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拍手で不協和音


* Sideイスズ



考えてきたことの半分も言えず、最後の最後で言えそうだったらと思ってた宣言を流れでぶちまけちゃったせいでプチパニックの最中、なぜか巻き起こった拍手に輪をかけて混乱する。

なぜなら――


「なんで、このタイミングで拍手なのよ!? これじゃあ、まるで、この女の宣言を認めるみたいじゃない!!」


とユラが指差し叫んだ通りだから。


会場全体がざわつく中、ユラの隣のテーブルから突出した返事が飛んでくる。


「感動したら、拍手したくなるのは当然でしょ」


ポニーテールが似合う凛々しい少女の、よく通る声による意外な意見に、誰よりも素早くツインテールのユラが反応した。


「はあ!? なんで、そっちに感動するのよ。今日は、この女を懲らしめるために集まったんでしょ」


「うわぁ、それ、本気で言ってる? 一部の過激派はヤバイって聞いてたけど、ここまでなんて」


「ちょっと、何、自分は違うって顔してんのよ。アンタだって、モモカ姫樣と黒騎士様のファンなんでしょ!」


「否定はしないけど、想い合ってる仲を割いてまで、理想を押しつけるとかしないから」


「なっ、だったら、なんでアンタはここにいるのよ。モモカ姫の味方になりに来たんじゃないの?!」


「違うわよ。噂の人と会えるっていうから、学校休んでまで来てんの!」


「だから、その噂の女にわからせる為なんじゃないの!」


「だから、違うって言ってんでしょ! 私は、私は……その、だから……」


主賓であり当事者のはずの私を放っぽいて、私に関することでよくポンポンとラリーが続いていくものだと感心してたら、なぜだか急にポニテ少女がもじもじ始めてしまう。

しかも、チラチラとこちらに視線を送ってくるから謎が深まるばかりなり。


「もう、なんなのよ。はっきり言いなさいよ!」


足を踏み鳴らして苛立つユラに、ポニーテール少女は意を決したように立ち上がる。


「私、騎士様は困惑中〜城内新聞に燃える地味系少女は有望騎士樣を振り回す〜のモデルだって噂のイスズさんに会えるって聞いたから、親にも内緒で兄にアリバイ工作を頼んで参加させてもらってます!」


意味不明で、ツッコミどころ満載な告白を叫ばれた。


とりあえず、騎士様という名称にソレイユさんを振り向いて見たけど、同じようにピンときてないっぽい。

でも、そんな私とソレイユさんが少数派だったらしく、拍手と同じくらい「わかるー」の声がアチコチから挙がってきた。


「ちっとも需要のないマニアックな城内新聞の編集を頑張る地味系ヒロインと真っ白な騎士服の若き近衛騎士様とのトラブルラブコメ!」


「ロマンスの魔術師、フェイルシル・ジルバ先生のうっとりするロマンスは王道だけど、これはこれで有りと思わせる幅広さがすごすぎる」


「もう、何にやられたかって、わかりやすく見つめ合って愛の言葉を語ってるわけでもないのにキュンとさせられる絶妙さ」


「だよね、だよね。最初に不審がられた白騎士様が自分以外に向けられるヒロインの笑顔に面白くなく感じちゃうところとか」


「つい、ムキになって、自分を頼れとか言っちゃったり?」


「それもいい。でも、一番は、やっぱり馬の相乗りのシーンでしょ。ヒロインが一人で不審者を追いかけようとするところを、白騎士様が強引に二人乗りしちゃうんだよね」


「しかも、ヒロインはスカートで横乗りだから白騎士様は片手で抱き寄せるんだけど、実は必要以上に抱きしめちゃってる描写がいい。清廉で生真面目なはずの白騎士様のムッツリさがたまらないのよ」


「わかりみしかない! なのにヒロインちゃんは馬の操作上、仕方なくだとしか思ってなくて、でも、胸板の厚さとか白騎士様の匂いにドキドキしちゃってる絶妙な噛み合わなさにやきもきしちゃうんだよ」


「とりあえず、フェイルシル先生には一生ついてくしかない!!」


などと、やけに会場全体が盛り上がってしまっている。


うん。

とりあえず、騎士様がどうとかっていう小説の作者がフェイルだっていうことがわかっただけ、充分な収穫としとこう。

もちろん、後で、がっつりと苦情を申し立てる所存だ。


でもって、ヒロインのモデルとされてるはずの自分よりも、なんでかソレイユさんの方がダメージを受けてるみたいなんだけど、いまは下手に慰めるより、そっとしておいた方がよさそうな気がする。



「あの……」


話題の内容はともかく、オタク気質についてはよく理解できるから、この状況をどうしたものかと悩んでたら、下の方から遠慮がちな声が聞こえてきた。

見ると、中腰になって、控えめで申し訳なさそうな気配でポットを持って控えてる女性がいて、こんな時なのに役目を果たそうとお茶のおかわりを確認しにくる心意気に感心してたら、続けられたのは「つかぬことを伺いますが」だった。


「はあ、なんでしょう」


「実は、今日、予定があったっていうのは本当ですか」


「……」


意外な質問に返事を迷う。


意外だったのは、この空気の中、勇気を出しての質問がそれだったこともだけど、何より意外だったのは、当人に質問をしに来るほど事情を知らないことだ。


イズクラなら、下手すると昼間のうっかりエピソードを、その日の夕飯に出かけた先でからかわれることがあるくらい情報共有がされてるから、当然、本日の集まりでも当然知られてる情報だと思ってた。

この集まりの参加者は相当な倍率だったらしく、給仕係でさえモモカ姫のファン達による激戦で決まったのだとリリンさんから聞かされてたから、てっきり、全員が望んだ日程だと信じて疑わなかった。


ところが、蓋を開けてみれば、予想通りの過激派もいたものの、拍手具合いから見て大半が警告なり忠告をしたかったわけでもなさそうな雰囲気の上に、色々な事情が通じているわけでもないらしい。


となると、わざわざ「そうなんです。本当は、今日、とっても楽しみにしていた約束の日だったんですよ」とは、色んな意味で答えにくい。


「そうなんです。すごく、すごく楽しみにしていた約束の日だったのに、わざわざ今日を指定する招待状を受けてしまったばかりに、延期になりました」


「なぁっ!?」


信じられないことに、私が躊躇った返事をいとも簡単にしてくれたのはソレイユさんだ。


何やらダメージから立ち直ったのはよいことだけど、さっきまでは私の意思を尊重して控えてくれてるんだって感謝してたところだったのに、完全に死角からの不意打ちだ。

しかも、なんでか、隣にぴったりと並んで腰に手を回してくる。


慌てて距離をとろうと両手で突っ張ってみたところで、びっくりするほど動かなかった。

動揺しすぎて、格好には構わず、ぎゅうぎゅうと捻りを入れながら全身全力で引き剥がそうと試みるけど、多少揺れる程度にしか効果はない。


そうして、とある疑惑を抱く。

この人、本当に人間なのだろうか、と。


魔性の美貌といい、この頑丈さといい、異界の使者と言われても納得だ。

むしろ、その方がオカルトオタクとしても幅広く腑に落ちる。


「じゃあ、もしかして、今日の予定が騎士ハイターの舞台だったっていうのも……」


「ええ、その通りです」


うっかり現実逃避してる間にもソレイユさんが包み隠さず、はっきりした口調で答えてくれるものだから、会場はまた新たにざわめき出す。


「騎士ハイターってことは、二人は父親公認!?」


「マダムの方だって、すでに顔見知りなんでしょ。今日の服だって、そうだし」


「でもさ、そんな大事な予定が先にあったら、普通は欠席するものじゃないの」


「確かに。私だったら、予定がなくても、よく知らない人の集まりとか絶対参加しない」


と、否定する言葉が続いたところで、どこからか反論する声が上がる。


「いや、違うって。だからこそだよ。こんな、自分を全否定してきそうな団体から、大事な予定にブッキングしてくる招待だよ。下手に断ると、何されるか怖いじゃん」


「それも、そうか。当日に何か仕掛けられたりしたら、やだよね」


「でしょ。もしかしたら、劇場に迷惑がかかるかもとか考えたら、ここで断る選択肢はないって」


「えー、でも、そういうことなら、私達、何するかわからない集団って思われてるってことだよね。ちょっとショック」


「確かに。でも、実際、一部だけどやらかしそうな人はいたわけだし」


言われた視線の先には立ち上がっているユラだけじゃなく、過激派とみられる主催者席にもチラチラと注目が集まり、苦い顔やら肩身が狭そうだったりしてる。


そんな光景を眺めながら、言いそびれてしまいそうだったことを話題にしてもらったばかりか、理解までしてくれる敵方とばかりに考えていた参加者達にありがたく思う。

これで今後は、目の敵にして行動を起こす人も早々出てこないだろうと胸をなでおろし、そろそろお開きにしてもらえないだろうかと考えたところで、背後から大きな爆弾発言が飛び出した。

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