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困惑の遭遇


※ Sideソレイユ



ちらちら振り返り案内達が足を止め、全員揃ってこちらを向いた時には、かなりホッとした。


途中で何度、護衛として気が散るから見返りをやめてくれと注意しようとしたかしれない。

実際、そうしなかったのは、今日はイスズさんの守護を名目としながらも、自分の中では恋人として付き添っているつもりでいるからだ。


イスズさんの恋人。

心の中で唱えるだけでも、ふわふわした落ち着かなさと照れくささを味わってしまう。


色々と実践済みの先輩方は、その内、ねぇとか、ちょっととしか呼ばれず、最終的には完全スルーの空気に成り果てるのだと遠い目をして教えてくれたし、そうならないための三箇条も聞いているけど、いまの感覚では想像すらつかない。

それに、空気に思えるほど当たり前に側にいられるなら、それはそれで羨ましい気がする。


なんて考えながら、連れてこられた庭園の入り口に立って驚いた。


「え?」


イスズさんが思わず声を上げてしまったのも当然のこと。

何せ、案内された庭園にはいくつもの丸テーブルが配置され、ざっと数えただけでも百人近くいる。

給仕係も合わせれば、相当な規模と言えた。


その中央にあるテーブルだけは長方形をしていて、気の強そうな令嬢四人が座っている向かいの席だけが空席なことから、イスズさんの本日の直接対峙する相手なのだとわかる。


イスズさんはどうだろうかと心配してみれば、青ざめるというよりは、呆気に取られている様子。

両隣を固めるナナコさんやリリベル嬢も同様なので、ここは自分がしっかりしなければと思ったところで、誰にとっても想定外なことが起こった。


「あら、大勢集まって華やかね」


上品な女性が、そう言って足を止めていた。


その一団に並ぶモモカ姫と囲む護衛騎士にイスズさんは驚いているようだけど、リリベル嬢はさすがに違う驚きを見せている。

自分は、とりあえず場を代表するように前に出て、胸に手を当てて挨拶をする。


「ここで出会えた幸運に感謝して、騎士の挨拶をさせていただく許しをくださいませ。王妃様」


「ふふ、許します。若き黒騎士、ヴァンフォーレ」


顔を上げる背後で息を呑んでいるのはイスズさんとナナコさんだろう。

加えて、案内の三人や会場内からもざわめきが聞こえてくる。


公務ではないのだから仰々しい挨拶は必要ないと言ってくれる王妃に礼儀正しく対応しながらも警戒を強めていると、どうやら、連合の令嬢達にとっても予想外の展開らしい。


まあ、自分がモモカ姫とくっつかなかったことを寄って集って文句をつける場に、モモカ姫当人は呼ばないだろう。

王妃なんかは尚更呼ばない。

というか、普通に呼べない。

ならば、なぜ、ここにいるのか。


モモカ姫が一緒にいるのだから、偶然ということはないはずだ。


王妃の会話が王族の覚えがめでたい家系のリリベル嬢に向かっている隙に、できる限りの状況把握を試みれば、モモカ姫が以前となんら変わりない笑みを向けてくるので、少々ゾッとした上で頭が痛くなる。


何を考えているのかわからない。


好意的に考えれば、外聞を考慮しての気遣いなのかもしれないが、熱狂的な信者が集まるココでのソレは火に油を注ぐ行為に他ならない。

リリベル嬢が「いざとなったら、もう姫様はすでにラテア様に興味が移ったみたいだと証言するからね!」と事前に意気込んではいたけれど、この様子では到底信じてもらえそうにない。

というか、自分も信じられない。


ますますイスズさんの立場が難しくなるだけの流れに、とにかく、何よりも上位二人にお帰り願いたいと苛立っていたら、供をする護衛騎士から迎えが来たという報告が漏れ聞こえて安堵する。


もしかしたら、本当に、ただの偶然で遭遇しただけだったのかもしれない。

そんな風に胸をなでおろしているところにやって来たのは、王妃の相談役である知的な雰囲気の女性とラテア・ガバンの組み合わせだった。


「まあ、ラテア。どうして、あなたがここにいるのかしら」


本当に驚いているらしい王妃が訊ねると、ラテアは一瞬の気まずげな表情の後で拳をにぎりしめ、これまで飄々としてばかりで見せるつもりのなさそうだった覚悟ある顔をしていた。


「言葉を駆使するよりも、こうして行動してみせる方が伝わるかと思いまして」


「ふうん、そうねぇ」


腕を組んで、じろじろと検める王妃は、納得をしたのか、目を細めて同意する。


「ひとまずは理解を示しましょう。今夜、私室にいらっしゃい。夫と一緒にゆっくりと話を聞かせてもらうわ」


王妃に妖艶に微笑まれたラテアは緊張した面持ちで承知した後、連れ立っていた令嬢に一言告げて帰っていく。

一緒にやってきた令嬢は遅れてハッとしたように、王妃を迎えに来る時に、たまたまラテアが同じ方面に用があったから送ってくれたのだと焦る様子で説明しているが、王妃はその言い分を、正確にはラテアの使った口実をしっかり見抜いているように含む微笑を見せていた。

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