相乗り
* Sideイスズ
「ひっ」
思わず悲鳴を上げた心臓は、どえらいことになっている。
安定しない横座りなのにガンガン馬を走らせてくれるせいで、掴まるところのない私は死に物狂いでバランスを取るしかなく、とうとう体がぐらついた時には人生の終わりを覚悟した。
できれば軽傷、無理なら一撃で終わらせてくれ、と。
まあ、結果的には怪我一つ負わずに済んだ。
騎士様の腕が伸びて支えてくれたから。
しかし、ホッとしたのも束の間、更に抱き寄せられたから、わけがわからなくなる。
体の左側が騎士様の胸元にぴとっと寄りかかってて隙間がない。
何、これ。
どういう状況!?
動揺しつつも、本当にわからないわけじゃない。
寄りかかってると、さっきよりも安定感は歴然の差。
きっと、騎士様も手綱を操りながら走らせづらさ感じていたのだろう。
だから、安定した形を維持しているに違いない。
だからって、そういう事情を読めたところで、心臓がどえらいままで落ち着いてくれない。
どころか、脈拍が着々と上がっていくくせに、騎士様なだけあって胸板が厚いなとか、この香水の匂いは汗も混じってそうだなとか、変態じみたことを考えてしまう自分が嫌すぎて申し訳ない。
景色も自分も見失う中、速度が緩んだ時には、心底ほっとした。
ようやく腕が離れて解放されると、あちこちスカスカした物足りなさを感じてしまったのは気のせいにしておこう。
「イスズさん」
先に降りた騎士様が、今度は断りを入れてくれたけど、むすっと睨み返してやった。
ここは、きっちり言っておかねばならない。
「騎士様が、護衛する相手を危険な目に遭わせてどうするんですか」
さすがに自覚があるのか、素直に頭を下げて、ちらりと上目でこちらの反応を窺ってくる。
高低差があるので、まるで、かしずかれているみたいだとか思い浮かんで、慌てて否定した。
騎士様が求めているのはオタク研究員ではなく、護衛者の許しだ。
「わかってくれたのなら、もういいです。……支えてくれて、ありがとうございました」
一応、お礼を伝えると、小さく「よかった」と聞こえてきた。
それから、どうぞと手を伸ばしてくる。
そこで、はっと気づいてしまった。
馬から降りるには、私が自ら、騎士様に身を預けなくちゃならないことを。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
否定したところで、なんでもなくないのは明白だろう。
改めて、この人に寄りかかっていたのだと思ったら、顔が熱くて大変なことになってくる。
落ち着け、落ち着け。
「失礼しますね」
動かないのをどう思ったのか、騎士様は膝の裏に片手を入れてくると、もう片方を腰の辺りに回して抱え上げてしまう。
恥ずかしすぎて離れようとしたらバランスを崩して、かえって抱きつく形になるとか思わなかった。
「立てそうですか?」
横抱きされたまま至近距離で問いかけられたら、解放されたい一心でコクコク頷くしかない。
慎重に下ろされると、よろめきながらもなんとか自立できた。
「怖がらせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ……」
もちろん、怖がって動けなかったわけではない。
だけど、誤解してくれているなら都合がよかった。
まともに顔を見れなくて目線を彷徨わせていると、なぜかこちらに向かって拝んでいるフェイルが視界に入ってくる。
「何しているんですか」
「いやぁ、尊いものを見せてもらったら、こうなるだろ」
「意味不明なので、やめてください」
おかげで一気に冷静になれたところで、騎士様が何かに反応してることに気づいた。
視線を辿ると、人影が馬を引いて、こちらに歩いてくるっぽい。
木陰のせいで、どんな人物かまでは判別できてないはずなのに、さっきまでとは違う緊張感で心臓がドクンと跳ねた。
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と思ってたら、更新する前に、もういっこ増えてました。
ありがとうございます♪♪




