強固な騎士様
* Sideイスズ
「一番扱いが多いのは幽霊。次いで、妖精や妖怪などの知的未確認生物。他には神隠しや超能力なんかも守備範囲にしています」
「え?」
予想通りに戸惑っている騎士様に満を持して通称名を告げる。
「もうおわかりでしょうけど、ここは人呼んでオカルト研究所なんです」
予想通り、騎士様の頬が引きつった。
よくよく観察していないとわからないくらいで済ませたのは、さすがの騎士道精神というべきか。
「ですから、騎士様の評判のためにも、今回の警護はお断りください」
「いいえ。一度請け負ったからには、必ず任務はまっとうしてみせます」
「は?」
想定していなかった返答に、今度はこちらが戸惑う番だ。
「いやいや。だってオカルト研究所ですよ。心霊写真とか、宇宙人侵略とかを真面目に議論するんです。そんなとこに出入りしてたら、騎士様までお仲間だと思われちゃいますよ」
「私の評判など、お気遣いは無用です。それよりも、護衛の務めを果たせない方が騎士の名折れですから」
「くっ。騎士道精神、手強いな」
「何か?」
「いえ、なんでも……。ただ、騎士様はオカルトの類いは苦手ですよね。一日中そんな話ばかりを聞いていたら、蕁麻疹が出たりするかもしれないんですよ」
「……私は、そんなに軟弱に見えるのですか」
「だから、どうしてそう取るんです」
会話の噛み合わなさが焦れったくて腹が立つ。
「あのですね、私、こう見えても極端ながら幅広い付き合いがあるので、佇まいや仕草でオカルトの耐性度合いが見分けられるんです。それに従えば、騎士様は典型的な免疫なしタイプで、誰かと話題にしたことすらないくらい縁のない方ですよね」
騎士様はあごに手をあててしばらく考えた上で、そうかもしれないと同意した。
そうでしょう、そうでしょうとも。
「騎士道精神がどうであれ、うちにいるような人間は公私の区別なく、些細な日常もオカルトに寄せてしまうので、本当に嵌まれる素質を持ってないと、同じ空間にいるのもきついと思います。事務員さんだって、めったなことでは研究室に顔を出さないくらいですから。なので、お互いのためにも、今回はあなたから断ってくださいませんか」
「いいえ、それはできません」
「……」
イスズは伝わらない苛立ちがすぎて、表情筋が崩壊しかけていた。
「あなたは、そんなに私の護衛をしたいのですか」
「はい、是非とも」
「……」
間髪入れずに返事をされてピンときた。
これは裏事情があるな、と。
「わかりました。では、自分で交渉し直してきます」
こうなったら、ビービーととことんやり合う決意を固める方が早そうだ。
背後に、呆気にとられている騎士様を置いていくことになろうとも、知ったこっちゃない。
昂った気持ちのままドアを開けようとして、絶妙なタイミングで開けられたから勢いが削がれる。
「ああ、ほんとにいた」
そこには事務員のリア充女子、ナナコがいた。
「なんか、所長が外回りに行かせたいから、呼んでくるよう頼まれたんだけど……って、え? 嘘、なんで黒騎士様がここにいるの!!」
この後、しばらくナナコが目の前をふさぎながら騒いでうるさかったのだけど、そんなことはまったく耳に入らなかった。
「はあ?! 外回り!!」
意味を噛み砕いて理解するなり、研究室に駆け込んだ。
「ちょっと、所長!」
ばんっとドアを開けたら、ビービーは優雅にコーヒーを飲んでた。
「なんで、今、私が外回りなんですか!」
「当たり前だ。お前は室長なんだからな。俺がいない間にお礼に行ってくるはずの出版社に何も対処してないんだろう」
「手紙は書きました」
「俺は、直接会って礼をしろって言ったよな」
「うっ」
「あれだけ親切にしてもらっといて、そんなんで済まそうなんて思ってないよな」
「ううう……思ってません」
さっきまでの意気込みが簡単にぺしゃんこだ。
しかし、これに関しては自分が悪いので抵抗しようがない。
それが嫌なら、ここを辞めるしかなくなるのだから。
「そんな、泣きそうな顔をするな。お前につけたヴァンフォーレ君は、あんな顔でも護衛としては優秀なんだ」
な、と言ってビービーが向けた視線の先には、あんな顔と言われて微妙そうな騎士様が追いついていた。
他の研究員が騎士様の美貌にどよめいているけど、それはどうでもよかった。
本当は、どれだけすご腕の護衛だろうと関係ない。
ただ自分に度胸があるかどうかの問題だから。
「安心してくださいとは言えませんが、あなたは私が絶対に守ってみせます」
美貌の青年にそう言わせたのは、染み込んだ騎士道精神なのだろう。
だけど、やっと外に出かける覚悟ができた。
「所長、騎士様の対応は私に任せてもらえるんですよね」
「ああ、護衛に支障がない限りはな」
「わかりました。じゃあ、こっちに来てください」
こちらも腹を括ると騎士様を研究所の上階奥へと案内する。
「出かけるのではないのですか?」
「そんな格好でついてこられては迷惑です」
指摘すれば、騎士様は自分の格好を見下ろした。
護衛の任務らしく騎士用の平服を着ているせいで、誰なのか丸わかりだ。
室長室と書かれた自室の前で待たせて、地味だと思われそうな男物を抱えて押しつけた。
「これに着替えてください。それから、護衛ではなく地方の研修員だと名乗ってください」
騎士様は物言いたげにこちらを見つめた後、着替えに視線を移す。
「どこで着替えればいいのでしょうか」
聞かれたから、無言でさっき紹介をされた忌々しい所長室を指した。
「ええと……」
「いいんです。所長が所長室を使うことはめったにないので」
「はあ」
戸惑いを隠せない騎士様だけれど、動いてくれるまで指した手を下げるつもりはなかった。




