アメリは何でも興味を持つ
この日、ヴィレーム子爵邸に手紙が届いた。
アメリの生家リシュリュー公爵家、ヴィレーム子爵家の両親、ノアイユ伯爵家からだ。
リオネルがアメリを保護している旨を伝えていたのだ。
アメリにも、状況を報告する手紙を書いてもらっていた。
手紙によると、アメリが遊びに来ていたノアイユ伯爵領でトラブルが発生したので伯爵家からの迎えは難しいとのこと。
また、リシュリュー公爵家からは一週間後アメリを迎えに行くからそれまで彼女をヴィレーム子爵邸に滞在させて欲しいとのこと。
ヴィレーム子爵家の両親からは、アメリやリシュリュー公爵家に失礼がないようにとのことだ。
ちなみに社交シーズンなのでヴィレーム子爵家の両親やリシュリュー公爵家のアメリの両親も王都にいる。両家の両親はリオネルやアメリからの手紙を読み、社交界で情報共有しているそうだ。
(一週間後、お母様達が私を迎えに来る。一週間しかここにいられないのね……)
アメリは両親からの手紙を見て少しだけ肩を落とす。
だった一日過ごしただけで、ヴィレーム子爵家での暮らしが新鮮でとても楽しいと感じているアメリだ。
(いえ、一週間もここにいることが出来るわ)
アメリは切り替えてゆっくりと立ち上がった。
リオネルから安静にするよう言われていたが、ヴィレーム子爵家にはアメリにとって見たことがないものばかり。穏やかで刺激は少ないが、好奇心がくすぐられるアメリである。
ヴィレーム子爵家の自分の世話は自分でする方針に驚いたアメリ。最初は着替えすら上手く出来ずオノリーヌに助けてもらっていた。しかし、すぐにコツを掴み、着替えなら自分で出来るようになった。
アメリは今まで使用人に任せきりの生活だったので、改めて彼らのありがたみを感じたと同時に自分の力で色々出来ることがあるのではないかと思い始めるのだった。
アメリは挫いた足に負担がかからないようゆっくり歩き、リオネル達が向かった畑に行く。
「アメリ嬢、どうしてこちらに? 安静にしておかないといけませんよ」
アメリの姿を確認したリオネルは困ったように苦笑している。
「ごめんなさい。リオネル様達が何をしていらっしゃるのかが気になりましたの」
アメリは少し肩をすくめて悪戯っぽく笑う。
「仕方がないですね」
リオネルは諦めたように軽くため息をついて苦笑した。
「今は野菜の収穫をしています。ナスが実っていますので」
アメリはリオネルが示した場所を見る。
艶々とした紫色のナスが大量だ。
リオネルは丁寧に実ったナスを付け根からハサミで切って収穫する。
「リオネル様、私もやってみて良いでしょうか?」
アメリは疑問系ではあるものの、やりたくて仕方がない様子だった。
リオネルはまるで予想していたかのようにアメリに手袋とハサミを渡す。
「新鮮なナスのヘタには棘がありますから、手袋を着用してください。刺さったらかなり痛いですよ。実は付け根から切ってくださいね。手は切らないように注意してください」
「ありがとうございます」
アメリはパアッと表情を明るくして軍手とハサミを受け取った。
そしてアメジストの目をキラキラと輝かせながらナスを収穫する。
リオネルのヘーゼルの目は、幼子を見守るかのような眼差しであった。
「アメリ嬢、そのナスはまだ収穫するには早いです。こちらのナスを切ってください」
「分かりましたわ」
アメリはリオネルの指示に従い、収穫している。
(私達が食べる食材は、このように育つのね)
初めて知ることばかりでアメリのワクワクは止まらない。
「あ、この区画はいつもより萎れているな……」
リオネルは立ち止まり、しゃがんでナスの葉や茎の様子を見る。
「そうですの? ……他と変わらないように見えますが」
アメリはきょとんとしてアメジストの目を丸くしている。
「毎日見ていると、同じように見えて違う部分がありますから。多分ここだけ水やりの量が足りなかったのでしょう。昨日は日差しが強かったですし、影響が出たのでしょうね」
「同じように見えて違う……」
アメリはポツリとその言葉を呟き、ナスに目をやった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
アメリは他の野菜の収穫をしたり、ミルク工房やチーズ工房の様子も見学した。
初めてのことばかりでアメジストの目をキラキラと輝かせっぱなしのアメリ。その表情は活き活きとしていた。
昼食にはリオネルが作ったクロックムッシュに舌鼓を打つアメリ。
リオネルはそんなアメリを優しく見守っているようだ。
充実した時間が過ぎていく。
「そういえばお兄様、ケチャップも切らしておりましたから、また作る必要があります」
ふと思い出したかのようにオノリーヌがそう切り出す。
「ケチャップって、トマトを使ったあのケチャップですの?」
アメリはきょとんと首を傾げる。
「ええ、そうです」
オノリーヌが答えると、アメリは目を輝かせた。
「ケチャップまで作っていますのね。私も作って見たいですわ!」
好奇心旺盛なアメリはワクワクとした様子だ。
「煮るのは僕がやるから、オノリーヌはアメリ嬢とトマトを切って潰すのを頼むよ……と言いたいところだけど……」
リオネルは少し考える素振りをする。
「アメリ嬢は包丁を使ったことがありますか?」
「いいえ、ありませんわ」
「やはりそうでしたか」
アメリの答えを聞き、リオネルは苦笑した。
リオネルが包丁の使い方を丁寧に教えてくれたので、アメリは早速トマトを切ってみるのだが……。
「アメリ様、その持ち方では指を切ってしまいますよ」
アメリの隣にいたオノリーヌはハラハラした様子だ。
「アメリ様、少し失礼しますね」
リオネルがアメリの後ろに周り、アメリの手に自身の手を重ねる。
アメリの小さな手は、リオネルの大きな手に包まれた。
リオネルの温かな体温が伝わり、アメリはドキリとする。
心臓が少し煩くなった気がした。
「アメリ様、こうですよ」
リオネルはアメリが手を切らないよう、自身の手を重ねてトマトを切る。
使い方を覚えようと必死なアメリだが、少しだけ頭がぼーっとしてしまう。
(リオネル様の手……温かい……。優しい手だわ……)
頬を赤く染めるアメリだった。
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