心配
* Sideイスズ
「ね、ブレッド、今月のヌー見ました?」
「見たよ、もちろん。ケサランパサランの大量発生。白いふわふわに囲まれるとか、羨ましすぎる」
「ですよね。しかも、ケサランパサランは幸福の使者ですよ」
「そうなんだよ、そうなんだよ。天使の羽の思し召し。トキメキだよねぇ」
「いや、ブレッド。あれが天使の羽とかないだろ。大量発生だというなら、抜けた天使は大惨事じゃないか」
さっきまで書類整理をして気のない素振りをしていたロケットが、横から淡々と否定してきた。
「じゃあ、ロケットは何だと思ってるんだよ」
可愛いもの好きなブレッドは、ムッとしながら問い返す。
「ケサランパサランなら精霊の幼体だろう」
「精霊の幼体?」
思ったよりも、ファンシーな説だ。
「ああ。稀少で繊細な存在だから、成体になる前に幸福の使者として姿を消してしまうものが多いんだろう」
否、そこそこヘビーな説だった。
「そんな、可哀想な存在なわけないだろう!」
「なら、イスズの説を聞いてみようじゃないか」
そんな流れで、ロケットとブレッドはこちらに熱い眼差しを送ってくる。
この二人は意見が対立することが多く、よく、こうして室長の意見を求めてくれる。
けど、仲が悪いわけじゃないから、二人の論争に巻き込まれることを楽しんでる。
「私は、精霊の庭から来ているのだと思います」
「と言うと、感情の起伏に作用する草花を育てているという庭か」
「そうです。あのフワフワ感は、タンポポの綿毛みたいなものだと思うんですよ」
「確かに。おしろいで増やせるって聞くけど、生き物よりは植物系の方が納得いくかも」
「ケサランパサランと呼ばれるのは精霊王の手で育てられている特別な種類で、だから、幸福の使者とも呼ばれているんじゃないかと考えれば、辻褄が合いませんか?」
「だったら、大量発生したのは、成育が特別よかったってことだよね。それは、ときめくかも」
ブレッドは新たな説に想いを馳せて、ロケットは精霊に絡んだ異論にふむふむと一考し始める。
うん、うん、これだからオカルトはいいなぁと、しみじみ感じ入ってしまう。
これぞ、私の日常だ。
「ちょっと、オカルト雑誌もいいけど、イスズ。あんたは、こっちを読んどくべきなんじゃないの」
盛り上がってるオカルト談義に堂々と横入りしてきたのは、郵便物を出しに外に出ていたはずのナナコさん。
そのナナコさんが紙袋から出してまで、ずいっと見せつけてくるのは、ハイヤーという名のセレブ雑誌だ。
王族や貴族の慈善活動や功績を載せる傍らで、彼らの赤裸々なスキャンダルを売りにしているヤンチャな雑誌だ。
「イスズは絶対、読んだ方がいいわよ」
のしっと押しつけられた表紙には、モモカ姫がアップで写ってる。
「なんか見たことあるような……」
「そりゃ、そうでしょ。お茶会の特集号なんだから」
「ああっ!」
すっかり忘れてた。
ので、慌てて関連ページをめくってみる。
雑誌の真ん中辺りに組まれた特集は、ババンと見開きで全体写真が載っていた。
けど、私は綴じに近い部分に位置になってて、ちょっとホッとして記事を読んでいく。
内容は一から九までモモカ姫の情報で、残りは招待客のピックアップなんだけど、それだって声が大きかった令嬢が取り上げられてた。
私の名前は参加者リストに載っているだけ。
あれだけ苦労した個人写真も謎な質問も、すっかりボツになったらしい。
よかった、よかっ――
「イスズ。あんた、しばらくの間、出かける時は地味な格好にしときなさいよ。特に、髪は絶対結んでおくように」
「……え、なんで?」
「なんでって、どうしてわかんないのよ。こういう時こそ、観察眼と推理力を発揮させなさいよ」
「そんなこと言われても、唯一の写真だって見ずらいところになってたわけだし……」
「それよ、それ。さすが、ハイヤー。あざといわ」
しかめっ面のナナコさんを見るに、いいことではないらしい。
「いい、イスズ。モモカ姫ファンってのはね、ソレイユさんとセットが大好きなの。にも関わらず、初めてのお茶会参加で別の女の背後に立ってるって、どうなんだって話なのよ」
前のめりに訴えられて、とりあえず頷いておく。
「しかも、仕事中ですとかの説明もなく、モモカ姫と並んだ写真もない上に、そこには触れないでと言わんばかりの地味配置とか、何かありますって宣伝してるようなもんじゃない」
自分じゃ、思いもしない説に驚いた。
「ナナコさんって、私よりも研究者の素質があるんじゃ……」
「はあ!? んなこと、言ってる場合じゃないでしょうが!!」
大声で怒られても頭がついていけないので、小さくなってやりすごそう。
「なんだ、うちにしては賑やかな声が飛んでるな」
振り向けば、こちらも出かけていたビービーとクリップが帰ってきたところだったので、助かったと思う。
「おかえりなさい」
出迎えながら、さりげなくナナコさんから距離を置こうとして、ガシッと肩を掴まれて動けなくなった。
「まだ、話が終わってないでしょ」
「いや、でも、いつもの格好をしろってことなら、問題ないですよね」
「そういうことを言うから、心配なのよ」
「何を揉めてって……ああ、この間のお茶会の。発売されたんだ」
後ろで話を聞いたのか、いつもより身綺麗にしているクリップが勝手に雑誌に目を通す。
「うわぁ。イスズ、これ大丈夫?」
「え」
まさかの同意見に驚いてたら、ナナコさんが「ほら」と胸を張る。
どれどれ、と続いて覗き込んだビービーも右に同じ反応で納得がいかない。
「そんな、目立ってないと思うんだけどな」
改めて眺めてみたって、地味すぎて浮いてるくらいで、注目されるとは思えない。
「あんたが、じゃなくて、黒騎士様が有名人なのよ」
ズバッと言われて、とっさのことに顔がこわばった。
「ふうん、やっぱりね。イスズ、あんた、ソレイユさんと何かあったでしょ」
「別に、何も……」
とか答えつつも、つい、目をそらしてしまう。
「あれだけお世話になっといて、今日まで頑なに話題にしないんだから、不自然極まりないのよ」
あの最低な別れを思い出さないようにしてたせいで、そんな風に見られていたとは思わなかった。
「別に、何もないですよ。単なる護衛の関係だったんですから」
だから、そんな可哀想なものを見るような目で見ないでほしい。
「そうは言うが、再来週には、前乗りの視察で顔を合わせるんだぞ」
「わかってます。仕事なんだから、そこは、ちゃんとやります」
その証拠に、裏五湖情報も改めてしっかり集め直してる。
「はぁ。心配しても始まらないか。とりあえず、再来週にクレオスの隊と合同の最終下見をして、翌日、そのまま王子様と合流しての接待だ。でだ、やっぱりナナコにも参加してもらうことになった」
「でしょうね。私も、いまのイスズは放っておけないと思ってたんで、ちょうどいいです」
「……」
護衛の騎士様も案内する王子様も男だらけの状態なので、一応、性別・女な私が一人なのを心配しての配慮だそうだ。
言い方には思うところがあるものの、本気で心配してくれてることも、みんなと一緒に出張なのも嬉しいので苦情は申し立てないでおこう。
ここまで再編してて薄々気がついてたんですが、思ってたよりキュンなシーンが少ない!
もっと入れといた気がしてたんだけどな……。
次からの王子様接待編は、私的にお気に入りのやりとりがあるので、今後ともご贔屓に(*^^*)




