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お互い様


* Sideイスズ



騎士様はいい人だ。


こんな美貌で騎士までやっているのに、胡散臭い研究員に紳士な態度だ。

対して、私は相当ひどかった。


心の準備がなかったとはいえ、なぜ、この騎士様だったのか。

今だって、その顔と向かい合わせだと思うと憂鬱になる。

それでも、たぶん、少しでもオカルトをかじってる人なら平気だったけど、騎士様は全身全霊、どこからどう見ても胡散臭いものとは相容れない純真で健全な人物だ。

こうなると、オカルトで世間を渡っているイスズにはお手上げだった。


大々的な苦手意識を持ったが最後、自動的に、この人とは付き合えない判定を下してしまう。

そもそも、騎士様が出てくるほど事を大きくしたくなかったから、存在自体を迷惑扱いしてしまった。

もし、自分が騎士様の立場だったら、とっくに投げ出している。

なのに、騎士様はきっちり助けてくれたのだ。


「……今日はありがとうございました」


俯いたままぼそっと言って、反応が気になってちらりと上目で見てみたら、眩い笑顔で「いいえ」と返された。

これは、どんな攻撃よりも強烈で、やっぱり無理! と頭に浮かんだところで、騎士様から話しかけられる。


「何か、私に言いたいことはありませんか」


「……」


ざっくりしすぎて返事はしなかった。


「任務を降りることはできませんが、あなたが過ごしやすいよう気をつけることはできますから」


親切な申し出のつもりなのだろうけど、こういうのも迷惑としか感じなかった。


気持ちはわかる。

半分は私の態度のせいだ。

だからといって、護衛が護衛対象にへいこら気を使うのは違うと思う。

むしろ、注意すべき点を言い聞かせるくらいのことをしなくてはならない。

まあ、何を言われようと、内容によって聞くつもりはないのだけど。


「それとも、他に打ち明けてくださることがおありですか」


なるほど、こちらが本命の質問っぽい。

眼鏡越しでも、真剣な眼差しを強く感じられた。


「所長にでも頼まれましたか」


「はい」


騎士様は実直な人だった。


「ですが、あなたが望むのなら黙秘します」


裏を返せば、自分にだけは告白しろと言っているも同然だ。


騎士様を疑うわけじゃない。

この人なら、騎士道精神にのっとり、約束したことは守ってくれるだろう。

だけど、それは私自身の誓いを破ることであり、下手すれば更なる危険に巻き込みかねない。


「他人の秘密を望むのなら、自分も同等に差し出すのくらいの気概がなければ図々しいとは思いませんか」


騎士様だって、何かを隠している。

何者でもない研究員の護衛に騎士がつくことからして、誰が考えたって裏がある。

でも、騎士様が事情を話すわけがなかったし、こちらも、それでいい。

隠しごとはお互い様で、見て見ぬ振りをしましょうね、という同意を求めた事なかれ策だ。


しかし、騎士様は違う受け取り方をしてしまった。


「そうですね。何も知らないままご迷惑をかけては申し訳ありませんし、私の話を聞いていただけますか」


これにはこっちが狼狽えた。


え、言っちゃうの??

呆然としている間に、了承と受け止めた騎士様は両手を組んで告白を始めてしまった。


「私は、今、ある人から逃亡を図っているんです」


「騎士様が……逃亡?」


思わず聞き返したら、真剣な面持ちで頷かれた。

正体の知れない男達に余裕綽々で向かっていった騎士様が、誰から逃げ出す必要があるというのか。


「あ、もしかして、研究所に来たモモカ姫だったりして」


あははー、まさかねぇ、と冗談のつもりだったのに、組んだ手と顔が硬くなった騎士様を目の当たりにして驚いた。


「私、確か、モモカ姫と騎士様が写っている雑誌を見た覚えがあるのですけど」


おしゃれ雑誌に用はないのだけども、可愛い女の子を眺めるのは好きなので、時々、立ち読みをしている。

その時の特集ページで見かけた覚えがあった。

可憐なお姫様とすっとした騎士様は、ものすごく絵になっていたので買ってしまおうか悩んでやめたから。


「あんな風に載せられるとは聞かされていませんでした」


騎士様の声はものすごく暗い。

あんな風と言われても、記事の内容までは記憶になかった。


「詳しくは覚えてませんが、すごくお似合いでしたよ」


言った途端に、騎士様の目が更に暗く沈んだので困った。

くっきりとした深い瞳が、影の濃い愁いを帯びる。

美貌の人は、どんな状況でも麗しいのだなと思いながらも、なんだか気の毒に思えてきた。


「モモカ姫と喧嘩でもしたのですか」


「違います!!」


いきなりの大声にびっくりしたけれど、その直後に騎士様が震えていることの方が仰天だった。


「何があったのですか」


そうっと問いかけると、騎士様は視線を外して俯いた。


「失礼しました」


こんな時でも騎士様は紳士だ。


「あの、言いたくないのなら、無理に言わなくていいんですよ」


元々、こちらは打ち明けてほしかったわけでもないのだから。


「いえ。また遭遇するかもしれないので聞いてください」


そう言って、騎士様は伊達眼鏡を外した。


あんまりいい予感はしないが、弱りきった絶世の美貌に懇願されては断れるわけがなかった。

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