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同感


※ Sideソレイユ



思いきって夜の散歩に誘った甲斐あって、イスズさんとの雰囲気がいいようで、繁華街を外れた道を提案されても気分よく同意した。

何より、コートを掴んで引き止めるイスズさんが無性に可愛かったので、たぶん、何を言われても頷いてしまっていた気がしないでもない。


ところがだ。

どうにも、その浮かれ気分が続かない。

楽しく話していると思ったら、唐突に腕を力強く掴まれて更なる脇道に引っ張り込まれる。


「イスズさん?」


驚いて見れば、なんとも困った風情で、いかにも「どうしよう……」といった表情をしている。


「えっと、その、こっちの道を歩きたい気分だなぁ、みたいな」


そんな、あからさまな言い訳を返されて、こちらこそ、どうしたものかと悩んでしまう。


「イスズさん。誰かに追われているとか、危険なことがあるとかではないんですよね?」


一応、辺りに警戒しつつ問いかければ、小さく首を振りながら「違います」と答えてくれた。


「それならいいです。こっちですね」


望まれたままに動くと、ホッとした様子と同時に戸惑いが感じられる。


確かに、いまの態度は、いかにも不可解ではあるのだけれど、差し迫った危険があるのでなければ無理に詰め寄りたくなかった。


恋人関係となってから、イスズさんは自分が思うよりも心を寄せてくれて、色々な好みや小さい頃の話だけじゃなく、研究所での話題もそれなりにしてくれる。

護衛として出逢った頃は、研究関連は完全に蚊帳の外というか、理解できないですよね? といった対応で距離をとられていたのが印象的だったせいか、本当に意外だった。

だから、つい、どうしてなのか聞いてみたのだけど、答えは簡潔だった。


「だって、こういう関係になったからには、知っててほしいじゃないですか」


答えた後に、じわじわと照れてしまっている姿に嬉しくなって、以後、自分からも任務と名誉に差し障りのない範囲で騎士団での日常を話題にするようにしている。


そういう歩み寄ってくれている心情を理解しているつもりでいるので、強引に詰め寄って関係にひびを入れたくなかったし、恋人として彼女の方から頼りにされたいので、それを余裕を持って待てる彼氏として格好をつけたかった。

どこかの会長に知られれば鼻で笑われそうな考えだけど、避けれたり嫌われたりするのは嫌だし、格好いい・素敵だと想われたいから慎重になるのは当然で、だから、余裕なんてどこにも転がっていないのが実情だ。


「あ、次はこっちの道の気分です」


「……」


色々と考えて、懐の広さを持って見守っていこう考えていたばかりだけれども、三度目の道変更で直感が冴え渡ってしまった。

そして、気づいてしまったからには、黙っていられるほど余裕ある彼氏面なんてできるはずもない。


とりあえず、向こうの通りからは目につかない建物の影に身を寄せて問い質してみる。


「イスズさん。なぜ、イズクラのメンバーから逃げているんですか」


「えっ、な、なんでわかったんですか!?」


見るからに狼狽えてくれたので、下手に誤魔化されるよりもホッとする。


「最初はわかりませんでしたけど、さっき見かけたのはパン屋のサワイラさんでしたよね」


護衛をしていた騒動中に、イズクラのメンバーとして紹介された彼だ。


「あー、もう。そりゃ、騎士様相手に気づかれないわけないですよね」


がっくりと項垂れたイスズさんを前に、やはり、黙って見守っているのが正解だったのだろうかと落ち着かなくなる。


「その、冷やかされたりするのが嫌だったとか、知り合いに見られるのが照れくさいとかなら、気持ちがわかるので大丈夫ですよ」


ついさっきまで実家でそんな心境に陥っていた身なので、基本的に引っ込み思案なイスズさんの心情は想像がつく――と思ったのだけれども、見当違いだったらしい。

イスズさんが見る間に真っ赤になっていくのだから。


なぜに?


道を変更したのがイズクラメンバーを避けるためだったのなら、他に理由がわからない。

言ってしまえば、イズクラ会長のジェットが今日の仕切り直しデートを把握しているのだから、他のメンバーも当然に知っているはずだ。


俯くばかりのイスズさんを前に、そっとしてあげたい気もするけど、放っておいて変に拗れるのも嫌だし、普通に気になるので、そっと名前を呼んで促してみる。


「イスズさん?」


「こんなに行き当たるとは思わなかったんです。最初から今日は観劇が目的だったし、ソレイユさんのお宅にお呼ばれしたのも緊張したけど嬉しかったし、そもそも、劇に夢中になりすぎたり、役者さん達に見惚れてたりで、果てはオカルト話で勝手に盛り上がっておいて、今更、何言ってるんだってことはわかってるんですけど、それでも、ちょっと思っちゃったわけで……」


イスズさんにしては珍しく、もじもじと、はっきりしない遠回りな言い訳が展開されていく。


「その……今日はずっと賑やかだったから、少しは二人の時間がほしいなって思って。だから、そんな時くらい、知り合いとは顔を合わせたくないじゃないですか!」


最後は若干、イジメられて泣きべそをかきそうな雰囲気で白状された。


それらの意味を、やや時間をかけて呑み込むと、弱っている姿を前にして悪いけど、どうしてもニヤけてしまう。

そんなのは、こちらだって同感に決まっている。


「いいですよ、イスズさん。二人きりで、どこまででも逃げましょう」


「え! 別に、逃げてたわけじゃないですよ。っていうか、ソレイユさん、酔っ払ってます?」


怪訝に見られて、きっと自分はみっともないくらい上機嫌なんだろうなと思い知る。


「まさか、一滴も飲んでないので素面です。それより、逃避行するならどこがいいですか。こうみえて、私は逃げるのが得意なんですよ」


「それって、出逢った時のことを言ってるんですか? あれは、どう見ても逃げてたわけじゃないですよね」


「私にとっては完全に敵前逃亡でした。なので、イスズさんの護衛任務は最後の悪あがきでしたけど、その先でとびっきり幸運な出逢いがありましたから」


「…………そうですか」


視線を泳がせまくった果てに小さく認めるイスズさんに、弾む気持ちは加速するばかりだ。


すみません。

正月の内どころか、微妙に一月で終わりませんでした。

あとちょっとです。

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