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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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接待旅行


* Sideイスズ



「みんな、忘れ物はないか」


「「ないでーす」」


どこぞの遠足引率者みたいなビービーに、これまた無邪気な応答が返される。

最後に施錠を確認し、研究所メンバーで揃って、ぞろぞろと出発だ。

ブレッドなんかは、おやつの入ったバスケットをぶら下げているから、それっぽい雰囲気ではあるのだけど、のほほんと楽しんでいられるばかりのお出かけが目的じゃない。

なにせ、今回は外国の王子様相手の接待旅行なのだから。


おじいちゃんことドラグマニル公に貸し出してもらった幌馬車に、三泊四日の荷物と研究所メンバー全員で乗り込み出発だ。


「なんだ、ナナコ。揺れに酔ったのか」


ビービーは、ナナコさんの眉間のより具合が気になったらしい。


「違いますよ、所長。せっかくの王子様なのに、こんな地味な格好しなきゃならないのかと思うと憂鬱なだけです」


「まだ言ってるのか。彼氏はどうした」


「それとこれとは別腹です。帰ってから、王子様に素敵なお嬢さんだねって言われたけど、あなた一筋だから安心してねって言いたいんですよ」


「うーん、乙女心は難しいな。わかるか、イスズ」


「私に振らないでください……」


地味な格好をさせてる元凶な上に、乙女心なんて持ったことのない私に答えられるわけがないでしょうが。

あの雑誌の件から、とにかく目立つな、いつもの倍は大人しく用心するようにと必要以上に言われている身だ。


そんなこんなで、やいのやいの言いながら、お昼前には目的地に到着した。

両手でお古のトランクを掴んで馬車を降りると、目の前のコテージを見上げて感心する。

ここらで憧れの、予約が取れないことで有名な宿泊施設だ。

私にしたら、ちょっとしたお屋敷に見えなくもない。

さすがは王子様。

警備の関係もあるのだろうけど、お忍びでも庶民とはレベルが違う。


「イスズ、後がつかえる」


クリップに言われて、慌てて横にずれたらビービーが所長として軽く到着の挨拶をしていた。

向き合う相手は、いいとこの商家に勤めるお仕着せ姿だけど、隙のない佇まいと精悍な顔つきが武人を主張してならない。


「先に各自、寝る部屋だけ確認する。荷物を置いたら、外に出るからな」


返事をしながら入るなり、いきなり二階吹き抜け仕様の解放感があるエントランスに迎えられて、ぱっと見でも、どうだと言わんばかりの特別感だ。

壁も床も情緒がありながらピカピカで、葉巻の焦げ跡や引っ掻き傷は見当たらない。

一流施設なので、それが当たり前だとしても、 後で絵画や家具の裏側にお札がないかは、できる範囲で確認しておこうとチェックしてしまうのはオカルト好きの習性というもの。


「ソレイユさんは外に出てるんだって」


いきなり背後からナナコさんに言われて、びっくりした。


「誰も聞いてませんが?」


「聞いてないけど、目で探してたから」


そんなことを言いながら、相部屋の鍵を渡される。


「違いますからね」


妖しいお札探しだなんて、こんなお洒落なコテージでは大っぴらに言えないだけです。


「はいはい。三泊もするんだから、顔くらい合わせる時間もあるわよ」


「だから、ぜんっぜん、探してませんって」


しっかり、きっぱり否定しても、ナナコさんは聞き流して階段を上がってしまう。

とんだ誤解だ。


今回の部屋割りは、個別の客室が二階にあって、メインの豪華主賓室を王子様と従者様が、その隣室を警備責任者のクレオス隊長と接待責任者のビームス所長が、私とナナコさんは対面する個室を特別配慮でもらっている。

他の人は一階の、研究所メンバーは多目的ホールBを、大きい方のAはクレオス隊の騎士様達が交代で使うらしい。


「うわー、メインじゃないのに綺麗でリッチ!」


ベッドの大きさもサイドテーブルに備え付けられたランプもお見事で、さりげなく置かれた筆記具にしても優雅で洗練されている。


「あ、ナナコさん。お茶セットもありますよ」


冷めても楽しめる花茶と並んで、可愛い焼き菓子がガラスケースに収まっていた。


「一個二個なら摘まんでいいけど、護衛騎士様との顔合わせが先でしょ」


そういうナナコさんは、お風呂場から顔を出している。

いつの間に。


「アメニティは揃ってるけど、ここ使うのは大変ね」


普通なら従業員がお湯を運んでくれるけど、今回は警備の都合上、他の人は入れない。

食事は、おじいちゃんの知り合いが出張してくれるとのこと。

となれば、お風呂を使うには、自分達で二階まで満杯になるまで運ばなければならない。

……無理すぎる。


ちなみに、一階には源泉かけ流しの露天風呂があるのだけど、主に王子様と従者様が、空いた時間には護衛騎士さん達関係者が入らせてもらうらしい。

いわゆる、ドキッ、男だらけのお風呂大会だ。

いくら女子力がなかろうと、その合間を縫って使わせてもらう剛胆さは私にもない。


「やっぱ、本館の温泉を使わせてもらった方がよさそうね」


こういう行き届いた下調べは、全部ナナコさんがやってくれた。

むしろ、余計な心配はするなと、手出し無用を言い渡されたくらいだ。

ありがたいのは、ありがたいけど、邪険にされてる感は否めない。


「そろそろ、下に降りるわよ」


誘われて続こうとしたら、ナナコさんに注意されて渋々引き返し、だて眼鏡を身につける。

ここまでしなくたって、この私服で充分地味だと思うのだけど、 手厳しく許してくれなかったから、仕方なく装着して部屋の鍵をかけた。

それから、護衛される初日に変装を強いたソレイユさんも、こんな気分だったのだろうかと、ぼんやり思いを馳せてみた。

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