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アドバイスと手繋ぎ


* Sideイスズ



それじゃあ、そろそろお開きでと、研究所での二次会という名の飾らないお茶会を片付け始める中、私はこそりとナナコさんにお願いをするべく動く。


「あの、今日、泊まってくれませんか」


「嫌よ。着替えも化粧用品もないのに」


そう言われるのは予想していたので、狡いながらも賄賂を差し出す。


「なっ、これ!」


ソレイユさんに用意してもらった例のサイン入りブロマイドだ。


「わかったわよ」


と了承しながら、いそいそと受け取るナナコさん。

本来の用途とは違うものの、喜んでもらえたのだから良しとしよう。


「で、何を聞いてほしいわけ」


他のメンバーがいなくなると、何よりも先にメイクを落としたナナコさんが雑に促してくる。


「その、何ってことはないんですが……」


「じゃあ、寝るわよ」


「ううっ、なんか、その、ソレイユさんがグイグイくる、みたいな?」


「へえ、そういうタイプだったんだ。でも、嫌だって言えば、やめてくれるでしょ」


大人なナナコさんが口にすると、なんだか進んだ関係に聞こえてくるので困ってしまうが、確かに、無理強いをしてくるわけじゃない。

なのに困ってるのは、戸惑って、照れて、とてつもなく恥ずかしいのに、ソレイユさんには嫌だと思えないことだ。

流されてる気がしないでもなくて、だからって、いまのところは手を繋ぐくらいで、今日だって色々言われたけども、ほっぺたに手を伸ばされたくらいで……。


「あー、もうっ! どうしたら!!」


「ちょっと、もだもだ悩みたいなら、一人でやってなさいよ」


「すみません。でも、なんか、大丈夫なのかなと思って」


「知らないわよ、そんなこと」


「ですよね」


ナナコさんの返しは、ごもっとも。


「知らないけど、まだ付き合いたてなんだから、普通にフワフワしてたら? 色々悩むのは、もうちょっと後でもいいんじゃないの」


「そういうものですか?」


「そういうものよ。後になって頭を抱えたくなるようなことをやらかす時期なんだから」


「そんな恐ろしい時期なんですね」


「そうよ。だけど、とてつもなく楽しい、でしょ?」


「……ですね」


「ふふ、素直でよろしい。まさか、イスズとこういう話ができるなんてね」


「私も、思ってもみませんでしたよ」


ちょっと苦手で、だけど憧れの素敵なお姉さんなナナコさんと恋バナをしてるだなんて、ソレイユさんと会う前の私に言っても絶対に信じない。

人生はオカルトよりも奇なりだ。


「ちゃんと事前に通達してくれるなら、これからも泊まりの相談を受けてあげてもいいわよ」


「ホントですか?」


「だって、他に相談できる先なんてないでしょ。オカルト関係や事件ならともかく」


確かに。

いざという時の為に、専用の賄賂をストックしといた方がいいかもしれない。


「じゃあ、参考ってわけでもないんですけど、ナナコさんの彼氏さんについても、聞いていいですか」


「いいけど、職業とか店の場所とか、言ってないけど知ってるんじゃないの?」


「そうですけど、それは会話から推測しただけで絶対じゃないし、ちゃんとナナコさんから聞いてみたいって前から思ってたんです」


「へえ。イスズって、案外、可愛い性格してたのね」


「違いますよ。ただ、おもいっきりプライベートなことじゃないですか」


「ふうん。じゃあ、今度、一緒にご飯でも食べる?」


「え、彼氏さんも一緒に?」


「そうよ。ソレイユさんも呼んで、ダブルデート」


「ええ!? ソレイユさんもですか」


「いいわよね」


自分から言い出したことだけど、にっこり微笑むナナコ様を前にして「はい」以外、何を返せようか。



 * * *



数日後、いつもよりちょっぴりドキドキしながらソレイユさんの迎えを待ってたら、私よりもよほど緊張した様子で現れて、挨拶よりも先に「この前は浮かれきって、調子に乗りすぎてすみませんでした!」と直角になって謝られたので、なるほど、これがナナコさんの言ってたことかと実感する。

でもって、こういう時はどうすればいいのかを聞いておいたことを思い返してみる。


「ナナコさん。ちなみにですけど、後から頭を抱えたくなったら、どうしたらいいんですか」


「そうね、その時に別れてるなら、甘酸っぱい恥はかき捨てで忘れたらいいわ。そうじゃないなら、二人で笑い合って、さらに仲よくするネタにしたらいいだけよ」


なるほどと聞いてはいたけれど、こんなに早く機会がやってくるとは思わなかった。

しかも、アドバイス通りに笑い飛ばすにはソレイユさんが真剣すぎて難しい。


「えっと、私も浮かれてたので、お互い様ということで」


「……本当に?」


「はい。本当です。それに、浮かれてくれてたのなら嬉しいです」


こっちだって自分を見失ってた場面が多々あったわけで、いつか笑い話のネタになるやらかしだった自覚があるから、それくらい楽しんでくれてたのならよかったと思う。


「もう、イスズさん。ホントに困ります。これじゃあ、今日も浮かれて、何をしでかすかわからないじゃないですか」


「ふふふ、いいですよ。どんと来いです」


こんな返しをしちゃってる私も、たぶん、同じく浮かれ気分が続行してるみたいだ。


「話は変わるんですけど、今度、ナナコさんとナナコさんの彼氏さんとで一緒に食事をしないかって誘われたんですけど、大丈夫ですか?」


「ええ、はい。大丈夫ですよ」


こっちの心配をよそに、あっさりとOKが返された。


「彼氏さんはどんな人なんですか」


「個人で靴屋を経営している人で、王城に出入りもしてたりするそうです」


「でしたら、週末の夕食とかがいいですかね」


「夕食の時間帯なら平日でも大丈夫って、ナナコさんが言ってましたけど」


「……もしかして、イスズさんは乗り気じゃないんですか」


う、さすがは騎士様、鋭い。


「そういうわけでもないんですけど、初対面の人だから心配で」


ナナコさんに聞いてみたら、本人に会った方が早いからって、なんにも教えてくれなかった。


「だから、職人さんらしく技術はあるけど不器用なところのある人で、演劇はストーリーより装飾重視らしく、本も中身よりは装丁で買うってことと、ナナコさんの差し入れから甘い物とオムレツとハムとトマトが好きくらいなことしか知らないんですよね」


「……では、オムレツが美味しい店でも探しておきましょうか」


「あ、そこはナナコさんの手作りだからってところが大きいみたいなので、むしろ、違う方がいいかもしれません」


「ふふっ、では、デザートの美味しいところにしておきしょうか」


なんでか笑われて、納得がいかないでいたら、察したらしいソレイユさんに謝られる。


「すみません。会ったこともないのに、それだけ偏って知っている辺りが、イスズさんらしいなと思いまして」


「それって、褒めてませんよね」


「はい、褒めてません」


「……」


褒められてる気はしてないけど、真正面から肯定されるとは思わなかったから返事に困る。


「ナナコさんがいるのだから、食事会は、そんなに心配いらないですよ。それより、いくら研究者らしい鋭い観察眼を持っていたとしても、プライベートでは、もっと目の前に焦点を合わせおいた方がよいのでは」


「え、目の前って」


「そうです。あなたの目の前にいるのは、彼女のことに関しては、本人も想定している以上に心が狭くなるので、あまり、よそ見されると面白くなくなるらしいですよ」


嫉妬みたいなことを打ち明けられて、絶句して視線が固まる。


まさか、ソレイユさんが?


意外すぎて、照れるとかまで到達しない。

だって、相手はナナコさんの彼氏さんだし、会ったこともないって言ったのに。

でも、取り繕った人目を引く顔を見たら、そういうことでもないのかなと思う。


「あの、大丈夫ですよ。ソレイユさんの前にいるのは、多少批判されても繋いだ手を放したりしないし、約束がある時は前の日からソワソワしちゃうくらい意識してるので」


同じように遠回しに返してみて、自分の中でちょっと違うかなと思って、目をまんまるにしているソレイユさんに言い直してみる。


「よそ見したくなるようなソレイユさんより格好いい人なんて、早々いませんよ」


「イスズさん……」


本当のことだから素直に言えたのに、ソレイユさんの方が真っ赤になったから、照れが逆輸入されて困る。


「すみません。なんか、言わせたみたいで」


口元を押さえながら謝られて、首を横に振る。


「むしろ、どんどん言ってください。私は鈍いし、疎いし、色々と慣れてないから、アピールしてくれるくらいで丁度いいと思います」


あ、そっか。

だから、ソレイユさんに対しては、困っても嫌じゃないのかもしれない。


「わかりました。精一杯、頑張ります」


「いや、頑張るんじゃなくて、思ったことを言ってくれればいいだけで……」


生真面目に気合いの入った返事に焦ってると、やけに優しい笑顔をされてて尻すぼみになる。

とりあえす、伝わったってことでいいのかな?


「イスズさん、大好きです」


「え!?」


「思ってることを言ってみました」


「ゔっ、えっと……その、ありがとうございます」


普通なら、私も同じだって返すところなんだろうけど、それだと、さっきみたいに言わせたってなりそうだし、毎回、後出しなのは悔しいから、どこかで不意打ちしようと決意する。


「はい。じゃあ、お店に行きましょうか」


「そうですね」


ぎくしゃくと歩き出して、ちょっとげんなりする。

この分だと、しばらくは会うたびに浮かれて、後から頭を抱えたくなるやらかしをしそうで恐ろしい。

でも、いつか二人で笑い話になるなら、それでもいいかと、当たり前に差し出された手を繋いだ。



これで完結です。


長い上に、最終ページの更新が遅くてすみません。

ちょっと原版から改稿したくて、手が止まっちゃいましたが、いい着地ができたかなと思ってます。

最後まで、ヒロイン共々ナナコさんに助けられました。

あと、最後に言うのもなんですが、ちょっと他にタイトルなかったかなぁと、作者的に悩んでたり。


ともかく、最後までお付き合いくださり、ありがとうござます。

よかったら、応援や感想、お待ちしております(*^^*)

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