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イズクラ


∞ Sideナナコ



眠いながらも、今日も完璧に仕上げてきた自信を持って出勤した私。

鞄を持ったまま、毎朝の習慣として給湯室に顔を出す。

そこで、研究所に住み着いているオタク研究員のイスズがお湯を沸かしてくれているから。


「ふわぁ、おはよう」


「ああ、おはようございます」


「ナナコさん、おはようございます。意外と早いんですね」


「は?」


油断しまくってた欠伸の顔をさらして、聞き慣れないイケボに固まった。


開いた目の前には美青年と美少年が並んでいる。

しっかり目を閉じて、見直してみても、イケメンが大小揃ってた。

あの憧れの黒騎士様として人気の高いソレイユ・ヴァンフォーレと腹黒系なのにかわい子ぶりっ子が似合うジェット・リーチが、なぜだか朝から胡散臭い研究所の給湯室に存在している。


「はあっ!?」


叫ぶなり、すぐさま翻してイスズを探した。


「ちょっと、イスズ、イスズ!!」


「ここですけど」


目的のイスズは事務所にいた。


「ナナコさん、おはようございます。どうしたんですか」


「どうしたんですかじゃないわよ。何で朝から、あの顔ぶれが揃ってるわけ!?」


「あー……まあ、それには色々ありまして」


どんな色々があるのか、えへへと笑って誤魔化すつもりらしいけど、逆効果にしかなってないから。


「ふうん、そんなんで私が納得すると思ってるの。あんたも研究者なら、説明くらい論理的にしてみなさい・よ」


イスズの鎖骨下をつついて精神的に追いたててやる。


「それは……」


もう少しで口を割りそうなところに、所長が間の悪い出勤をしてきた。


「なんだ、ずいぶん可愛いことしてんな」


どこをどう見たら、そんなフィルターがかかるんだか。


「ビームス所長。イスズの周り、なんか面白いことになってますよね」


「……まあ、これからの方針説明は必要だろうと思って、早めに来たんだ」


「ってことは、おいら達にも聞かせてもらえるってことでいいんですか」


ドアを開けて声をかけてきたのは研究員のブレッドだ。

ぽっちゃり体系なので見えにくいが、その後ろにはロケットのびしっとした七三頭と、クリップのもさっとした赤毛が見え隠れしている。


「ああ、そのつもりだ」


苦笑しながらの所長に、本日の仕事内容を調整した方がよさそうだなと思った。




* Sideイスズ



一同は研究室に集まった。

それでなくても普段から書類や写真でごちゃっとしている室内が、どっと密度を増したみたいで息苦しい。

けれど、それを気にしているのは私くらいで、研究所メンバーは所長からのお言葉を待っている。


「で、どんな事件が起きたらイスズの逆ハー品質が高まるのよ」


所長に凄んで話を切り込んだ事務員のナナコさんは、置き場のない机の隙間を縫ってドンと手をついた。


「逆ハーとは……」


騎士様だけが意味を理解できなかったように呟いたけど、誰も聞かなかったことにするらしい。


「イスズさんは正体不明の輩につけ狙われているんですよ」


ここで不機嫌そうに応えたのは、なんでかジェットだった。

研究所仲間の三人は驚きながらも、想定内という反応かな。


「短期決戦を仕掛けるつもりだ。相手を燻ぶり出して、根本を仕留める」


ビービーの過激な物言いに、慌てて待ったコールをかけた。


「相手を突き止めるのは賛成だけど、何も、そんな物騒に対応しなくても……」


「鏡を見てみろ。不細工だぞ」


「うぬぬ……」


悔しいながらも反論はできない。

昨日の朝までは、気合いと根性で持久戦に持ち込み、平凡で慎ましい暮らしぶりを見せつける我慢比べをする気でいた。

そうして大人しくしてたら、相手も狙う価値がないと引いてくれる展開を狙っていたのだ。


だけど、これは無謀な作戦だった。


相手の目的がわからない以上、引いてくれるかは賭けでしかない。

収束の期限だって見通しがつけられない。

それでも、結構いけると信じていたのに、昨日の夜、自ら全てを否定する醜態を晒してしまったのだから言い訳のしようもなかった。


自分に期待過剰だったと判明した以上は、悔しくても文句も言いにくい。


「仕掛けはシンプルだ。イスズを餌に敵を釣り上げ、締め上げる」


「ちょっと、所長! イスズさんが危ないじゃないですか」


私よりも素早く反応したのはジェットだ。


「誰のせいだ、誰の」


「僕が何したっていうんですか」


「ジェット、イズクラを動かしてるだろ」


「それの、何がいけないんですか」


「全メンバーに知れ渡った時を考えろ」


言われたように考えてみたらしいジェットは、結論に至り青くなった。


「下手すると、敵は微塵も残らないかもしれないな」


ビービーの想定に研究所勤務員は無言で頷いて同意してるけど、騎士様はぴんときていないっぽい。

それでも黙って聞いているのは、騎士道なのかなんなのか。


「あの人らは自分の能力をわかっているから、早々に動くことはないだろうが……」


ビービーは言いながら、横目でさりげなく私に当てこすってくるし。


「いつまでも手をこまねいていると、本格的に動き出すだろう。ジェット、そうなったら、お前は会長をクビだ」


「ぐぬぬぅ」


これだから、オカルト情報を集める以外に、イズクラを使いたくないんだよ。

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