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強制護衛


* Sideイスズ



数日後。

なんでか、私は所長室に呼び出されていた。


「な、なんのご用でしょうか」


呼び出しにココを指定される時は決まって説教だったので、ついビクビクとご機嫌をうかがってしまう。


「紹介したい人がいる」


そう言った所長は無表情なので、何を考えているのか読めない。

つい先日、空腹で倒れて問い詰められたのは記憶に新しい後ろめたさで、それ以降、所長が差し入れをしてくれるからお腹は満たされているけど、根本的な解決ができてないのはわかってた。


「……」


「……」


いつも愛敬のあるへらっとしたビービーの無言は、とてつもなく心臓に悪い。

もう少しでトイレと叫んで回れ右をする直前まで緊張感が高まったところで 、部屋の扉が叩かれた。

ビクッと、うっかり心臓が飛び出しかけたが、なんてことはない。

所長が紹介したい人物がやって来ただけだった。


「どうぞ」


座ったままのそっけなさに偉い人ではなさそうだと当たりがついたから、こっそり肩の力を抜いてみたら、扉が開いてお客様が姿を見せた。


「!?」


奇声を上げなかっただけ、自分は偉かったと思う。

いや、その客人が何も反応させなかったという方が正しいのかもしれない。


頑健な体躯に優雅な身のこなし、何より、艶やかな黒髪と異様に整った顔面が一瞬の内に無機質な所長室を夢物語の世界に変えてしまった。

息を飲む美しさというのは、こういう者を指すのだろうと、乙女回路が機能不全ぎみな自分の目さえも釘付けにする超絶美貌な青年が現れた。


「よく来てくれたな」


「いえ、こちらこそお世話になります」


「隊長はなんて言って送り出してくれた?」


「力を尽くして役目をまっとうしてこいと」


「ほう。それが本当なら、大人になったものだ。まあ、他にももらった言葉はあるだろうが、今は聞かないでおこう。さて……」


本題に移ろうとこちらに視線を向けてこられても、異次元な美青年を前にしてすっかり固まるしかなく、なのに、内心では、よくビービーは普通に話しかけられるものだと妙な感心をしてしまう。

だけど、ビービーだって出張用の装いとなれば事務員さんが目の保養だと言って見送りに出てくるくらい見栄えのする人だったと思い直した。


「イスズ、聞こえてないのか」


「え、はい。なんでしょう」


何度目かの呼びかけで我に返ったら、ビービーと美青年の視線が自分だけに注がれているのを知って慌てて俯いた。


「す、すみません」


あまりに世界観の違う美貌で見惚れていて、彼が目の前に実在していることをうっかり失念してた。


「彼女がイスズ・コーセイ。うちで室長をしている優秀な研究家だ」


優秀と紹介されて謙遜しときたかったのに、何か言うのも気が引けて俯き加減のまま頭を下げておく。


「イスズ、こちらは騎士団所属のソレイユ・ヴァンフォーレ君だ」


こちらの紹介にも首を竦めたままぺこりと返した。


一体、ビービーとはどんな関係なのだろう。

年齢も経緯も繋がりが見当たらない。

何より、わざわざ所長室で紹介してくる意味がわからなかった。


「彼には、これからしばらく、イスズ専属の護衛についてもらう」


「……」


耳がおかしくなったのだろうか。

なんだか、とんでもないことを聞いた気がする。


「このまま一生研究所に引き込もっているわけにはいかない。だからといって、現状では怖くて外に出られないのだろう」


言い当てられて開いた口が塞がらなかった。

確かに、外に出るのが怖いから絶食に至ったとは伝えていたが、よりによって王家に仕える騎士様を連れてくるとかある??


「ええっと、本当にこの方が私の護衛を?」


「はい、よろしくお願いいたします」


騎士様は女性なら誰でもときめく凛々しさで挨拶をした。

が、私には逆効果だ。


「絶対無理です」


「……」


本気の拒絶に、部屋には奇妙な沈黙が漂う。

とっても気まずい。

しかし、こちらだって、こんな美形に張りつかれたんじゃ、息をするのも気を使いそうで困る。


「予想の範疇だな。だが、イスズの意見は聞いていない。これは決定事項だ」


机に両手をついて「話は以上だ」と切り上げたビービーは、途方に暮れる二人を残して出ていってしまった。

残された二人には気まずい沈黙が降りるばかり。


ビービーがああも強気で宣言したからには、自分なんかに対抗する手立てはない。

となれば、取れる手段は美麗な騎士様をあてにすること。

つまりは、騎士様から無理だと申し出てもらえばいいのであって、こちらにはそう持っていける自信がある。


「私では不安ですか?」


「え」


「私では頼りないと思ったから無理だとおっしゃったのですか」


言い直されて驚き焦った。

女子の噂話にはからっきしな自分でさえ眉目秀麗な騎士様について耳にしたことがあるくらい優秀で知られている彼なのに、とんだ誤解だ。


「いいえ、違います。ただ、私は城仕えの騎士様に護衛してもらうような人間ではないので申し訳ないだけです」


「若くして、室長の任にお就きだと聞いていますが」


「……失礼ですが、この研究所についてどう説明されましたか?」


「ビームス所長には未解決事件に関する資料の収集と分析を行っていると伺っておりますが、違いましたか」


やっぱりね、と思う。


「確かに、うちでは資料や証言を集めて検証をしています。とはいえ、それは、あくまで表向きの表現なんです」


間違いのない確信があった。

騎士様みたいに生真面目な人間は、この研究所の実態を知れば関わりたくなるだろうことを。

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