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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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どうした


* Sideイスズ



脱衣場を出て、ふと首を傾けた先で目が釘づけになる。

休憩所にあるベンチに、タオルで頭を覆って座っている人がいた。

俯いているから見えているのは鼻先くらいだけど、それだけで異様な雰囲気だ。

知り合いの欲目ではない証拠に、浴場に出入りしている人が一度はぎょっとして、チラチラ見ていくので何かしらのオーラがもれているのは間違いない。


「あれ、絶対、ソレイユさんよね」


ナナコさんに耳打ちされて頷いた。

でもって、副隊長さんが心配していたことが、ようやく理解できた。

この一ヶ月ほどの間に何があったのかは知らないけど、あれは危ない。


なんて、第三者目線で考えてたら、こちらに気づいたソレイユさんが立ち上がって向かってきた。


「すみません、私です。お風呂上がりに待ちぶせして、申し訳ありません」


「い、いえ」


少しタオルを広げて顔を見せながら謝罪してきたのは、思わず、ナナコさんの背中に隠れてしまったせいだろう。


「一人みたいですけど、何かあったんですか」


「それが、入浴中にオカルトの概念みたいなものを教授してもらったのですが、みなさん揃って、のぼせそうだとおっしゃって、裏五湖についてはイスズさんから聞いてほしいと……」


「ええっ?」


「イスズ。おもいっきり、押しつけられたわね」


「ナナコさん、そんなにはっきり言わないでもらえますか」


たぶん、私が想像してたみたいに素直に聞き入り、真面目に疑問をぶつけ返したのだろう。

オカルト好きの大体が「男のロマン」とかいう曖昧な概念で括られているのに、いちいち悪気なく常識で深堀りされては匙を放り投げたくなったに違いない。

いや、違った。

その匙は適当にポイされず、私にそっと握らせてヨシとされたわけだ。


「いいですけど、お勉強会なら夕飯の後にしてくださいね」


恐縮しきりな猫背のソレイユさんに、私が返事をする前に断りを入れたのはナナコさん。


「これから、売店に寄ろうって話になってるので」


中に置いてあった石鹸が泡立ちがよく、いい匂いだったので、ナナコさんが買って帰りたいと話してたばかりだ。


「先約があるなら、もちろん優先してください」


「じゃあ、よかったら、ソレイユさんも一緒しませんか?」


「いいのですか」


誘ったナナコさんが了承するとソレイユさんの背中の丸みがなくなり、ぜひと嬉しそうに返事する。


「二人の護衛をさせてもらいますね」


どこまでも騎士様なソレイユさんは、そう宣言して背後に回って続いてくるので、私は表情を見られないようナナコさんに非難の視線を訴えてみた。


「だって、あんなの、一人にしておけないじゃない。女子連れだと、多少は防波堤になるだろうから、今度はイスズが護衛してあげなさいよ」


言われてみると納得した。

これでも、前回、きっちり護衛してもらったことは感謝している。

だから、恩返し気分で、こっそり張りきってみたのだけど、言い出しっぺのナナコさんは売店に着くなり一人で気ままに見始めたので、取り扱い注意な貴重品の番人を押しつけられた気がしないでもない。

ゆっくり振り向くと、いい笑顔のソレイユさんがいて、つい同じように返してしまう。

すると、おもむろに鎧のはずの頭のタオルを取り去った。

こんな人目のあるところでと慌てていると、更に「失礼」とこちらに手が伸びてきたから、思わず目をつぶる。


「……」


なんだか肩にタオルをかけられた感触がして、ついでに、離れてくれた気配もしたものだから目を開けてみた。


「濡れていたので」


説明してくれたソレイユさんが、妙にはにかみ照れて見えるので目眩がする。

いつも湯上がりはほどいているのに、今回はナナコさんに言われて結んでいるせいで滴っていたのかも。

騎士道に基づく親切心なんだろうけど、あまり近寄ってほしくなかった。

だから、内心で訴えてみた。

副隊長さん、やっぱり駄目かもしれません、と。

会った時から異次元の騎士様だったのに、眩しさの増し増し感が半端なくなってる。


「ありがとうございます。でも、ソレイユさんが……」


「大丈夫ですよ。イスズさんの眼鏡がありますから」


ほらね、と自慢げに答えてくれているけど、ぜんぜん大丈夫じゃない。

黒騎士様の美貌が駄々もれし放題。

なんなら、眼鏡のせいで妙な魅惑が追加されてる気がしなくもない。

ナナコさん、私なんかじゃ、これを守りきれる自信がありません。


今になって護衛される心構えのなかった己の行動を省みて、無性に謝りたくなった。

とりあえず、売店を見回して、フードのついたポンチョ風のタオルを見つけて即座に購入し、開封してかぶせてみる。

全体的には水色だけど、各所にボートとかネッシー君とかがプリントされた手触りの悪いタオル生地で、洗うと絶対色落ちすると思われる、いかにもな代物。

あまりの似合わなさに、とてつもなく申し訳ないけど、実利を取ると仕方ない。


「すみません、代金は……」


「いりません。その、これは教材です。勉強のためですから、後で見ておいてください」


よそでは使いにくい微妙なお土産だけど、キジ五湖の名物を知るには手っ取り早い。

完全な後づけ理由ながらも、我ながらいい返しだと思う。


「では、遠慮なく」


気の使い合戦にならなくてよかったと安心していたら、「代わりに、お返しのお土産を選ばせてください」と言われてしまった。


「え?」


そうきましたか、ソレイユさん。


「何か、気に入ったものはありますか?」


「いやいや、いりません。そんなの、必要ないです!」


キッパリすっぱり断った。

今回は特別手当が事前に出てるから、懐に余裕がある。

ほしいものがあったら、自分で迷わず買える。

なのに、タオルのフード下から、ものすごくしょげた表情を向けられて弱った。

それはもう、あなた、本当に黒騎士様ですか!? って言いたくなるしょんぼり具合いだ。


「その、お返しはともかく、見て回りませんか?」


「イスズさんも一緒に?」


「……はい」


なんだろう、この、わかりやすい生き物は。

ナナコさんみたいに鋭くない私でも、いまのソレイユさんの感情はわかりやすい。

きっと尻尾がついてたら、ブンブン振り回してるに違いない。

そんなに、あの別れ方を気にしてくれてたとか?


「イスズさん。何か気に入ったものがあったら、教えてくださいね」


とりあえず、お返しを諦めていないっぽいので、そんな隙は作らないよう気をつけようと思う。

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