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オペレーション:ピクシーのいたずら


* Sideイスズ



ソレイユさんは封筒の名前を読み上げながら、さり気なく反応を探って顔を一致させている。

つまり、封筒を用意したのは別の誰かだ。

最初の説明時だって、自分からではなく、自分の方からという曖昧な表現を用いていた。

詐欺まがいの勧誘や押し売りによくある手法の一つ。


何より、ぽうっと頬を染めた彼女達が、いそいそと封を開けて読み進める度に顔色が悪くなっていくのが、何よりの証明だ。


「ソレイユさん。それ、イズクラからですよね」


こそりと問い質せば、躊躇うことなく肯定される。


ここのところ、やけに大人しいとは思っていたし、今回の件に絡んでこないから、完全プライベートなので触れないでくれているんだろうと、ちょっぴり物足りなさを感じつつもホッとしていたら違った。

イズクラはイスズファンクラブを称してるくせに、肝心の私を飛び越えてソレイユさんと手を組んだらしい。

なんだか、とっても、色んな意味でモヤモヤと納得がいかない。


「……」


「…………」


そうして、これだけ大勢が女の子達が集まっているというのに、会場は異様な静けさに包まれてる。


ついさっきまでは給仕達が慌ただしくお茶を用意して回って賑やかだったのに、お茶が揃う頃に徐々に雑談の声が減っていき、いまはこの有様。


本当なら、目の前の令嬢の誰かが意気揚々と開始の挨拶をするところだろうけど、一人は懐にしまい隠したものにソワソワと落ち着かず、そのお隣では手紙を目にした格好のまま固まっていたりと、渡された疑惑の封筒のことでいっぱいの様子。

これは、あとでジェットに中身を確認しなければいけない案件だと脳内メモに書きつけながら、つらっと澄ましているソレイユさんに文句を言いたい気持ちを抑えていると、反対向こうで人の動く気配を感じた。


誰かと思えば、なんとビックリ、モモカ姫が優雅にカップを持ち上げて立ち上がっている。

まさかと目を見開いて唖然としてる内に、本当にまさかの開始挨拶を始めてしまう。


え、これは、もしや、最初からモモカ姫のお茶会だったのでは?


混乱して、思わずソレイユさんを振り向いたら、大丈夫、何もおかしくはないと周囲に視線を向けたのでつられて見ると、大多数がモモカ姫に合わせてカップを手にしているものの、隣近所を窺いつつ戸惑う様子があちらこちらで見られた。


しかし、ホッとしたのも束の間、うっかりモモカ姫と目が合ってしまい、うっとりするほど愛らしい笑みを向けられて、まあ、とりあえず誰か始めなきゃいけなかったわけだし、よかったのかも? とか納得しかけたところで、ソレイユさんに肩を指でツンとされて我に返る。


「ソレイユさん、ありがとうございます。可愛いは正義にやられるところでした」


頭を振って、小声でこっそり感謝すると、コクリと頷き返してくれた。


「イスズさんだって、しっかり可愛らしいんですから、負けないでください」


「……」


うん。

変なぶっこみはやめてください。

おかげで、自我が帰宅してくれましたけど。


何はともあれ、お茶会は始まり、あちこちで雑談らしいざわめきが広がっていく。


私としては、お砂糖も蜂蜜も入れていないのに甘くて香り立つお茶を楽しみながら、どうしたものかと考える。

すでに色々ありすぎて一周回った気分のせいか、至極冷静に周囲がよく見えるし、思考もよく働いてくれそうだ。


その頭で考えるのは、本来なら、今頃は私への罵詈雑言の集中砲火か断罪裁判の如き追い立てが進んでいるはずだったのに、ここのテーブルの主催者四人が青ざめ強張ったままなせいか、非常に静かな空間に成り果てているということ。


ならば、私が! と代わりに立ち上がる令嬢もいないらしく、全方向からチラチラと中央のテーブルを気にしながらも、各々のグループ内でひそひそとした会話が繰り広げられるばかり。


このまま、ただのお茶会として終わってしまうのは私的に困る。

なので、こちらから仕掛けてみようと、残っていた美味しいお茶を飲み干した。

そうして、協力者のナナコさんに向けて、打ち合わせておいた特別要請を出す。


「ナナコさん。オペレーション、ピクシーのいたずらを発動します」


「……」


なんですか、その迷惑そうな厳しい視線は。

作戦名は気分と統率力を高めるのに大事な要素なんです。


「ピクシーのいたずら、決行です!」


もう一度言い切ると、ナナコさんも渋々ながらも動いてくれる。


立ち上がったナナコさんは注目が集まるのも気にせず、スタスタとテーブルの端まで歩いて行き、モモカ姫ににっこり笑いかけると背後から耳をふさいだ。


ピクシーのいたずら、なんて作戦名をつけたのは、いつかのリックスレイド王子が使っていた耳をふさいでの内緒話を真似すること。

モモカが参加する流れになった時点で、万が一を考えてお願いしておいてよかった。

私が王子様のように自分でやらないのは、不器用だから話に集中できる自信がないのと、ピカピカに可愛いお姫様に触れるのが畏れ多いから。


ナナコさんと頷き合って、いざ、決着をつけようーーと身動ぎしたタイミングで、すかさずソレイユさんが椅子を引いてくれる。

さすがは騎士様と感心しつつ、お礼を言いたくて見上げたら、どうしてだか、こちらに伝染してきそうなくらい心配げな表情がそこにあった。


招待状が来てから、ずっと心配してくれてるのは知ってたけど、それにしては深刻そうで戸惑ってしまう。

だからといって、ここで話し込むわけにもいかないので、椅子を掴んでいる腕に触れて精一杯の笑顔を返してから会場に向き直った。

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