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研究所にて


※ Sideソレイユ



「早速、動きがあったか」


研究所に戻ると、二人並んで所長室で報告をした。

まあ、報告しているのは自分だけだけれど。

イスズは率先して説明したかったようだけど、ビームス所長に彼女では信用ならんと指名されたせいだ。

そして、話が一人で突っ走ったところに差しかかると、厳しい目が隣に向けられた。


「イスズ。どうして、勝手な判断をしたんだ」


「……」


「イスズ」


「だって、騎士様が本当に私なんかの護衛をしてくれるなんて思わないじゃないですか」


「あのな。イスズがどう思おうと、ヴァンフォーレ君は正式な任務として来ているんだ。それを疑っては、彼を含めた精鋭の騎士団に対して侮辱しているようなものだぞ」


「……すみませんでした。騎士様も、申し訳ありませんでした」


「え、いえ。こちらこそ、上手く立ち回れませんで、不安にさせてしまいましたね」


急に心底で反省しているようで、あれこれ面白くなかったはずなのに、気の毒に思えるくらいの落ち込みぶりだ。


「反省したなら、イスズは研究室に戻れ。意見を聞きたいらしい」


「はい」


「ヴァンフォーレ君は、もう少し話があるから残ってくれ」


「ですが……」


「研究所内にいる限り心配はない。研究室には仲間もいるしな」


「そうですか」


しょんぼりしている背中に声をかけたかったが、所長に心配ないと言われたら、拒むわけにもいかなかった。


「それで、イスズとは上手くやっていけそうか?」


部屋に二人きりになるなり、ビームス所長は直球で核心をついてきた。


「正直に言って、嫌われているようです」


「だろうな。君みたいなタイプには、イスズをどう扱っていいのか困るだろう」


と言われても、この投げかけだって充分に困る。


「……たぶん、私は女性全般との付き合いが上手くないのだと思います」


「まあ、その顔では、一般人より苦労するのは仕方ない。事情も聞いているから、多少の同情はする。が、騎士団の一員である限り、毎回逃げるわけにもいかないのは覚悟しているはずだな」


「はい」


言われるまでもないことなので、強く返事をした。

イスズには騎士様と呼ばれたが、現時点で、すでに自分は騎士の資格を失いかけているのだから。


このままでは騎士を辞めなければいけないと、何度も何度も悩み考えてきた。

それでも、騎士は幼い頃からの憧れであり、尊敬する隊長の背中を追いかけていたくて、恥を承知で隊長に全てを打ち明けた。

そうして、世話をしてもらったのが、この専任護衛の任務だ。

ここで投げ出せば、本当に何もかもを失ってしまう。


「私は、なんとしてでも、イスズさんを守ってみせます」


「……」


覚悟を持って真剣に宣言したつもりなのに、ビームス所長は微妙な顔の反応だった。


「やはり、私では信用なりませんか?」


「え。ああ、すまない。能力に関しては完全に信頼している。ただ、ちょっと、勝手に別方向の想像をして目眩がしただけだ」


「はぁ」


よくわからないが、この後、所長が研究所の案内をしてくれるというので深く聞かずにおくことにした。




* Sideイスズ



「この証言は軽視すべきではない」


「いやいや、前半と後半で矛盾も多いし、ここは目撃者が記憶を操作された可能性を考えるべきだよ」


「それこそ、事件そのものを認めないようなものじゃないか」


研究室に入ったら、二人を中心に熱い討論が繰り広げられていた。


「さっきから、こんな感じなんだけど、イスズはどう思う?」


見せられた資料は妖精に関する証言で、斜め読みすると、前半は一貫しているのに後半になるほど曖昧だ。


「うーん。やっぱり、その告白だと鵜呑みにするのは難しいですけど、全てを否定するには不可解な現象だと思います」


「だろう! あー、よかった。イスズのお墨付きをもらったなら、自信を持って追究できるよ」


全国から寄せられる事件や怪奇現象について研究員と議論している時間が、オタク研究者にとっては最高の至福だ。


研究所としての仕事は大半が書類整理で、残りの半分はそれらをまとめた論文の発表。

論文は研究所の評判がかかっているので好き勝手に書けず、何度も見直して手直しするので神経をすり減らす作業だ。

だから、今みたいに妖精だの宇宙人だの神の御技だのと、突拍子もない可能性を延々掘り下げていくのは楽しくて仕方なかった。

こういう話なら、いくらだって盛り上がれる。


「私、ここにいられて幸せだなぁ」


「それなら、ここにいる研究員はみんなそうだろう」


「ですよね」


研究室でみんなと一緒だと、それだけで気持ちが安定する気がした。


「失礼します」


そんなところに騎士様が合流してきたものだから、鬱陶しく感じてしまうのは仕方ない。

その内訳には、あからさまに邪険にした後ろめたさもあるのだけれど、結論としては自分一人で対処できなかったせいなので文句を言える立場になかった。

というか、さっきまでの態度を詫びた方がいいのはわかってるんだけど、なんとなく言いたくない気分にさせられる相手だった。


「イースズさーん!!」


不意打ちで、部屋の外から元気があり余っていそうな大声が聞こえてきたから、ややこしくなりそうな予感がする。


バンっと扉が開かれて飛び込んできたのは、予感通りのジェット・リーチだ。

だけど、同時に、想定外のことも起こった。

私を庇うように騎士様が立ち塞がったことだ。


「イスズさん、その無駄にでかい男は誰ですか」


確かに、成長期前となる十三歳のジェットと比べると騎士様はかなり高い。

しかも、無駄に、と付けている辺りが敵意を感じる。

まあ、私が言うなって感じだけれど。


「ごめんね、ジェット。ちゃんと紹介するから」


そう断ると、ジェットの隣に立って、所長が手配してくれた護衛の騎士様なのだと説明した。


「騎士様、彼は研修生のジェット・リーチです。学生なので学校を優先していますが、放課後や休日には通ってくるので覚えておいてください」


ついでなんで、所長以外の仲間も紹介しておこう。


少人数だから所長と室長の私、ジェットを除けば研究員は三人しかいない。

小太りでどっしりなのは、妖系に詳しいブレッド・ドーム。

細面で几帳面なのは、遺跡や遺物が得意なロケット・ハン。

赤毛で眼鏡をしているのが、幽霊現象に強いクリップ・ボトム。


「他は、最初に会った事務員のナナコ・カザリアがいるだけです」


これで本当に零細研究所だと、おわかりいただけたことだろう。

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