続・全部話します
* Sideイスズ
「それで、結局、イスズが狙われていた理由はなんなわけ?」
一件落着なムードのここで冷静な質問をしてくれたのはクリップだ。
「あ、ホントだ。イスズが何を隠してたのかは言ってない」
クリップは抜け目がない。
おかげで、ナナコさんにも気づかれた。
いや、ここまできたら話す覚悟はしてるけど、今になって真相を暴露するのが恥ずかしい気がしてきただけなんだけど。
「伝えにくいなら、僕から話しましょうか?」
ジェットの親切は嬉しい。
でも、だからこそ、首を振る。
本当に知っているのは私だけなんだから。
「サハラ・アザリカが私を狙った理由は、これです」
手にしていた日記帳をみんなに、特にナナコさんに見えるよう机に置く。
「中には、病弱な女の子が療養先の森で妖精の王子様と出会う恋物語が綴られてます」
「あ、私、知ってる。最後に、女の子が宝物をもらって幸せになるって話でしょ」
ナナコさんの発言にぎょっとした。
「知ってたんですか?」
「だって、子ども向けの絵本でしょ」
「……ちなみに、誰にもらったんです?」
「さあ。たぶん、おばあちゃんだと思うけど、それが何?」
この様子なら真相を知っているわけではないっぽい。
やっぱり、私が説明するしかない。
「この女の子は単なる妄想を日記にしていたわけではなく、日記を妄想に装って記録していたんです。この女の子の名前はヤエコ姫。妖精の王子様は彫刻家。そして、最後にもらった宝物はナナコさんです」
「……は?」
チンプンカンプンなナナコさんをさて置いて、同僚の研究員は瞬時に事情を把握したらしい。
「なるほどな。バカボン様は国王になりたかったわけか」
「ないない。噂だけで真っ黒なのに」
「ラグドール王に勝てると思った時点で詰んでるだろ」
うんうん同意するばかりの同僚に「実際、本当に詰んでましたよ。尋問に、ドラグマニル公とラグドール王が顔を揃えたんですから」とジェットがつけ足したら驚愕された。
「はあ?!」
「こわっ!」
「うわー……」
話を聞くだけで、これほどの反応をされる場にイスズもいたのだと思うと、改めて背筋がぞっとする。
「イスズ」
ここで、ビービーが説教モードで呼んできた。
「色々言いたいことはあるが、一つだけ――」
「なんで、なんで私が宝物なの!? ヤエコ姫って、あの、コインの顔になってるヤエコ姫でしよ??」
丁度、混乱から我に返ったナナコさんに持ってかれた。
「そのヤエコ姫の宝物である娘さんがナナコさんなんです」
「は? じゃあ、私、ドラグマニル公の孫ってこと?」
「です」
「あの人、私のお祖父ちゃん?」
「です」
「イスズじゃなくて?」
「そうです。ナナコさんの祖父なんです」
「いや、意味わかんないし」
さすがのナナコさんも戸惑っているようだけど、真実なのだから信じてもらうしかない。
「だいたい、なんで、それで王様まで出てきたのよ」
「あー……それは、その、私は知らなかったんだけど、ラグドール王がヤエコ姫の遺児だとかって噂があったらしくて。あ、でも、ホントはサハラの母親違いの義兄だったんだけど」
「はい?」
「だから、サハラ・アザリカは私にナナコさんがヤエコ姫の娘だって騒がせて、ラグドール王を追い落としたかったらしいんです」
「それは無理でしょ。ラグドール王、女子人気超高いし」
「ですよね。だから、私も、そんな目的だなんて思わなくて悩んじゃって」
一通り説明したところで、ナナコさんが深くため息をついた。
「まあ、一応、とっ散らかった事情はわかったわ。けど、一番の謎は、なんでイスズが頑固に口を割らなかったかなんだけど」
「それは俺もだな。さっさと打ち明けていれば、所内で処理もできたんだぞ」
ナナコさんの疑問にビービーも同意したから、さっき半端になった説教はこれだったのかも。
※ Sideソレイユ
なぜ、イスズがナナコさんの出生を頑なに噤んでいたのか。
それは自分にも最後まで謎だった。
ナナコさん本人には告げずとも、所長に相談するくらいはしてもよかったはずだ。
まあ、そうなっていたら、今頃、騎士など必要なかっただろうと思えば少々複雑ではあるのだけれど。
「それは……」
「それは?」
まだ躊躇いのあるイスズに、ナナコさんの追求は緩まない。
「ナナコさんの幸せを守りたかったからです!」
「……はあ?」
一大告白のように打ち明けられた真相だけども、ナナコさんを始めとして、先程は鋭い頭の回転を見せた一同でもピンとくるものがなさそうだ。
もちろん、自分も意味がわからない。
「あのさ、イスズ。普通、実はお姫様の生まれだったとかって、女の子にとったら超サクセスストーリーなわけ。それを黙ってるなんて、嫌がらせにしかならないからね」
「そうですけど、でも、ナナコさんは、そうじゃないですよね」
モジモジと上目遣いで訴えるイスズに、意外にも反論は続かなかった。
「だって、ナナコさん、今付き合ってる靴職人さんのこと、本気ですよね。これまでだったら買って詰めるだけのお弁当も、今の人にはちゃんと手作りしてるし、ブランド物のおねだりもしてないし、メイクの仕方まで変えたじゃないですか」
「な、な、なんで、あんたが知ってるのよ!!」
「普通に見てればわかります」
さらりとイスズは言い返していたが、同意する人はいなかった。
「イスズさんは、ナナコさんが好きなんですね」
微笑ましくて思わず口にすると、イスズは二、三度まばたいた後、はにかむように頷いた。
「いっつも綺麗でいい匂いがして、不器用な私は呆れられてばっかりですけど、面倒見がよくって、私の憧れなんです」
そう言って照れているイスズも充分に愛らしいのだけど、肝心のナナコさんはいい話で終わらせるつもりがないらしい。
「で、そんな憧れの私を守るために、あんたは身を呈したってわけ?」
ギロリと睨まれて、イスズは、きゅうっと縮こまる。
「別に、自分を犠牲にするとか、そんなつもりは……」
「ええ、ええ、そうでしょうね。下剤を盛られて、空腹でぶっ倒れて、騎士様が出張るような事態になってんのに、あんたは体なんて張ってないとか言うのよね」
「うっ……」
「イスズ。あんた、まさか、私が感謝するとでも思ってるんじゃないでしょうね」
「いえ、完全なる自己満足です。はい」
「わかってたって、直さないなら、わかってないのと同じなのよ」
「うううっ……」
ナナコさんは見事に容赦しなかった。
「イスズ。ナナコが全部言ってくれたから、これ以上は言わないが、明日から三日間は謹慎だ」
「え、そんなぁ」
ビームス所長の沙汰に、大きく肩を落として落ち込む姿が可哀想に見えるも、端から見ている分には少し違うのではないかと感じていたら、ナナコさんがイスズのおでこを叩いて叱った。
「馬鹿ね。気、張りっぱなしのあんたに休みをくれたんだから、そこは、お礼を言って感謝するところでしょ」
「え、あっ、ビービー……じゃなくって、所長! どうもありがとうございます」
「特別に半分は有給にしてやるから、しっかり休め」
「はい」
「それから、ヴァンフォーレ君。悪いが、その三日間、イスズの護衛を継続して頼む」
「「え」」
その驚きの声は、しっかり双方から上がっていた。
まだまだ続きますし、まだまだくっつきません!
次回、休日編に突入☆




