眠りにつく前に・ソレイユの場合
※ Sideソレイユ
「はぁー」
所長室の扉を閉めるなり、長いため息がこぼれた。
「ずいぶん、無粋なことをしたものだ」
自分が他人の機微に疎い方だと思ってはいたけど、これほどとは自覚がなかった。
ジェット少年はイスズさんを恋慕っている。
あんなに真っ直ぐ全身で体現していたというのに、いつだったか、好いているのかと本人に聞いてしまった鈍さに頭が痛くなった。
「本気、なんだろうな」
晩餐会の招待を受けたと知ったジェットは、真っ先にイスズさんの心情を慮っていた。
なのに、自分は個人的な感情に身を委ね、許可なく触れて、押し迫った形で困らせてしまった。
「あれは、我ながら酷かった……」
顔を手で覆って情けないと反省する。
けれども、あの時の近さや支えた体の感触を思い出し、別の意味で呻き声がもれた。
姉が三人もいるので、女性が苦手ながらも接し慣れていないわけではない。
それでも、身内じゃないというのは大いに勝手が違うようだ。
見上げてきた潤んだ瞳や柔らかな頬、香水なんかつけていないはずなのに匂い立った甘さが、いまになって心身を襲ってくる。
あの直後、クレオス隊長に殺気を向けられたのは完全に正しい。
悪気も下心もなかったとはいえ、誰がどこから見ても不埒な行いだった。
ついでに、時間差で下心がわいてきて困ってしまう。
「はぁ」
自分がこんなだから、尚更、ジェットの素直な真心に罪悪感を抱いてしまうのだろう。
だから、せめてもと、ここに泊まるのなら、明日の朝は会えるはずだと教えてあげた。
肝心のジェットには不審がられてしまったようだけど。
イスズさんだって、改めてジェットには直接礼を言いたがっていたし、会えれば喜ばれるに違いない。
なのに、なんともやりきれない思いが疼くのはどうしたことか。
ちらりと視線をずらせば、机に置いた紙袋が視界に入る。
イスズが手ずから用意してくれたサンドイッチ。
大食らいだと思われたのか、それだけしっかり食べるよう心配されたのかはわからないけど、お裾分けしても構わない量はありそうだ。
実際、ジェットのイスズへの気遣いようを見て、分けてあげた方がいいだろうと何度か考えた。
なのに、結果としては、丸ごと抱えて持ってきてしまっている。
いや、言い訳しても仕方ない。
最初に背中に隠してしまった時点で、どうかしていた。
「本当に、どうかしている」
要は、あの楽しかった時間を、少しでも誰かと分け合いたくなかっただけなのだから。
目を閉じれば、エプロン姿の笑顔が浮かんで胸を満たす。
とりあえず、今日だけは、この感覚だけを留めて眠りにつきたかった。




