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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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食後のあれこれ


* Sideイスズ



ソレイユさんなら、何を言っても騎士様らしくフォローしてくれるものと信じてた。

それなのに。


妙な声が聞こえてくると指の間から覗いてみれば、恥ずかしさの局地にいる私を前にして笑いまくってる。

大口を開けていないところは、品を備えた騎士道の賜物なのかもしれないけど、これだけ肩を震わせてくれたら爆笑と同じ。

ひどい、裏切りだ。


そんな恨みを込めて見つめていると、目が合った瞬間に無理やり笑いを収めて体裁を繕った。

まだ、ひくひくと腹筋や頬に名残が残っているけれど。


「その状態で食べれますか」


試しに言ってみたら「10秒いただければ助かります」と返ってきた。

しかも、きっかり10秒で持ち直し、ぺろりとプリンを平らげる。


「ご馳走さまでした。とても美味しくいただきました」


そう言ったソレイユさんは、すでに生真面目な平常運転だ。


「イスズさんは食べないのですか?」


「食べます」


澄ました美貌は、益々小憎たらしい。

だけど、澄ましている方が、大笑いされてるより、だいぶマシ――と思ったんだけど、そんなこともなかった。


「……」


自分がデザートまで食べ終えているせいか、視線がずっとこちらに向いている。

それも、小動物でも愛でるような生暖かい眼差しで。


何度か食事を共にしたことがあったけど、その時はペースを合わせてくれたので、こんなことにはならなかった。

何、これ。

異様に恥ずかしい!

見るなと言えば自意識過剰みたいだし、早く食べきるにしても、見られていると思えば、かき込むこともできない。

なるべく上品にプリンを食べきったら、後味どころか、最悪な罰ゲームをやらされた気分しか残らなかった。


本当なら、食後のコーヒーでも出すところだけど、さっさかお帰り願いたくて、ちらりと視線で訴えてみる。

すると、意思が通じたのか、ソレイユさんがすっと立ち上がったから期待したのに、希望の展開とは違う転がり方をしだした。


「ソレイユさん、何してるんですか」


「後片付けです」


一般庶民の家で、率先して食事の片付けをする騎士様。

色々と間違っている気がしてならない。


っと、のんきに遠い目をしている場合じゃなかった。


「そんなことしなくていいですよ。後で、私がしますから」


「気にしないでください。今日のご褒美のお礼です」


「ご褒美って……」


「イスズさんの手料理は充分なご褒美でした」


にっこり微笑まれると、何も言い返すことができない。

だって、嬉しかったから。


ほとんど食材の力だとしても、褒められたら悪い気はしない。

もう少し、凝った料理にすればよかったと思ってしまったくらいだ。


とりあえず、全部任せるわけにもいかないから自分も動く。

水場はソレイユさんががっちり占領してくれてるせいで、私は食器を拭いたり、しまったりを担当するしかない。

しかし、この手際のよさはどうだろう。

汚れの軽いものから始めて、しつこい油汚れも丁寧に落としてくれる。


「フライパンは洗い流さない方がいいですか?」


「はい。さっと雑紙で拭くだけで」


長年使い込んでいるフライパンは、下手に擦り洗わないで油を馴染ませている。

騎士様は、そんなことまで見抜くのか。

恐るべし……。


「ところでイスズさん。明日は何時頃に迎えに来ましょう?」


高いところの棚も楽々出し入れのソレイユさんが聞いてきた。

ちょっと羨ましい。


「明日はこっちの家じゃなくて、研究所合流で大丈夫です」


「これから、研究所に向かうのですか?」


「いえ、朝一で私用を済ませたいので、ソレイユさんは八時頃までに身支度を済ませてくれれば……ソレイユさん?」


「わかりました。今夜は研究所に戻らず、寝ずに外で待っています」


極上の微笑で告げられた。


「あの、それはちょっと困るといいますか」


しどろもどろに断っても、美貌の笑みは冴え渡るばかり。

なのに、怒気しか感じないとはどういう訳か。


「イスズさん、もう一度確認します。明日は、どちらに、何時に、お迎えに上がればよろしいですか」


「……朝の六時に、ここに来てください」


「承知しました。私が迎えに来るまで、この家から一歩も出ないで待っていてくださいね」


「はい……」


途端に怒気が霧散したので、こっそり抜け出し、ひっそりと戻って、なんでもない顔をして家で待っている作戦はやめにしておこう。


洗い物が終わったら、ソレイユさんの方から帰ると言ってくれてホッとする。

招いておきながら、それはどうなのかという疑問は置いといて。


「イスズさん。私が迎えに来るまで、どこにも行かないでくださいね」


ここにきて、再度念を押されて、自分がまったく信用されてないことを実感させられた。


「ちゃんと待ってますから、ソレイユさんもしっかり休んで、しっかり食べてください」


強引に紙袋を押しつけると、ぎこちなく受け取ってくれる。


「残りものをパンに挟みました。夜食か朝食にどうぞ」


「私の分だったのですか?」


「はい。まあ、余計なお世話かも知れませんが」


「そうですね、褒美が過ぎるのは問題かと」


「は?」


「いえ、ありがたく頂戴いたします」


真面目に丁寧な感謝をされたので、奇妙な引っかかりは聞き返さなかった。

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