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美貌がすぎる騎士様と頑なな護衛対象

途中で視点が切り替わります。



* Sideイスズ



「あの、これでよかったでしょうか」


「……」


着替え終えて出てきた騎士様を見て絶句した。

一番質素な服を選んだはずだったのに、シンプルな分だけ、かえって美貌が際立っていた。


「これは無理だわ」


深くため息をついて騎士様に近づき、更に地味になってもらうべく手を伸ばして、眉間にしわが寄る。


「あの……」


「すみませんが、少し屈んでくださいませんか」


礼儀正しい騎士様は何も言わずに聞いてくれたので、遠慮なくセットされた前髪をぐしゃぐしゃとかき回した。


「これでも、まだ目立つ」


仕方ない、眼鏡も追加だ。


「度は入っていないので、かけてください」


「はい」


それでもやっぱり、得体のしれないオーラが出てるけど、これ以上は無理そうだ。


「これから出かけます」


「どこの出版社ですか」


「言ってもわからないような、小さい会社です」


「城下の見回りは騎士としての業務の内です。侮ってもらっては困ります」


まさかの、言い返された。

でも、確かに、ちょっと失礼だったかもしれないから、会社名を告げると覚えがあったらしい。


「では、移動は馬車ですね。研究所専用ですか? それとも、どこか契約している交通商社ですか」


さらりと出てきた返しに、気まずさは吹き飛んだ。


「いいえ。うちは貧乏研究所なので、基本は徒歩です」


「え、ここからなら一時間はかかりますよね」


「うちは貧乏研究所なんです!」


用意しておいた肩掛けカバンをかけると、睨みつけて無言で階段を降りる。

そんなに護衛がしたいなら、勝手にしてほしかった。




※ Sideソレイユ



失敗したなと思う。

完全に護衛対象の機嫌を損ねたのは自分でもよくわかった。

今回の護衛は急な話だったので、事前に得られる情報が少なかったのもあるし、このイスズという研究者はずいぶんと気難しいタイプのようだ。

ただ、研究所の建物を出る時、わずかに躊躇いが見れたので、しっかり護衛してあげたいと気を引き締めた。


対象者は気の強そうな印象に似合いの早足な運びで進んでいく。

背丈の差もあって、ついて行くには困らないものの、護衛を完全無視して歩かれるのはさすがに問題だった。


「あの、到着するまで、少し話をさせてもらえませんか」


「個人的に親しくなる必要は感じませんが」


「警護として必要な確認をさせていただきたいのです」


「……なんでしょうか」


頑なにこちらを振り返らずもと、返事はしてくれたのでホッとした。


「相手はどんな方だったのですか」


「相手?」


「はい」


「なんの話ですか」


ここで護衛対象は足を止めて振り返った。

おかげで、今度はこちらの方が顔を見づらくなってしまう。


「ですから、その、付きまとわれている相手についてです。以前、交際されていた男性なのですよね」


「いいえ」


「ん?」


「過去にも現在にも未来にも、そんな人はいませんけど」


「そう、なのですか」


「はい」


「でしたら、誰に付きまとわれているのでしょうか」


こちらは、彼女がストーカーに付きまとわれて外出ができないのだと聞いていた。

一瞬、あれだけ護衛を拒絶していたのは付きまとわれている話が嘘だからではとも考えたが、外に出てからの緊張感を見ていれば単純に否定もできない。


「わかりません」


「本当に?」


重ねて問いかけると、無言で睨みつけて移動を再開した。


「相手がわからないと護衛ができないのなら、お帰りください」


「そうは言ってません」


「でしたら、下世話な詮索なんてしないで、お役目をまっとうしてください」


帰れだとか下世話だとか言われれば、冷静で温厚な方だと思う自分でも面白くないものがあった。

だから、それから先は最悪の雰囲気だ。

途中、手土産として焼き菓子を購入した他は、辿り着くまで会話がなかった。


ようやく目的地に到着した時には 、どっと疲れを感じた。

しかし、中に入ると違う意味でもやっとしてしまう。


「先日の掲載、ありがとうございました。お礼が遅くなってすみません」


「いえいえ。こちらこそ、寄稿いただき感謝しています。おかげで、あの号は評判がよかったんですよ」


「そうですか、安心しました。どうしても発表したくて、無理にお願いしたのではと心配だったんです」


「何をおっしゃいますか。また載せたい論文や発見があれば、ぜひ、うちに任せてください」


「ふふ、ありがとうございます。所長にも伝えておきますね」


小さい会社だからか、社長自ら彼女を歓迎していた。

聞いていた通り、優秀な研究者なのだろう。

ただ、少々納得いかなかったのは、彼女が和やかな態度でいることだ。

社会人としては当たり前の対応なのだろうけど、あれだけ理由もわからず散々な言われようだった自分はなんなのだと思ってしまう。

いや、簡単に気持ちを乱すのは未熟な証拠だと反省しつつ、よかったら別の仕事をしないかと誘いをかけられている姿を視界に入れた。


「君は、新しい研究員なのかい?」


ふと、脇から話しかけられて振り向けば、出版社の社員らしき若い男だった。

対象者の指示に従って、地方からの研修員だと自己紹介しておく。

初対面だとじいっと見られがちなのだけど、変装のせいか軽い挨拶されただけで、すぐに視線を外された。


「イスズさん、いいですよね。すごく熱心で、あいまいな表現は使わないし、ホラも吹かない。胡散臭いと思われがちな業界だけど、彼女の論文は別格扱いです」


騎士一本槍の自分にはわからない業界ながら、身内以外からも評価は高いらしい。

これなら、関係者の逆恨みやファンを称する誰かの仕業も充分にありえるし、当人にストーカーの心当たりがないのもおかしくなさそうだ。


「この話は持ち帰って、研究所で話し合ってみますね」


「どうぞ、どうぞ。ぜひとも、よりよい返事をお待ちしております」


別れの挨拶をしているのが聞こえたので、こちらも情報収集を切り上げる。


「では、失礼いたします」


彼女は笑顔で別れを告げていた。

そして、出版社を離れるなり、再びぶすっとしてしまう。

つい、横目で帰りも無言の道中かと憂鬱になった。

どんなに苦手な相手だろうと、騎士が護衛の役目を担ったのなら私情は挟まず、完璧に守り通さなければ意味がないのに。


「俺には後がないんだからな……」


強く拳を握りしめ、改めて己の決意を確認し直した。

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