王
* Sideイスズ
どうして、こうなった!?
最悪を回避しようとした結果、最悪以上に分岐しちゃった気がしてならない。
「まずは、中に入ろうではないか」
屋敷の主であるドラグマニル公の意向に、誰が異を唱えられようか。
「ジェット、何言ったの?」
「何も。イスズさんこそ、どうしてここに」
後ろで、こそこそと互いの確認をしてると、横から騎士様がとんでもないことを囁いてくれた。
「気をつけてください。中に、現国王がいらしています」
これにはジェット共々、目を見開いて固まったけど、立ち止まっている間もなく室内に誘導される。
ちょっと待ってとも言えずに進むしかない状況で少しだけ立て直せたのは、背中にポンと寄せられた騎士様の手による気遣いのおかげだ。
中に入ると、確かに雑誌や新聞記事で見覚えのある顔がある。
妙に威厳があると思ったのも当たり前だ。
ついでに、こんなところにいるとは思わないから、一般庶民が気づけなかったのも当たり前。
「お二人は、こちらへどうぞ」
ドラグマニル公についていたメイドさん達に促されて、私とジェットは入り口近くに並んで座らされた。
騎士様は席を勧められても断って、護衛として後ろについてくれる。
そうして着席した目の前、部屋の中央には騒動を引き起こした元凶だろうサハラ・アザリカと配下の男達。
そんな彼らが対面しているのは、元国王のドラグマニル公とその親族である現国王のラグドール様。
さすが王様は、彫刻のような堀の深さが親しみを遠ざける迫力を醸している。
もてなしを整えたメイド達が捌けていったら、息つく暇なくドラグマニル公が指名してきた。
「さて、イスズ。何を知った?」
「うっ……」
「ここにいる者は大半が知っている。知らない者も、充分に知る権利があるだろう」
それは、そうだろうけど、この面子の中で打ち明けるのは色々な意味で気が引ける。
「イスズ」
こうまで催促されては観念するしかないというものだ。
「とある女性が療養所で恋をして、娘さんを産んだとか、なんとか……」
ぼかして言ってみたら、新旧国王は特別反応がなかったけど、仕掛けたサハラは不快な色を隠さなかった。
「ふむ。では、根本から問い質すことにするか」
ドラグマニル公は次に親族のサハラをターゲットに見据えた。
「高台の屋敷を暴いたのはサハラだな」
「伯父上。国王が国民を騙して居座るなど、王族の端くれとして私は許せません!」
「サハラ。私は、私の許可なく私の領地を土足で踏み荒らしたかと聞いている」
「つっ!?」
それは私が知っている優しい好々爺からかけ離れた雰囲気で、ビリリと厳しい緊張感が走る。
「だ、だって、それは、伯父上の為と思って……だいたい、そこの女が悪いんだ」
窮地に追い込まれたせいか、なぜか私を巻き込みだした。
「そこそこ優秀だと聞いたから情報を流したのに、脅しても黙っているから頑固な臆病者だと失望していれば、あの日記の意味もわかってなかっただなんて、とんだ無能研究員もいたものだ。伯父上、そんな奴、さっさとクビにしてやってくださいよ」
これまで、ドラグマニル公とサハラがどんな付き合い方をしていたのかなんて知らない。
だけど、今後は良好な関係ではいられないだろうことは、私でも想像がついた。
「彼女は全てを読み解いた上で、穏便に済ませるために自分一人で抱え込んでいた。お前に、どれほど恐ろしいめに遭わされようともな」
「それは、あり得ない! この女は、ナナコ・カザリアと仲が悪い。自分の身を危険に晒してまで庇う理由がないんだから」
ああ、もうっ。
サハラは必死に隠していた名前をとうとう口にしてくれた。
「ナナコさん?」
唐突に出てきた事務員の名前に、ジェットがこちらを見つめてくる。
ついでに、背後からもどういうことだと疑問に思っている気配を感じた。
「ナナコの本当の家名はアザリカ。私の娘が産んだ子だ」
ドラグマニル公の告白に、覚悟していても、ため息がもれる。
ここまでの騒動になった以上、いずれはナナコさんにも知れることなんだけども、国王まで知ってしまったとなれば、今の暮らしをまっとうすることは難しいかもしれない。
それだけは避けたかったから頑張ってみたのに、もっと上手く対処できてたらと後悔が込み上げてくる。
「あの、ドラグマニル公。ナナコさんの母親とは、療養中に亡くなったとされているヤエコ姫なのですか」
ジェットが、控えめながらも黙っていられずといった様子で訊ねた。
「そうだ。公式には独身となっているが、療養先でいい人と巡り会えてな」
「でも、それは……」
先を言い淀んだジェットは、こちらに視線を送ってきた。
「ナナコさんは今の暮らしを大切にしています。どうか、そっとしておいてくれませんか」
真剣にお願いを口にした途端、場違いな発言をした小娘を見るような視線が集まった気がする。
「イスズさん」
ジェットに手を握られて横向くと、深刻な表情に何かやらかしたのかと冷や汗が滴ってきた。
「ラグドール国王は、そのヤエコ姫のお子だとされているんです……」
小声で教えられて、今度こそ青ざめる。
王族の血を引くナナコさんを保護して話題作りとか、無理やり結婚して発言力を高めるとか、そんな下らない理由だと思っていただけに信じられなかった。
「イスズさん、知らなかったんですか」
「だって、ラグドール王って、跡目争いでどうにもならなくなった王宮をどうにかするためにドラグマニル公が推薦した人物でしょ」
「でも、イスズさんなら王族筋の出自に関する秘密だとわかった時点で、相続問題を着想するくらいできたはずです」
「そりゃあ、一度は考えたけど、即、却下した。今の幸せを壊してまでナナコさんがお姫様生活を望むとは思えなかったし、他に継げる男子がいる中での姫様の娘じゃ、利用したところで金目当てがせいぜいでしょ。だいたい、荒んでいた王宮を立て直して評判のいい、おじいちゃんと瓜二つの王様を引きずり下ろそうとか考える国民の敵がいるだなんて、へそで茶が湧くレベルの野望じゃない」
動揺しすぎて、つい、遠慮なく内輪の本音を返しちゃったわけだけど、部屋の誰もが注目していたので、小声でもばっちり聞かれていたくさい。
それが、わかったのは「ぷふっ」笑いを洩らした人がいたからだ。
笑われたのに、怒るよりも呆然とする。
笑っていたのが石膏像のように生気を感じられなかったラグドール国王だったから。
ひと息遅れて、さっきのが丸聞こえだったのだと焦る。
「すみません、大変失礼しました」
それはもう、深く深く頭をさげたのだけど、ラグドール王は気にした風もなく「どうぞ続けて」と返してきた。
いや、どうぞと言われても、これ以上、何をやらかせと?




