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三神合身スサノオン  作者: キサガキ


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4話 獣を超え 人を超え 今こそ見せろ 三神合体(1)

 號號號と豪快に寝息を叫びながら、響樹は自室のベッドで大の字になっていた。

「お兄ちゃん」

 空耳か。厄災からまだ一ヶ月しか経過してのないのに、とても懐かしい声が聞こえた。

「お兄ちゃん起きてよ。学校遅刻しちゃうってば」

 美亜が耳元で囁いているのだ。

「ぬおおおおおおッ! 美亜ではないかぁぁッ!」

「あぁぁん、お兄ちゃん朝から元気ぃい」

 響樹は美亜を押し倒し、唇が触れるギリギリまで顔を近づけた。

「もうあたし、どうなってもいい」

 ツインテールがザワザワ蠢き、響樹の逞しい体に絡みつく。

「ふはははは。ずいぶん激しいハグじゃあないか」

 にいいっ口角をつり上げ笑う。

「なんで泣いてるの?」

 美亜にはお見通しか。響樹は笑顔の仮面を被ってるに過ぎない。兄だから妹の前で泣いてはいけない。幼い頃からそう決めていたのに。

「お前がいないからな」

 正直に気持ちを吐露する。

「今からそんなんじゃ、あたしがお嫁に行ったらどうすんの」

「号泣して世界を破壊するぜ」

「えへへ、そうなったら世界大変だし、仕方ない。あたし一生お兄ちゃんの側にいないとね」

 ふわり。美亜の背中に十二枚の黒い翼が生えて、響樹から遠さがっていく。

 幸せな夢もこれで終わり。目覚めるのは悪夢。辛い現実が待っている。

「信じてるぜ美亜、お前が帰ってくる日をよ」


 校庭を歩いている。響樹の足取りは軽い。幸せな夢を見たんだ。眠気など忘却の彼方であった。

 おはよう。おはようございます。おはよ。

 同級生から先輩後輩達。年齢差関係無く響樹と顔を合わすと、皆が気楽に挨拶してくる。

 裏表のない響樹は単純な脳筋。それ故に感情がわかりやすく扱いやすいのだ。

「おぅ、おはようだぜ」

 ご機嫌で響樹も皆に手をあげ反応する。

「ほぅ」

 響樹の前方少し離れたところを、明るめの髪色したセミロングの少女が歩いているのを見かけた。

 朝比奈旭だ。ケイの一件以来すれ違いばかりで会話をしていない。これはコミュニケーションを取れという、神の導きなのか。

「おしっ」

 響樹は気合いを入れ、襟をただすと旭の元へ急ぐ。


 *

「旭、おはよう。久しぶりだな」

 ビクッ。いきなり声をかけられて、旭の肩は小刻みに震えた。

 まさか響樹と顔を合わせるとは。

 もう少し時間をずらせばよかったかと思う反面、今会えてホッとしている自分もいる。

 それでも口を開けない。開けば呪いの言葉を浴びせてしまう。

 ケイが死んだのは、響樹のせいじゃない。恨むのはスジ違いだ。それは充分理解している。

 悪いのは自分だ。ケイと付き合わなければ、自分が贄となり大人しく喰われていれば彼は生きていた。

「そんなことないぞ! 旭!」

「えっ? わたし何も……」

「言わなくてもわかる。お前は、わたしのせいだと悩み苦しんでいる」

 ホントこの勇者様は……人の気持ちを考えてない。無断でグイグイと入り込み土足で心を踏みにじる。

「ふぅ」

 旭は呆れ溜息をつく。 

「わたしが大人しく贄になってれば……」

「ぬんッ!」

 それ以上は言わせないというばかりに、響樹は足下を全力で殴った。

 メコリ。拳の形にアスファルトはへこむ。

「ええっ! えええええ! 何してるのセンパイ! バカでしょ!」

「そうだ。俺はバカだからな。こうでもしなきゃ、お前を黙らせる事が出来ない。聞け。悪いのは全て、イザナミだ。お前の怒り憎しみ悲しみが、魂を曇らせていく。ヨモツ族にとってそれは、最高のごちそうだ。いいのか。それで! 旭は悔しくないのか!」

「悔しいに決まってるでしょ! わたしだってセンパイたちみたいに力があればッ!」

 響樹の胸に拳を叩きつける。

「なんでなんでなんで! わたしには戦う力がないんだ! 龍の一族の血を引いているのに! 悔しいよ!」

 殴った。殴った。ひたすらに響樹の肉体を痛みつける。それは旭の拳の皮が破れるまで続く。

 それを目撃した生徒達は止めに入ろうとするのだが、響樹が無言で首を振り拒否した。

「悔しいよセンパイ」

 旭は泣き顔をギャラリーに見られたくないと、響樹の胸部に顔を埋めた。

「あぁ。俺もだ旭。必ずイザナミを狩ってやるぜ」

 響樹も涙を流していた。涙と鼻水まみれで泣いている。旭はそれを汚いとは決して感じなかった。同じだ。この人も。大切な人達を失い、その心は悲しみで溢れているんだ。

「センパイ生きよう。生きてればきっと、その時が訪れる」

「あぁ、そうだな」

 響樹の逞しい腕の中で旭は誓う。

 辛くても決して負けない強い心を持つと。


 *

「響樹、旭」

 校内の洗面所で顔を洗う響樹達を待っていたのは、リリスであった。二人の名を呼び手招きする。

「ばばあ」

「リリスおばあちゃん、どうやって中に」

「この学校には、貸しがあるからのう」

 いじわるな魔女は右指で円を作り、ヒッヒッヒと笑う。

「響樹を借りるぞ。旭、お主は教室へ行け。決して出るではない」


 リリスに連れられて響樹が来たのは、高等部三年の教室であった。ここは沙耶のいるクラスである。

 覗くと中心で人盛りが出来ていた。

 主役は沙耶だ。

 学校にはしばらく病気で休むと、連絡をいれている。その彼女が久々に登校してきたのだ。今日のメインを張るのは自然な事。

 それが本当に沙耶であればの話しだが。

「あっ、御門くんだ。愛しい彼女が心配で見に来たの?」

 クラス委員長の眼鏡女子が、響樹に気づき声をかけた。

「おすっ。センパイ!」

「えっと、その後ろの黒ワンピの子は、暁さんの妹さんかな」

「母じゃ!」

「そうなんだぁ。すごいねぇ。お姉ちゃんを心配して来てくれたんだね。髪は地毛? 真っ赤でかわいいよ」

 もちろん誰もが子供の冗談だと思い笑っている。委員長がリリスをいい子いい子してるの見て、場は和み穏やかな時間に舌つづみを打った。

「おはよう、母様。響樹くん」

「えーえええ! ホントにお母さんなんだぁぁ!」

「かっはっはっは。いつも娘と響樹が世話になっておるのう」


 メインの座はリリスを選ぶ。もみくちゃにされるリリスの紅い瞳が、響樹に「何とかせい」と訴えかけていた。

「ごめんなさい。皆さん、いきなり母が押しかけてきて」

 響樹より先に沙耶は頭を下げ、二人の隣に並んだ。

「ぬっ!?」

 響樹は感じた。野生の本能か、それとも前世のしがらみか。淫らに手を絡めてくる沙耶から感じるは、冷たい牢獄。

 いる。太陽の光が届かない深く青緑の海底と龍を形つくる大地の狭間に、女神が。

 神話の時代、そこに張られた大結界ヨモツヒラサカへ封じこめられた邪悪なる蛇神が、今もそこで目覚めの時を刻み微睡む。

 不味い。このままでは魂が、深淵の縁に呑み込まれてしまう。

 ――パシッ。慌てて響樹は沙耶から手を離す。

「うふふ。もう響樹くんたら。皆の前で恥ずかしいんでしょ。ウブなんだから。可愛い」

 確信した。イザナミは沙耶に寄生している。そしてリリスもそれに気づくと動きだす。

「鬼道結界術、地獄門」

 周辺の空間は切り取られ、三人はズレた世界へ移動する。

 そこに今いるのは、ムーの子孫である龍と火の一族。そしてヨモツ族のみ。

「なにようじゃ、蛇神イザナミの分身よ」

「少しお話ししたくて」

 ――クスクス。何がそんなに可笑しいのか、沙耶の顔で微笑む。

「嫌じゃと言ったら?」

「無駄に命が散るわね」

「ウオオオオオッッ! 美亜を返せッッッッ!」

 やっと見つけた。前世からの宿敵。

 恐怖。恐れ。戦わずともわかる圧倒的な力。ありとあらゆる足枷が、響樹を拘束しようとする。

 それがどうした。この怒りの炎は、そんなものじゃ絶対消えない。

 響樹は背後から、スサノオンの腕を召喚する。


 目の前にいるのは中身は違えど沙耶だ。しかしここで躊躇すれば、間違いなく殺されるのは響樹の方だ。

「ウラァッッッッ!」

 鬼神の拳が沙耶を打つ。

「わたくし(沙耶)を殺すの? 響樹くん」

 沙耶の右腕がモーフィング変形し、クサナギとなり刃で拳を防御し微動だにしない。

「冷静になれ。主様」

 強く噛み締めるリリスの唇から、血が滴り落ちていく。

「話しとはなんじゃ」

「要件は二つね」

 イザナミは指を二本突き立てる。

「一つは、旭をわたくしに喰わせて。そうすればあと数年、大人しくしててあげる。空腹のイライラで無関係の人間達に八つ当たりもしないと誓うわ。次にもう一つ。美亜とツクヨミを何処に隠してるの?」

「な、なんだと」

 そう言いたいのを響樹は呑み込む。美亜をさらったのはオロチ独断でやった事なのだ。


『響樹……僕は……』


 先日、対アマテラス戦で頭部と頭部がぶつかり合ったとき、ボソリと脳内に聞こえたあの言葉。あれは空耳じゃなかったのだ。

(……兄貴)

 泣きそうになるのを悟られてはいけない。

 イザナミにバレては全てが無駄となる。響樹は仮面を被り、平静を装う。


「さてのう。儂らも探してるのじゃ。そんなに鬼神が三体揃うのが怖いなら、イザナミよ、宿主(沙耶)の記憶を読んでみるといい」

「残念ながら無理だったわ。流石、光御子ね。でも面白いことがわかったわ。リリス、あなた残酷ね。自分のスペアの体に、イヨリの魂を受肉させるなんて。まさかあなた、沙耶に代わって坊やに愛されたいと思ってるのかしらね。前世のように。クスクス」

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