お誘い
* Sideイスズ
「どうしたんですか?」
研究所を出てからソレイユさんがおかしい。
いや、その前にも色々微妙な様子ではあったのだけど、今は輪をかけておかしい。
目が合えば、すいっと逸らすのに、離れていると、ちょいちょい突き刺さる視線を感じる。
護衛だから気にかけるのは当たり前だろうけど、何かが違う気がしてならない。
「あのー、ソレイユさん?」
「大丈夫ですから、ご心配なく」
そう答えるながらも、あらぬ方向を見ている。
事件は解決しているので、多少油断してようと困ることにはならないけど、同行者として気になることは気になる。
「イスズさん。この後は、どうしますか」
さすがに護衛としての本分は忘れていないらしい。
なら、大丈夫か。
「うーん、そうですね……」
とりあえず回るところは回ったので、本日の予定は消化した。
気分的には、ぶらぶらと目的もなく歩きたいとこだけど、色々と出費したので考えるところではある。
それに、今更ながら、ちょっと気になっていることがあった。
「ソレイユさんって昨日、研究所に泊まったんですよね」
「ええ。護衛の間は、その予定をしてます」
だったら、ろくに休めていないのではなかろうか。
解決まで数日と、思ったよりも怒涛の勢いで解決したとはいえ、研究所には室長室という名の私室に私用のベッドがあるだけで、ソレイユさんが使ってるだろう所長室にはソファしかない。
「ちなみに食事は?」
「昨夜はビームス所長が差し入れをしてくれました」
「外に出て食べようとは思わなかったんですか」
「一応、留守番も兼ねてますので」
「……」
「問題はありません。今朝も護衛所で馬を借りたついでに、食堂で食べてきましたから」
うーん。
それを信じていいものか。
この絶世の美貌を持ち合わせているくせに、騎士道精神の影響か、意外と人がよい。
でもって、妙なところで自信を揺らがせながらも、お務めに根を詰めすぎる傾向がちらほら見受けられる。
騎士様なだけに、なまじ体力があるせいで、睡眠や食事が少々疎かになっている気がしてならない。
今日のお昼だって、私と同じくらいしか食べてなかった。
まあ、空腹で倒れた人間に言える資格はないのだけど、だからこそ気になるというもの。
それに、お休みをもらっている私が、バリバリ仕事中な騎士様といるのは申し訳なくて居たたまれなさが微妙に引っかかってる。
「あの、ソレイユさん。もし、よかったら、うちで食事していきませんか」
「え!?」
結構、おもいきった誘いの自覚はあった。
でも、そこまでぎょっとされると、更なる誘い文句を発する勇気は根こそぎ刈り取られ、なんでもないですと誤魔化す気力さえ残ってない。
なんなら、いますぐ未確認生物に誘拐されてしまいたい。
「あ……りがとうございます。イスズさんのご迷惑でなければ、お招きに与ってもいいですか」
これは完全に気を使わせたなと、目を合わせるまでもなくわかる。
「いえ、気にしないでください。ソレイユさんは研究所の留守番をしないとですしね」
「それは大丈夫です。昨晩も何もありませんでしたので、ビームス所長も戸締まりさえしておけば、空けていても構わないと」
ここまで言われたら、今度は頑固に引く方が感じが悪くなってしまう。
だけど、素直にどうぞとは、どん引かれた衝撃が大きすぎて言えそうにない。
「イスズさん?」
ああ、ほら、変な心配をかけてる。
さらっと流して、返事をしてしまえ。
脳内では、しゃんとしろと叱咤激励しているのに、ぽんこつで臆病な体は俯いたまま金縛りみたいに動かない。
「今日は、もう少し、イスズさんと一緒にいさせてもらえませんか」
「え?」
言われた意味がわからなくて、つい顔を上げたら、真面目な顔つきで護衛の任務も後少しだからと続けられた。
そうだった。
本当なら、任務はとっくに終わっていたはず。
よく考えてみれば、報酬を払うわけでもない私が、あんなマカロンだけで礼を済ませようとは失礼な話だ。
しかも、一個どころか二個も贈り主の中に収まってしまっているんだから、恩を増やしたようなもの。
たいしたものは出せないけど、せめて精一杯のもてなしをしようと思い直し、今度は快く返事ができた。




