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置き去り


※ Sideソレイユ



ちらりとイスズさんを振り返れば、呆然としながら瞬きをしていて、何が起きたのかわかっていないっぽい。

そんな仕草も可愛らしいと微笑ましく思うのと同時に、疎いはずの自分がいまのやりとりを理解してしまったことに感慨深さを味わっている。


さっきのは、ラテアが一緒にいた令嬢と真剣な交際を望む決意表明であり、令嬢と親しく見守っている王妃に報告に来た場面だった。


イズクラの情報をジェットに共有してもらっていたとはいえ、鈍い方の自分が理解できたのはイスズさんと出逢ったからに他ならない。

あのラテアの顔つきを見ただけで、察するものがあったのだから。


「まあまあ、私ったら、すっかり長居をしてしまったわね。楽しい集まりを邪魔してしまったようだけど……見覚えのある顔ばかりね。彼女達は貴女のお友達でなくて、モモカ?」


迎えが来たからには即刻立ち去ってくれることだろうと期待していた耳が拾ったのは、なんだか不穏の序曲にしか聞こえない相手への問いかけだ。


「はい、そうですわ、ルミネ王妃」


「やっぱり。あら、でも、それなら、今日の私の誘いには困ったのではなくて? もしかして、気を使って予定を変更させてしまっていたら、申し訳ないわ」


「いいえ。お伝えした通り、予定はありませんでしたわ」


「それならよかったわ。だけど、あらあら、それなら貴女、何かしてしまったのではないかしら」


心配そうな王妃に、モモカ姫は頬に手をあてて品よく首を傾げている。


「だって、こんなに沢山のお友達が集まっているのに、招待されていないのでしょう。うっかり意地悪なことをしたり言ったりしたのではなくて?」


王妃に思わぬ指摘を受けて驚いた様子のモモカ姫は、頬に手をあてたままリーダー格の令嬢達が座る席を見て悲しそうな顔を向ける。

すると、途端に青ざめ、口々にそういうつもりはないと言い訳を始めた。

モモカ姫は何も言っていないのに、自然と忖度されるのは彼女の周囲の不思議現象で、増してや熱心な信者達なのだから必死にもなるだろう。


「あの、ただ……そう! モモカ姫様は近頃、定例のお茶会や取材も休まれているようなので、私達はご迷惑になるのではと遠慮しただけなのです!!」


適切な言い訳に他の者も前のめりで追随し、なんとか王妃にもモモカ姫にも納得してもらえただろうと落着ところで、景気よく爆弾が投下される。


「そうだったのね。では、本日は特別に私が許可をしましょう、モモカ。久しぶりの息抜きに、お友達とお茶を楽しんでらっしゃい」


これにはモモカ姫も戸惑っているようで、どうしたものかと辺りを見回しているけど、ここにいるほぼ全員が似たような気持ちなのだから仕方ない。

なにせ、ここは自分がお付き合いを始めたイスズさんを断罪するための場だ。


もちろん、イスズさんはなんにも悪くないし、お茶会招待者の連合はただの野次馬だから何をどう言われても取り合うつもりはないものの、連合の方も、さすがにモモカ姫の前で声高にいちゃもんをつける気はないだろう。

当然だ。

どれだけイスズさんを責め立てようと、自分の気持ちに変更がない限り、モモカ姫が振られたという結果が浮き彫りになるだけなのだから。


だからこそ、当人が知らないところで訂正させようとしていた。

自分達の身勝手に夢見るカップリングを成立させるために。


「大丈夫よ、モモカ。今日、ここに集まっているのは、みんな、貴女を心配してのことなのだから」


ねえ、皆さんと振り返った王妃に誰が反論できようか。

しかも、言っていることに相違はない。


どうやらこれは、王妃が何もかも承知の上で台風の目を置いていこうとしている気配だ。


「よかったわね、モモカ」


「はい。ありがとうございます、ルミネ王妃」


誰も否定しなかっただけなのに、王妃の言葉をどう変換したのか、姫様はいつも笑みを浮かべて喜んでいる。


そうして、取り仕切った王妃は優雅な面持ちで去っていく際、前に出ていたソレイユの側で「自分の取り巻きくらい、責任を持ちなさい」と呟いてくれた。

思わず顔を上げれば、視線を合わせて、にこりとロックオンされる。


「気分がよいから、それで許してあげるわ」


そのモモカ姫へ向けているはずの宣告は明らかに自分に向けられていて、なぜとは思いながらも、騎士として見込まれていることを理解してしまったからには、相手が相手なので、お引き受けるするしかない。

小さく了承すれば、非番なのだから見届けてくれるだけで構わないと、少しだけ申し訳なさそうな、私的な表情を見せていなくなった。

いや、モモカ姫と最低限の護衛は置いていかれたのだけれども。

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