまくやれてるかもね」
――にいいぃぃぃ。
二人は共に口角をつりあげ、拳を突き出し笑った。
「俺はアンタと戦ってみたい」
「わたくしもよ。坊やの情熱をたっぷりと味わってみたいわ。この身でね」
「勝負だッ!」
*
朝比奈旭は自分のクラスにいた。
「うーん」
旭は唸った。何故だ何故誰も教室にいない。もう一限目が始まってもいい時間だ。
もしかして創立記念日。ぴこんと頭に電球が光る。
いやいやいや無いわー。それはないわー。
通学中、沢山の生徒とすれ違った。その中にはセンパイもいた。
ならばと旭は腕を組み、無い知恵を絞って考える。
リリスの言った言葉を思いだす。
――教室から出るな。
「結界?」
それなら合点がいく。
旭は贄に選ばれている。偉大なる母に褒められる為、我先にとその景品を獣たちは求めるだろう。
「でもね。ごめんリリスおばあちゃん。わたしだけ、大人しく教室に隠れるなんてできないよ」
結界を張るということは、もう戦いが始まっているという事だ。
扉を開けば地獄が待っている。
「これがセンパイなら、行こうぜ閻魔。地獄の扉を開けてくれッ!」
――ガラリ。
「なんてね」と言った瞬間、教室の扉がスライドする。
そこにいたのは、黒いロングコートを靡かせた白銀髪の青年であった。
「じ、地獄の扉……」
哀しみの湖に浮かぶ漆黒の瞳が旭を見つめ、言葉を繰り返す。
「いやいやいやいや。なんでもないです。でかいひとりごとです。忘れて忘れてください」
物凄い早口で言い訳する旭の顔は、真っ赤に茹で上がる美味しそうでトレビアン。
「次に君は、ここが地獄の入り口。三途の川だと言うつもりかな」
「はっ!? 何故そのセリフを知ってるの。格好いいアニメ声のお兄さん」
アニメ。そう敢えてアニメと強調して旭は言った。これで通じれば話しはスムーズに進む。
「もしかして君もアニメ好きかい?」
来た。無言のガッツポーズ。旭は早口で、いや滑らかな口調で語りだす。
「なるほど。僕はアクママン漫画とアニメ版しか見てないが、実写にもなっているのか。今度見てみるよ。旭ちゃん」
「いやアレはアレだけはダメです。オロチさん」
「血、血の涙! そこまでアレなのかい!」
「そこまでアレなんです!」
楽しい。好きな共通な話しが出来て。それだけでも、恐怖が和らぐ。
結界に護られてるとはいえ、ここは戦場の真っ只中。
一人なら怖い。でも謎のイケメンアニメ声のお兄さんの存在が、旭に勇気を与えてくれる。
それがヨモツ獣を遠ざける。奴らは恐怖を糧とするからだ。
「オロチさんも関係者だよね。ここにいるって事は」
「うん。僕は羅……響樹と美亜の兄だ。贄の少女よ」
「ひっ!」
旭は引きつった声をあげて、一歩後ろへ下がった。
旭は見た。オロチの後方から湧き上がる魑魅魍魎の獣の軍団を。
旭は見た。オロチの背後で蠢くものたちを。
ねちゃねちゃ、粘つく粘着性のある臭気をまき散らす外気は、蠅取りテープのよう。旭は体に絡みつく錯覚を感じ、これがいわゆる触手プレイと冷や汗を流す。
「ひっひっひっ、八魔龍オロチさまぁ。一口一口でいいのでこの贄を我にぃ……」
――斬。欲望を吐き出す前に食いしん坊のヨモツ獣は、オロチの八又の槍に貫かれ灰となる。
「この贄は超極上。貴様らが指一本触れていいものではない」
ギロリ。猛禽類の鋭い目は、ひとにらみで震えを起こす。
「ひいいっ、我らが愚かでした。八魔龍様。その娘は母に捧げる大切な生贄。天に向かって唾を吐くなど許されないのに」
「他にいるか?」
「いえ。二度と我らは欲しがりません」
「そうではない。今世で受肉したヨモツ獣は、他にも残ってるのか」
獣達は一斉に首を振る。
「そうか。なら丁度いい」
――とんっ。オロチは旭をいい感じの力で押し、教室の扉を閉めた。
「えっ? オロチさん? えっ? えっ?」
オロチの行動に旭は理解できず、魔力で固く閉ざされた扉を叩いた。
考えろ。そのための頭だ。旭は普段使わない脳をフル回転させる。
オロチはヨモツ獣を連れてきた。獣は彼を八魔龍様と呼んでいた。ならばオロチは敵なのか。
いや落ち着け。そう考えるのは性急すぎだ。
扉は開かない。これはリリスの魔力だ。オロチはそれを知っていて、この教室に旭を閉じ込めたとしか考えつかない。
もし敵ならばその必要もない。ひとにらみで、ヨモツ獣を押さえつける程の実力者。
オロチが命令しない限り、獣達は旭を襲わないのだから。
「わたしを護るため……そうでしょ。オロチさん」
「僕は大切な人を失う悲しみを知っている。ただそれだけだ」
「……どういうつもりですか、八魔龍様。いやオロチ。貴様、我らを母を裏切るつもりか!」
扉越しでもわかる。獣達の殺意と怒りを。
オロチの強さを知っていても譲れない想いが、ヨモツ獣にはあるのだ。
全てはイザナミのために。
「ねぇ、なんで?」
旭は再び疑問を口にする。
そうヨモツ獣たちには命を賭ける理由がある。しかしオロチには旭を護る理由がない。
初対面。響樹の兄というだけで、旭とは接点がまるで無い。
無理にあげるとすればアニメ好き。いやいや流石にお花畑過ぎるか。
「君は暗闇の中で輝き続ける鏡。その光は、害虫をおびき寄せるのに丁度いいのさ」
「むむっ。なら大物を釣ってみせてよ」
「あぁっ。彼の変わりに僕がコイツらをやる」
あぁ。その一言で、旭の胸は熱くなる。
この人は力無き旭の変わりに、ケイの敵を討つと言っているのだ。
八又の矛が群がるヨモツ獣を、次から次へと灰にしていく。
旭は室内に張られた結界の中で祈るしか出来ない。
オロチは強い。それでも集団戦だ。どんなに力があっても質量にはかなわない。
無能力の弱者である人類が、地球の王として存在できるのも繁殖力の高さ故。
「響樹センパイ。リリスおばあちゃん。何処にいるの。オロチお兄さんを助けてあげて。このままじゃ……」
――スサノオン・ビィィィムッッッ!
外から聞こえてきたのは間違いなく響樹の叫び声だ。
旭は光り輝く窓まで走りだすと、空を見上げた。
*
蒼い機体の鬼神スサノオンと、真白い機体のアマテラスがバトルをしている。
額に四本角。つり上がる瞳。フェイスマスクから覗く耳まで裂けた口角。正に鬼としかいいようのない響樹とリリスが使い手のスサノオン。
額に長く伸びた一本角。頭部真横耳にあたる部分は白鳥を連想させる純白な一対の翼。
丸みを帯びたボディラインは、美しき女神。
その使い手は、寄生したイザナミ操る今世での光御子の沙耶だ。
二体の鬼神の利き腕には、双子の黒と闇の神殺しの刀。アマテラスがクサナギ。スサノオンがムラクモを握っていた。
「始まったか」
後ろからオロチの声が聞こえた。
彼がここにいるという事は、イザナミを除く全てのヨモツ獣を殺したという事。
「無事でよかったオロチお兄さん。怪我は?」
「大丈夫さ」
汗一つかいてないオロチは、旭の隣で立ち止まる。
「見届けようか。神々の戦いを」




