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ツイタ王国からエクス王国になりました!?どうやら異世界出身の勇者が世界を救ってくれたようですが……。

作者: 名録史郎


「今日からこの国の名は、ツイタ王国からエクス王国になりました」


 なんか村に国のお偉いさんが来て唐突にそんなことを言いました。


 まさか自分が住んでいる国の名前が変わるとは思っていなかったので、みんな口をぽかんと開けていました。


「カーミエちゃん、なんでだと思う?」


 僕は、隣のお家に住んでいるカーミエちゃんに聞いてみました。


「ナナラ知らないの? 異世界から召喚された勇者が魔王を倒してくれたんだって、それで新しい王様になるから、国の名前を自分好みに変えるらしいよ」


「へぇー」


 カーミエちゃんによると、女神にチートスキルをもらった異世界の勇者が、魔王を倒してくれたらしい。


「魔王ってどんな悪いことしたの」


「さあ?」


 僕とカーミエちゃんは、二人で首を傾げました。 


 実害が何もなかったので、なにもわかりません。


 それはともかくとして、


 国名は、ツイタ王国のままでよくないか???


 それなりに建国してから経っているので、国名に愛着があったんだけどなぁ……。


 お偉いさんの前でそんなことを言って、処刑されたらたまりません。


「まあ、名前ぐらいならいっかぁ……」

 

 そのときは、そう思ったのでした。


◇ ◇ ◇


 この国エクス国はツイタ国だったころから、通信魔法が進んでいました。

 なんといっても特徴なのが、国から生まれた時に支給される魔法の杖。


 ベルがついていて、僕はお気に入りです。


「ふふふーん」


 僕は、魔法の杖を使って、メッセージやトレンドを表示させます。

 みんな自由に好きなことを呟いています。


「なんか昔と仕様が、かわったけどやっぱり見ちゃうんだよな」


 僕は、趣味で、小説を書くので、みんなの小説の書き方『創作論』などを読むのがお気に入りです。


「自分の書き方も投稿してみよう」


 杖先で、メッセージを書いて、杖を振ると自分のメッセージを投稿できます。


ピコーン。


 自分の書いた言葉が、タイムラインと呼ばれるリストに並びます。


チリリーン。

 

 杖についたベルがなります。 


「シンル君、早速ハート魔法送ってくれたんだ」


 魔法の杖は、気に入った投稿にハート魔法を送ることもできます。


「おっ、この人は、初めてハートくれたぞ。フォローっと」


 楽しくてやめられません。


「小説も書きたいんだけどなぁ。まいっか。書いてるには変わりないし」


 ぼちぼち楽しみながらがモットーです。


ブルッ。


「ん? 寒いぞ」


 春先だというのにものすごい寒さを感じて外に出ました。


「なんか凍ってるんだけど」


 隣のシゲク兄さんの家が凍りついていました。


「これ噂に聞いてたやつか……」


 国の『影爆(シャドウバン)』部隊による凍結魔法です。


 家の中からガタガタ震えたシゲク兄さんが出てきました。


「兄さん、なにやらかしたの」


 髪は真っ白、鼻水がつららのようになっています。


「へ、へ、ヘクション! ううぅ。ナナラか……。特になんかしたおぼえないんだけど、朝起きたらこうなってて……」


 国の精鋭の放った魔法なので、僕ら程度ではどうすることもできません。


「誤解だったら、国に解凍申請してみたら」


「そうするよ」


 シゲク兄さんは、いそいそと国から支給されている魔法の杖を出して、申請を始めました。


バンッ!


 今度は、向かいの家のヨワル兄さんの家の扉が勢いよく開きました。


「俺の杖は、落書き帳なんかじゃない!」


 ヨワル兄さんは、僕に向かって、魔法の杖を投げつけると、どこかに向かって走り去っていきました。


「どうしたんだろう。ヨワル兄さん?」


 僕は、疑問に思って、悪いなと思いながらも、ヨワル兄さんの杖のロックを外しました。


『お前は、書く資格なんてない』

『こんなの投稿して恥ずかしくないのか』

『こんなことを書くなんて、バカの証拠だよ』


「うわぁ。これは酷い」


 本人に直接メッセージを送る機能に、誹謗中傷が送られてきています。


「なんでシゲク兄さんが、凍結されて、ヨワル兄さんにメッセージ送ってくる人らは、凍結魔法されないんだろう?」


「ホントにな」


 シゲク兄さんも凍えながら、頷いています。


 基準がさっぱりわかりません。


 僕はヨワル兄さんの受信拒否に設定しました。


「とりあえず、通報だけしてみるか」


 投稿に対して書かれているのは、自分の杖から国に通報しました。


「俺は、一時的に別の杖申請してくるわ」


「はーい。いってらっしゃい」


 僕はシゲク兄さんを見送ったあとも、ヨワル兄さんの目に入らないようにひとつずつメッセージも削除していきます。


「なんか大変そうね」


「あっ。カーミエちゃん」


 騒ぎを聞きつけて、反対隣に住んでいるカーミエちゃんがやってきました。


 カーミエちゃんは胸に大きな青いバッジをつけています。


「カーミエちゃんがつけてるバッジなんか昔と変わった?」


「今は、税金払わないと、付けてくれなくなったのよ。バッジ付いてないと落ち着かないから払ってるわ。逆にいっぱい見てもらえるとお金貰える時もあるし」


 カーミエちゃんは、素敵な絵をいっぱい書くので、みんなにいっぱい表示されるようです。

 羨ましい。ハート魔法も一つの投稿で余裕で四桁以上もらっています。


「そういえば、なんかこのハートの魔法も変な感じになったよね。なんかよくわかんないけど」


「プライバシーがどうとからしいよ」


「そもそも攻撃力がある魔法でもないので、そのままでも良かったような?」


 僕が、カーミエちゃんに愚痴っていると、目の前の地面が盛り上がって、ゾンビが沸いてきました。


「またぁ? もういやになっちゃう。ナナラも手伝って」


「うん。わかった」


 カーミエちゃんは慣れた手つきで、杖に魔力を込めるとゾンビ達をやっつけていきます。

 

 僕は、杖でそのまま殴って倒しました。


「自分で倒せるけど、ハート魔法変更するより、ゾンビをどうにかしてほしくない?」


「本当に、それだね」


 たいして強くないので、倒すのは簡単。


 とはいえ、国名が変わる前はいなかったので、単純にめんどくさい。


 ちなみに、僕のまわりにはゾンビは沸いたりしません。

 ゾンビは、カーミエちゃんみたいな人気者を狙うだけです。


 ゾンビを倒し終わると、ふわふわと別の者がとんできました 


「またこいつ出てきたわ!!!」


 カーミエちゃんの前に、妖精さんが現れました。


 妖精は実体がないので、魔法で攻撃することもできません。


 だれかが使役しているのか、どんどん絵を勝手に生み出していきます。


「国が変わってから、妖精ばっかりなんだけど」


「妖精は、国関係ないよ。たまたま増えてきた時期とかわったタイミングが一緒なだけで」


 どっかの国に現れた魔法の泉から出現するようになったとの噂です。

 妖精はヒトに従順でよく言うことを聞きます。

 学習能力が高く一度見たものを忘れない上に、応用力もあるので、無限に絵を描くことができます。


「こいつ……私の前で」


 妖精が生み出した絵に対してカーミエちゃんは歯噛みしました。


 カーミエちゃんは、黒くて丸い物体を取り出しましたました。


 どうみても爆弾です。


「ちょっと待ってよ。何する気なの!?」


「魔法の泉、爆破してくる」


「えぇえええ」


 カーミエちゃんは、いつもは優しい女の子ですが、妖精を見ると人がかわったように暴挙に出ます。


「ダメだってそんなの。包丁で殺人したひとがいたとして、包丁が悪いわけないよね」


 妖精は、使役されて絵を描いているだけで、意志があるわけではありません。


「どうみても、私の絵を真似したとしか思えないし、真似したよねって言ったら、『僕は妖精使ってるだけです』とか使役者は言ってくるんだよ。腹立つ!!!」


 昔はカーミエちゃんの絵を自分が描いたと言い張る人間がいましたが、最近は妖精を使う人間が増えました。


「ということは、妖精さんに学習させてる人が無断でカーミエちゃんの絵を使ったのかな」


 確かにそれは悪いことだと思いますが、妖精を使った人は悪いとは言えず、妖精に学習させた人は、検挙できず、カーミエちゃんが怒るのは無理もないとは思います。 


「あんただって、妖精最近使ってるでしょ」


「僕は、妖精に面白いことない?って聞くぐらいだよ。なんか妖精に使う呪文も難しいし、絵は一回ぐらいしか……」


「やっぱり使ってるじゃない!!! 私に金払って絵を頼みなさいよ!」


「カーミエちゃんの絵高いんだって」


「高くないわよ。金貨一枚でしょうが!!!」


「僕は、ただの農夫だよ。金貨一枚なんか払えるわけないじゃないか。プロになれるぐらい素敵な物語が書けたら、カーミエちゃんに綺麗な絵頼むのが僕の夢だよ」


「嬉しい! だけど、許すまじ!」 


 カーミエちゃんは、僕に爆弾を投擲始めました。


ドッカ―ン。


「うわぁああああ」


 僕は、爆発から逃げまどいます。


「いつの間にか、怒りの矛先がこっちに!?」


 執拗に爆弾を投げ続けるカーミエちゃんから僕は、慌てて逃げ出しました。


「もう。なんなんだよ」


 もう、毎日毎日こんな感じです。


 国民は、お世辞にも口がいいとは言えないので、それなりに言い争いも絶えませんが、


「それは、それで楽しいかな?」


 僕は村の中を走り回りながら、みんなの使う魔法を眺めます。

 いろんな言葉がどんどん溢れてきています。


 空を見上げると、真っ暗な空に『×』の怪光線を放つ円盤が飛んでいます。


「あっ。またUFOだ」


 きっとあれは、勇者の趣味でしょう。

 異世界人である勇者のセンスは、僕には理解できないので、カッコいいかどうかわかりません。


「それより、あの鳥どこにいったんだろうなぁ」


 昔はよく幸せな気分にしてくれる青い鳥を見かけました。


 国が変わってから見た覚えがありません。


 もう絶滅してしまったのかとおもうと少しだけ悲しくなります。


「もし生きているのなら……」


 たまに帰ってきて欲しいなぁと、思うのでした。

 

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