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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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ルンルン


Φ Sideイノセア



クレオス隊の副隊長、イノセア・フォルティスは冷静な落ち着きをモットーとする騎士団の中堅どころであり、過去には自身も無茶をしたことがあれど、今の年若い隊長の補佐となった時から意識して淡々と見せてきた。

しかし、肝心のクレオスは、こちらの憂慮をものともせず、持ち前の豪胆さと面倒見のよさで順調に隊を把握していった。

中でも、クレオス隊発足の一因となったソレイユ・ヴァンフォールには上司二人で特別に気に留めいたものの、それなりに新人らしく過ごせているようだったのでホッとしていた。


ところがだ。

あの美貌のせいで王宮に目をつけられ、クレオス隊に慣れた頃に出向を押しつけられたのだ。


出向自体は、なくもない。

隊外の交流や他部署での経験を積めるし、場合によっては、そのまま隊を移動となることもある。

但し、どの場合も本人と現隊長の意向が尊重される。

隊には各々の面子というものがあるし、強引に進めては隊同士の対立に発展することもあるからだ。

だというのに、ヴァンフォーレは期間限定の新人研修だからと反対する間もなく引っこ抜かれた。


当初は隊内でも気にかける仲間が多かったが、その内、モモカ姫との噂が聞こえてきて風向きが変わった。

向こうで上手くやっているのだから、もう戻ってこないのだろう、と。

実際、ヴァンフォーレは定期連絡で問題なしと報告するばかりだったので、隊としても傍観していたのだが、クレオスから突然、詰所の訓練場に戻したと聞かされて驚いた。

理由は練達不足と言われたものの、その後にビートルのところに預けたのだから、何かあったのだろうと気になっていたところ、 間もなくモモカ姫の護衛に復帰し、今回の任務で隊に合流すると知って安堵していた。


のだが、またもや、気になる噂が聞こえてきた。

黒騎士様の色気がヤバイ、と。


なんだ、そりゃ。

そう思ったくらいで捨て置いていた話だが、ついさっき、真っ昼間の公共の場で婦女子に集られている場面を見てしまっては放っておくことができなくなった。


だが、まあ、顔見知りの研究所のお嬢さん方は平気なようだったので、極一部の見慣れぬ人間が騒いでいただけなのだと理解した。

しかし、事実は小説より奇なりと言うが、噂が的確なこともあると思い知らされる。


実験紛いに協力してくれたお嬢さん方を見送ったところで、念のため、明日の注意事項を確認しようとヴァンフォーレを振り返り、固まった。

視線に気づいたのか、こちらを見返してくるので、尚更、動揺してしまう。

つい数秒前まで生真面目だった様相が、妙な愁いを帯びて艶かしさを放っていた。

まさか、まさかとは思うが、長年の直感で閃いてしまった。


「相手はイスズ・コーセイか」


指摘した途端に、美貌の青年がギクリと体を揺らして赤くなる。

色気たれ流しから一転して乙女な反応を見せてくれるのだから、頭が痛くて堪らなかった。


「クレオス隊長には黙っておけよ」


「……妹さん、だからですか?」


「知っているのか」


となれば、興味本位ではないのだろう。


「せめて、今回の任務中は口説いたりするなよ」


「なっ、そんな失礼なことしませんよ!」


「……失礼?」


根っから真面目な部下なので、ところ構わず私情に走るとは思ってないが、そんな失礼とは意味がわからない。


「彼女に、付き合っている人がいるのか」


「それはないです……たぶん」


「だったら、問題ないだろう。姫君が相手より、よほど気安く付き合える相手じゃないか」


「気安くだなんて、とんでもない!」


「は?」


「いえ、その、彼女は素敵な人だとは思ってますけど、付き合うとか、そんな大それたことは考えてませんので……」


「はあ? なぜ?」


反論された意味が何一つわからなかった。

年頃の男が気になる相手を前にして、なぜ、距離を縮めようと思わないのか。

しかも、憧れの対象となる騎士という立場に加えて、やっかみを買うほどの美貌をも身につけていると言うのに。


「なぜと言われましても……彼女は恩人で、そういう邪な気持ちを向けていい人ではありませんから」


そこまで言われたら、年の功により状況を理解した。


「いいか、ヴァンフォーレ。その邪な気持ちは健全で当たり前な感情だ」


「え?」


「自分の気持ちを無理に否定するから、別のところにしわ寄せ(色気たれ流し)がくるんだ」


「ですが……」


「別に、強引に迫るでもなければ、片思いくらい誰の迷惑にもならん」


「片思い」


戸惑う初心な青年は、聞き慣れない言葉みたいにオウム返しをしてくる。


「そうだ、片思いだ。それを認めてやると、毎日が色鮮やかでルンルンだぞ」


「色鮮やかで、ルンルン……」


うむ。

反応から見て、あと一押しな雰囲気だ。


「ヴァンフォーレ。せっかくの幸運な出会いなんだから、大切にしてやれ」


これに明確な返事はなかったが、ほころんだ口許を確認して、やれやれと吐息がこぼれた。


長年、部下の面倒を見ていると、こういう悩みは多々遭遇する。

モテると思われがちな騎士だが、矜持が高いが故に身動きできなくて悶々としている若者は多い。

でなければ、勘違いをして、必要以上に浮き名を流しまくるか。


まさか、こんな美男子に指南することになるとは思わなかったが、迷える青年に一筋の光を見い出せたと満足していていたので、おかげで、四方八方に撒き散らしていた色気が一人に収束されて困惑させられるお相手のことにまで気が回らなかったのは申し訳ない。

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