事前取材
* Sideイスズ
フェイルさんが気圧されている隙に誤解を訂正すると、やっとにやつき顔をやめてくれた。
「それはつまり、会長が召集かけてる件とお茶会の招待は関係ないってことか?」
「そうです。騎士様は護衛としてついてくれてるだけなんで」
「会長からの連絡は?」
「ジェットは指揮するって言って、今は連絡待ちですけど……」
「最終連絡はいつだ」
「えっ」
気配が重くなって困惑してると、脇から騎士様が代わって答えてくれる。
「ビームス所長によれば、昨夜遅くに追跡中と報告をもらったきりだと」
「まずいな。会長が入ってから情報が混乱するのは初めてだ」
「ごめん。私が引き止めなかったせいだ」
フェイルさんの表情で深刻さが思い知らされる。
任されることが嬉しそうで、その気持ちがわかるから頼りにした。
だけど……。
「あいつは能力がある分、過信しすぎるところがあるからな」
自分が綺麗な格好をしているだけに胸のつかえが重くなってくる。
「よし、イスズ。笑え」
「フェイルさん、こんな時に何言って……てか、何してるんですか」
なんでか、人を呼びつけてた。
やってきたのはカメラマンさん。
「ほれ、イスズ。ポーズとって、笑え」
「だから、なんでこんな時に」
「こんな時だからだよ。イスズの担当記者は俺だ。お茶会前に取材を終えとけば、上手くすると終わる頃にはイズクラの情報を持ってこれる」
「それって、大丈夫なんですか」
「なんとかする。だから、笑え」
今の私にやれることは少ない。
だから、不安な気持ちを隠して口角を上げようと頑張ったが、残念ながら、カメラマンさんがシャッターを切りたくなるような絵にはなってなかったっぽい。
「こりゃ、だめだ。ほら、黒騎士様、イスズが笑えるような小話でもしてやって」
「私ですか?」
「他に誰がいる。あー、でも、お仲間じゃないから、イスズが喜ぶネタは持ってないのか。んじゃ、褒めるとか持ち上げるとかでいいから」
カチカチ状態のカメラ目線でフェイルさんの好き勝手を聞くともなしに聞いていたら、うっかり馬車の中での赤面事件を思い出して、ブワッと焦る。
その瞬間、なぜかバシャッと眩しい光を浴びていた。
「あ、オッケーです」
カメラマンが満足そうに呼びかけてくる。
一体、何が起きたのだろう。
「よしよし。んじゃ、次は黒騎士様も入ってみようか」
「私は招待客ではありませんが」
「知ってるよ。でも、お茶会の最中だって背後に立ってるつもりなんだろ。だったら、ちゃんと仕事で来ましたアピールで、護衛するイスズと写らないと」
どことなく面白がっている気配がしないでもない指定に、騎士様はためらいながらも断りきれずに長い足で右隣に並んできた。
それだけで右側の圧が劇的に変わった気がするし、なんだか眩しいし、温度も上昇している気がする。
「それじゃあ画面に入らないんで、寄ってください」
「えっ!?」
カメラマンの要請に思わず動揺がもれてしまう。
「なんだ、イスズ。嫌なのか」
「嫌じゃないよ。そんなわけないじゃない」
フェイルさんめ、余計なことを。
そろりと騎士様に目を向けたら、何を考えているのはわからない端正な顔でこちらを見ている。
うぅ、読めない。
「本当に大丈夫なので、どうぞ」
そう言ったら、騎士様はすっと距離を縮めて、また、右の温度がぐんと上がった気がする。
「イスズ、笑えよ。って、これ何度目だ?」
「だって……」
「取材もあるんだから、さっさとしろ」
「うぅ」
言われるまでもなく、さっきから私は頑張ってる。
だけど、筋肉が言うことを聞いてくれないのだからしょうがない。
たぶん顔だけ金縛りに遭っているせいだ。
「私にオカルトの知識があればよかったのですが」
ぼそりとした騎士様の呟きに、思わずレンズから視線を外してしまう。
真っ当な騎士様に、こんな気遣いをさせるのは自分くらいのものだろう。
「こちらこそ、不器用ですみません」
「謝らないでいいですよ。個人的に、笑った顔を見てみたかっただけですから」
この瞬間、私の中では時間が止まった。
でもって、バシャッとフラッシュを浴びて時間が動き出した。
「はい、オッケーです。じゃあ、俺は戻ります」
「おう、ありがとな」
カメラマンは立ち去り、フェイルさんが手を上げて見送っている。
一体、何が起きたのか、混乱するカオスな私の頭ではわからないことだった。
※ Sideソレイユ
結局、笑顔が見られなかったなと考えてしまう。
写真撮影の後、イスズはフェイルさんの取材を受けているので、護衛として周辺に気を配っている。
王族所有地とはいえ、取材が入っているので油断はできない。
ジェット少年の情報次第では、今日の内に決戦に雪崩れ込む可能性だってある。
もうしばらくは緊張した状況が続きそうだ。
そういう最中に考えごとをしてしまうのは、あまりよろしくない。
切り替えようと姿勢を正し、気配を感じてイスズから視線を外せば、元護衛対象がやってくるところだった。
「ヴァン様」
その呼び方を聞くだけでゾッとする。
だけど、それだけだった。
一時は騎士を辞めることまで考えさせられた人物だけど、今日はまともに向き合っていられそうだ。
それもこれも、守るべきイスズがいるからで、逆に巻き込んでしまったのは申し訳ないものの、おかげでまだ騎士道を外れないでいられる。
「皆さんが揃ったので、お茶会を始めようと思うのですけど」
どうして姫が他人の護衛を経由するのだろうかと思いながらイスズに目を向ければ、取材が終わったところらしく、こちらに気づいていた。
「すみません、お待たせしましたか」
いそいそと小走りする姿はヒールの足元が危なっかしい。
すかさず手を差し出すと、足を緩めたイスズは意味ありげな視線で目礼して通りすぎていった。
騎士として何か間違えただろうか。
とにかく、魔のお茶会がようやく始まろうとしている。




