いざ、出陣
* Sideイスズ
「きっと、私がもっと早い段階で困惑していることを隊長に伝えていれば、こんな大事になることもなかった。でしょう?」
ソレイユさんは、これでもかと自分のせいをやさぐれぎみに主張してきた。
確かに、一理ある。
だけど、そうしてたら、私と出逢うこともなかっただろうなとも思うのだけど。
「でも、ソレイユさんが黙ってたのって、モモカ姫のためですよね」
何を言っても聞く耳を持たないだろう姫様信者が囲っていたのだから、下手に上に報告して、妙な騒ぎにでもなればモモカ姫の評判に関わる。
護衛の騎士としては、少しのリスクでも避けるのが務めだろう。
「イスズさんは……」
名前を呼びかけてきたソレイユさんは、それから困ったような、複雑そうな表情で見つめてくる。
生真面目な騎士様なら当然の配慮だと思ったのだけど、見当違いだっただろうか。
それとも、部外者が気安く騎士を語るなということだろうか……。
「ありがとうございます、嬉しいです。ただ、ちょっと、イスズさんは、どうしてこんなにも理解してくれるのかと思ったら言葉にならなくて」
解説をされて、的外れでも迷惑でもなかったことにホッとして、それほどまでに孤独に耐えていたのかと思ったら胸が苦しくなる。
「それに、もうこれ以上はないと思っていたのに、更に惚れ直すほど、ときめいてしまう自分にびっくりしました」
「え!?」
こっちの方こそ、びっくりだ。
この流れで純真な笑みを浮かべるのは心臓直撃しかなく、再び強烈なのを喰らっては、せっかく正した姿勢も維持できなくなる。
お茶会前だというのに、すっかり精神力がやられてしまって、なんとも落ち着かない上に息苦しい時間をやり過ごしてると、それほど待たない内に付き添いのナナコさんとリリンさんことリリベル様が迎えに来てくれた。
「いいじゃない。さすがは、ソレイユさんの見立てね」
なんて褒めてくれたナナコさんは白いシャツに黒のロングスカート。
髪はサイドだけを少し下ろして、後はきっちりまとめている。
そして、多少のデザイン違いはありながらも、リリンさんも似たようなコーデをしてる。
付き添いをイメージしたものなのかは謎ながらも、シンプルな装いなのに、二人とも地味に見せない辺り、これが女子力の高さかと感心させられる。
でもって、なぜだか、とっても気合いが入ってるような具合いに少々困ってしまう。
ナナコさんもリリンさんも、今回の招待に自分のこと以上に憤慨してくれてるんだけど、そもそも、当事者の私が引っかかってるのは指定日のことだけ。
二人やソレイユさんみたいに主催の連合の人達に対する不満というか、憤りはなくて、仕方ないものだって承知してる。
ただ、今回みたいに予定を潰すようなことを度々されても困るし、エスカレートして住処にしている研究所に迷惑がかかるのも嫌だから、それだけはやめてほしいと主張しとこうと決めてるだけで、後はどうするつもりもない。
もちろん、悪口や嫌みは言われないに越したことはないし、顔も知らない人達に呼び出されて無視したい気持ちも、憂鬱さも充分に持ち合わせてる。
それでも、彼女達の気持ちに誰よりも同調してしまうから、一度くらいは言われ放題に付き合うのも仕方ないと思ってしまうだけだ。
「いよいよね」
マダムのお店を出発したリリンさんのところの馬車が止まると、やっぱり私よりも気合いの入ったリリンさんが鋭い眼光でつぶやいた。
お茶会の会場として指定されたのは旧宰相邸。
それなりの過去に権勢を誇っていた宰相家が、やりすぎて没落した。
その後始末というか、処分として色々と没収をされた内のひとつがここ。
ところが、当時の王家でも持て余すくらいの豪邸で、いくつかの商会が財団を発足して運営することになったほどで、敷地の広さなら地方の下手な城よりあるらしい。
というわけで、閉じていては維持費だけでも莫大なので、いまでは開かれた観光地であり、場所によっては一般人でも借られたりするわけだとか。
「お待ちしておりました」
指定された場所で降りるなり出迎えてくれたのは、見知らぬ女子三人。
無表情で淡々としている様に戸惑っていると、案内しますと背中を向けて歩きだしてしまう。
「あの、リリンさん。彼女達が連合の代表者ですか?」
「違うわ。あれは、ただ道案内をする担当だと思う」
こっそり聞いてみると、そんな答えをもらったけれども……。
「ほんとに、ただの道案内なんですかね」
「と、思うのだけど」
やけに、チラチラと振り返られる。
どう甘く見積もっても、ついてきているか確認している以上に後ろを気にしてるっぽい。
というよりか、ほとんどが私と背後のソレイユさんに向けられてて居心地が悪い。
「あ、惜しかった」
ふとナナコさんのぼやきが聞こえて、目線だけで聞いてみる。
「なかなか、スリーカードで同時に振り向かないなと思って」
説明された途端に、危うく吹き出すところだった。
何を面白がっているのかと怒りたかったけど、おかげで気が紛れたことは確かなので、こっそり一緒に揃うのを待ってみた。