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騎士様は逃亡中  作者: よしてる


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愉しいお茶会


* Sideイスズ



「みなさま。モモカのお茶会へ、ようこそ」


お姫様の挨拶に、私を除けば四人の令嬢達が上品にカップを掲げて優雅に会は、お嬢様ばかりの参加者なので、うふふ、おほほと和やかな調子で始まった。

しかし、私は「女の子が群れたら、そこは戦場だ」と言い切るナナコさんの格言を実感していた。


「イスズさんは、ご出身はどちら?」


「まあ、研究者なの。どちらの教授に師事をしているのかしら」


「黒騎士様とは、どんな経緯で護衛をしてもらうことに?」


「何か勘違いとかなさっていないといいのだけれど」


「……」


可愛らしい笑みを浮かべながらも、口にする言葉はどれも遠慮がない。

多少の覚悟はしていたけど、ここまでの集中砲火は想定していなかった。

そして、騎士様がモモカ姫を恐れていたものが理解できるような気がしている。


私が困惑しているのが明らかなのに、主宰のモモカ姫はにこやかに会話を見守っているだけ。

その笑顔が可愛らしければ可愛いらしいほど怖く見える。


やっかいなのは、唯一味方の騎士様に助けを求めると、火に油を注ぐばかりになることだ。

いっそ、おどろおどろしい恐怖伝説でも語ってやろうかという気分にもなるけれど、このお嬢様方ならキャーキャー騒いで喜ぶだけかもしれない。


せっかくのエグゼクティブなサンドイッチやケーキがまともに味わえない状況で、孤独にお嬢様方のお相手をするしかないわけで、答えたくない質問には微妙に焦点をずらして返し、時には覚えていない、記憶にないとすっとぼける。

気分は、まるで追い詰められた為政者のみたいだ。


「ところで、そちらのドレスはどちらのブランドかしら」


自分に関するやらしい質問が続く中、ようやく答えに困らないことを聞かれたので、清々しく本当のことを言う。


「スイレイです」


これだけは、なんら恥じることのない事実だから。

ついさっきのフェイルさんの取材でも答えたばかりなので、ためらいはない。

だけど、コレこそ、ためらうべきだったのだと気づいたのは、令嬢達のリアクションを見た後のこと。


「ええ!! 黒騎士様のお母様公認なの!?」


彼女達の反応は、悲鳴に近いどよめきだった。

中には椅子から腰を浮かせた人もいたくらい。

とは言え、悲鳴を上げたいのはこちらも同じだ。


一瞬で事態を察したからには、飛躍しすぎの誤解を改めなくてはいけない。


「あのですね……」


しかし、令嬢達の勝手な解釈の方が遥かに勢いが強い。


「あのドレス、本当にスイレイのものかしら。見たことのない雰囲気だわ」


「だけど、黒騎士様の前で嘘をついてどうするのよ」


「あっ、まさか、近々デザイナーデビューすると噂だった、お姉様の作品では!?」


そこで令嬢達の視線が集中再来した。


怖い、怖い、怖い。

ほんのやりとりで正確に見抜いてしまう情報通さと事実を無視した乙女達の逞しい妄想力が加速して、鬼姑のようにじろじろと観察される。


「正直、ドレスだけは素敵だと思ってたのよね」


「ちょっと、これじゃあ、話が違うじゃない」


「いいえ、まだわからないわ。もしかしたら、何か脅しているのかも」


「少なくとも、色気で誘惑したとかではないわよね」


「……」


勝手なことを言いたい放題だ。

彼女達には目の前の当事者が見えていないのだろうか。

何より、この大いなる誤解を騎士様はどう思っているのか気になって仕方ないし、すぐ後ろに気配があるのに振り向けないのがもどかしすぎる。


今、騎士様はどんな顔をして、どんな気持ちでいるのだろう。

背後にばかり気が向いていると名前を呼ばれたので、反射で振り向けば、相手はモモカ姫だった。


「イスズさんは、ヴァン様のお母様と親しいのですか」


「まさか、そんな、ぜんぜん違います!」


思わず、慌てて否定してしまった。

なぜなら、ものすごく哀しそうな瞳で見つめられたから。


「そうなのですか?」


「は、はい。装いに困っていたので、見るに見かねて紹介してくれただけです」


「まあ、そうでしたか」


途端にモモカ姫に笑顔が戻った。


なんて恐ろしい。

それでも可愛いと見とれてしまう愛らしさ。


騎士様がどんな顔をして、どんなことを考えているのかは、今は少しも知りたくなかった。


「そろそろ、全体の写真撮影に入ってよろしいでしょうか」


ここで取材陣から声がかかって、本当に助かった。

でなければ、魔性のモモカ姫と美貌の騎士様に挟まれて、何を口走ったものかわからない。


心からホッとしていると、どこからかモモカ姫の侍女達が現れてメイクと髪の直しが入る。

直すところなんかあるのだろうかと眺めていたら、ミリ単位で髪を直しているようだ。

そんなことをしなくても、魔性と付けたくなるくらい可愛らしいのに。


ただ、カメラマンがセットし終わる頃に侍女達も捌けていたのは感心してしまった。

プロの仕事は、どんなジャンルだろうと称賛したくなるものだ。

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