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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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歩み寄り


* Sideイスズ



騎士様は怒ったのだろうか。

私だって、意地悪で黙っているわけじゃない。

ただ、本当に話せない事情あるだけなのに。


「ソレイユさんには一緒に来てもらいたいので、最後まで隠しておくつもりはありません。それに、私だって怖くないわけじゃないんです。でも、いつまでも、みんなに迷惑かけられないし、ソレイユさんにとって私みたいのは厄介なだけかもしれませんけど……」


言い訳がましいと自覚しながらも、ここでのすれ違いはよくないと訴えていた主張は、振り向いた騎士様の愁いを帯びた眼差しによって止められる。


「私にとって、イスズさんがどんな人なのか、自分でもわかりません」


そんなことを言われたら、私にとっての騎士様だってわからない。


「ですが、私は貴女のために遣わされた騎士です。イスズさんは思うように行動してください。私は、ただ黙ってお守りいたします」


切り替えたように淡々と告げられると、突然距離を置かれた迷子の気分にさせられる。


私が最初に比べたら少しは気心が知れたと思えた騎士様は勘違いで、揺れながらも騎士道を貫こうと頑張っていた姿はなかったことのよう。

違いすぎる気質ながらも努力や誠意に共感して、応援したくて、信頼できると感じたソレイユさんが幻にされようとしている気がした。


「ソレイユさん。私を止めたいなら止めてください。怒ってるなら、ちゃんと言ってください。だから、私が誰でもいいみたいに扱わないで」


泣いたら酷い顔になるとナナコさんに言われたことが残っていて、涙はなんとか堪えられた。


だいたい、私はこんなことを言い出すようなキャラじゃない。

偉そうに、どの立場で言ってるんだと恥ずかしくて堪らない。

きっと、緊張続きで神経が参っているせいだろうけど、言ってしまった本音を簡単に覆したくもなかった。

たとえ、どんなに呆れたように凝視されようとも。


「イスズさんと隊長は、どんな兄妹だったのですか」


「……ソレイユさんの言いたいことって、それですか?」


「無理にとは言いませんが」


そんなに、尊敬する隊長のことを知りたいのだろうか。

でも、あのままの態度を通されなくて、ホッとする。


「仲よかったですよ。いっつも一緒に虫取りとか探検ごっことかしてました」


「オカルトに興味を持ったのも、隊長の影響ですか」


「まあ、そうですね……私、兄が家を出た後、学校に居場所がなくなったんです。前にも言いましたけど、女の子達に馴染めなくて、だからって男子と遊んでると悪口を言われて。嫌になったから、兄が置いていったオカルト本を片手に一人で冒険ごっこをしてたんです。その時にビービー、所長に出会って、今の研究所の立ち上げに参加させてもらったんです」


言ってから、兄妹の話というより、自分の話になっているのに気づいて強引に軌道修正する。


「とにかく、口が悪いところもありますけど、面倒見のいい兄でした」


今だって、いざとなれば、四年ぶりだろうと駆けつけてくれるのだから。


あれ?

ということは、兄はビービーから相談されて騎士様を派遣してくれたということになる。

それは、つまり、兄側にはビービーを通して、音沙汰ナシの四年間もこちらの情報を得ていたという証拠なのではないだろうか。


今更、二重に裏切られた気分になっていたら、ソレイユさんが真っ直ぐ、こちらに向き合っていた。


「不安にさせて申し訳ありませんでした。最初に宣言した通り、私は全力でイスズさんをお護りします」


そこには、私が信頼を寄せた、生真面目な騎士のソレイユさんがいた。


「時間を取らせてしまいましたね。では、参りましょう」


木漏れ日を受けて頼もしく微笑んだ騎士様に、こんな時ながら、うっかり胸を騒がせて密かに動揺してしまったのは痛恨の極みだ。




※ Sideソレイユ



イスズに強引に隊長の話に戻された時に気がついた。

自分は彼女の話が聞きたかったのだと。


こんな時に何をと思いながらも、不思議と余計な迷いはなくなり、素直に笑えた。

代わりに、イスズの方がぎくしゃくしてしまったのだけど、なぜかはわからない。

わからないけど、張り切って敵に突撃されても困るので黙っておいた。


こういうのも、悪い男と言われてしまうのだろうか。


「ああ、屋敷が見えてきましたね」


釣られて顔を上げたイスズは、見るからに気合いを入れていた。


「ソレイユさん、余計なことは言わずについてきてください」


まるで、こちらこそが天敵だとでも言いたげなイスズの視線に笑いたくなってしまう。


「はい、お任せください」


イスズに合わせて気持ちよく応えたつもりだったのだけど、どうしてだか、益々顔をしかめられてしまった。

そうして、本日何度目かの、できるなら笑顔が見たいとの考えに思い至るが難しそうだ。


目的の屋敷に到着すると、イスズが進んで門番に話しかけたので、こちらは護衛に徹するだけでよかった。

最初はやんわりと断られたのだけど、イスズが主人縁の研究所所属だとわかると、態度が変わった。


「あなたでしたか。ずっと、お待ちしていました」


「ええと……ドラグマニル公は何と言っていたのでしょうか」


恐々と訊ねるイスズに、門番はにこやかに答える。


「これは、失礼しました。公からは、内気なお嬢さんなので、寛げるおもてなしをするよう言い遣っております」


「それだけですか?」


「はい。ただ、公が使用を許された方は、報告を受けてから一・二ヶ月の内に一度はお見えになるのですが、あなたは三年もいらっしゃいませんでしたからね。誰が最初に案内するか、屋敷の者は楽しみにしておりました」


「それは、それは……」


慎ましい遠慮が、こんなことになっているとは思わなかったのだろう。

イスズは、なんとも言い難い表情で顔をそらしていた。


「今、ご案内しますので、少々お待ちください」


門番はウキウキした背中で反対側の同僚に報告へ向かった。

見た限りでは、対応した門番は同僚から羨ましがられているようだ。


「この格好でよかった」


「いつもの白衣でも喜ばれたと思いますよ」


本心だったのだけど、イスズには、またもや睨まれてしまった。

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