報告と開き直り
※ Sideソレイユ
あれから仮眠を挟んで落ち着きを取り戻した自分は、少々反省をしているところだ。
しかし、夜勤明けのところにジェット君から不穏な茶会を知らせる手紙をもらったら、動揺するのは仕方がないことだと思う。
ついでに、イスズさんが自分よりもナナコさんやリリベル嬢を頼みにしていることも丁寧に書かれていたものだから、即行で話し合いに向かうのも当然な流れだった。
但し、顔を合わせてから全体的に強引だったかな、とは考えてしまう。
だからと言って、服装の手配を宣言してしまったからには後にも引けず、これには確実に協力者が必要なわけで、母のブティックの前に立ち、どう説明したものかと悩んでいるのが、いま現在のこと。
そうして、どう言い繕っても、イスズさんとの関係を伝えないと始まらない話だとわかっているので足が止まったままで。
別に、報告できない相手ではない。
母だってジュリ姉さんだって、イスズさんとはすでに顔見知りだ。
だからこそ、純粋に恥ずかしい。
ビームス所長に報告しに行った時のイスズさんもこんな気持ちだったのだろうと考えれば、自分だって、こんなところで躊躇をしてるわけにはいかない。
大きく深呼吸をして顔を引き締めると、華やかな店内に一歩を進めた。
「いらっしゃいませ、あら、ソレイユ」
店内に入ってきたのを珍しげに見る母に、客として相談したいことがあると切り出せば、奥向きの個室に連れて行かれて姉も合流する。
これで、人目を気にせず話せそうだと安心した。
ところが、いざとなったら、スマートに報告するどころかしどろもどろになり、締めたはずの顔面は紅潮し、視線は完全にあっちこっちを向いてしまう。
それもこれも、相談相手の母と姉が話を聞くうちに目をランランと前のめりになり、店員としてではなく、家族として根掘り葉掘りと馴れ初め聞き出そうとしてくるからだ。
これまで、そちらの方面で色々と心配させていたのもあるのだろうけど、これは厳しい鍛錬よりもきつい気がする。
「やっぱり、そうなると思ってたのよ」
「私でも、わかったわ。ソレイユったら、ほんとに嬉しそうにドレスを選んでるんだもの」
ああ、もう!
「今日の本題はそこじゃないので、話を聞いてください!!」
そう叫んだ自分は、顔が熱くて仕方なかった。
* Sideイスズ
「すみません、イスズさん。これでも抑えるよう忠告してはいたのですが……」
お茶会当日。
すっかり、おでかけ仕様になった私を前に、ソレイユさんは褒めるよりも先に謝罪をくれる。
きっと、ソファで見るからにぐったりしているせいだろう。
なぜなら、城での内密な晩餐会並みにあちこちを磨いていただいたから。
しかも、ソレイユさんから私との関係を聞いているにも関わらず、今日は大事な準備の為だから触れないでおくわねとマダムから宣言してくれたのはありがたかったんだけど、ふとした瞬間にニマニマと生温い視線と交差してしまうのが地味に居たたまれなかった。
「でも、おかげで、少しは見栄えするようになりました」
話題と気持ちを切り替えようと、背筋を伸ばして座り直す。
完全にソレイユさんに任せっきりで用意してもらったのは、青が綺麗な、軽やかな印象のワンピース。
シンプルなのに華やかで、上品な感じが大人っぽく見える嬉しいデザインだ。
そして、またもや宣伝用だからとお店のプレゼントにされてしまい、申し訳ない。
しかも、靴とバッグはソレイユさん持ちだとか。
「似合っていてよかった。でも、似合いすぎて、ちょっと緊張しそうです」
「うっ……」
美貌のはにかみ顔とか、試合前なのに味方から心臓直撃コースみたいなダメージはやめてください。
「ソレイユさんこそ、今日はいつにも増して華やかですね」
体に沿ったスーツはスタイリッシュで、要所に刺繍やら小物が光り、騎士というよりは招待客の一人みたいな印象だ。
「イスズさんと並べるよう、ちょっと張り切ってみました」
また、追加のダメージにやられそうで話題を変えよう。
「そういえば、ソレイユさん。ちょっと相談なんですけど」
「今回はプレゼントなので、割り勘は受け付けませんよ」
うん、失敗した。
それも、用件を告げる前に。
この辺は、これまでの食事デートでも揉めたこと。
初回はともかく、二回目からは割り勘でと私の方からお願いしてる。
先輩達から過剰なくらい色々と聞かされていたソレイユさんは、なかなか同意してくれなかったんだけど、「長くお付き合いをしたいので」と頑張って伝えて納得してもらった。
こういうところが可愛い女の子に当てはまらない一因だとわかってても、性格なのだから仕方ない。
「着飾らせる楽しさを覚えさせたのはイスズさんなので、責任をとって受け取ってください」
「ええー……」
なにげに人のせいにして、いい顔で押し切るのはやめていただきたい。
「それに、今回は完全に私の責任なので」
頑固に言い張るソレイユさんには、なんて返したものか迷ってしまう。