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続々・初デート


* Sideイスズ



とりあえず、お互いに途中で人が入ってくるのは気を使いそうだからと、始めから色々と頼んでおく方針で注文する。


出されたお皿は評判通り、どれもお洒落で美味しくて、照れくささは多少ほぐれてきた。

ちなみに、お酒はどちらも頼まなかったので、フレッシュジュースで乾杯してみた。


「そういえば、ソレイユさんって、どうして騎士になろうと思ったんですか?」


ふと気になったから、お肉の合間に、ちょっと聞いてみる。


「あー……深い動機があったわけではないんですけど、イスズさんはクレオス隊長の影響だって言ってしたよね」


「うーん、まあ、興味を持ったきっかけはそうなんですけど、いまみたいな研究者を目指したのは、なりゆきみたいなところも大きいんです」


「なりゆき?」


「前にも言いましたけど、学校で上手くやれなくて。でも、オカルト話を通したら誰とでも盛り上がれるのにって思ってたから、専門家みたいに詳しくなれば、そういう話をしても文句を言われなくなるかも、とか考えてた時期があったんです。そんな時にビービーと会って、おじいちゃんのバックアップで研究所を手伝わせてもらえることになって、やれることを頑張ってたら研究者になれてたって感じなんです」


「運もよかったのかもしれませんけど、認められるようになったのは、イスズさんが頑張ったからですよ」


そんな風に言ってもらえると、小心者としては黙ってられなくなる。


「……でも、実は私、なんでもかんでも不思議現象を信じてるわけじゃないんですよ」


「研究者として正しいのでは?」


「そうなんですけど、持ち込まれる情報をナナコさんみたいに胡散臭いって思っちゃうこともあるし、不思議体験も、それっぽい光を一回だけ見たくらいしかないんですよね」


「でも、オカルトの話をしているイスズさんは、いつも楽しそうでしたよ」


「う……まあ、楽しいは楽しいです」


詰まりながらも答えると、ソレイユさんはにっこりとしてジュースを含む。


「さて、ここまでイスズさんに打ち明けてもらっては、私も格好つけてるわけにはいきませんね」


グラスを置くなり、何やら姿勢を正して息を深く吸う。


「私が騎士になりたいと思ったきっかけは、幼い頃に観た舞台の騎士が格好よかったからなんです」


「へえ、すごいですね」


「すごいですか?」


「すごいじゃないですか。だって、それからずっと努力して、憧れを叶えたってことですよね」


私の素朴な感想に、ソレイユさんは頬を緩めて照れたみたいだ。


「ありがとうございます。でも、理想と現実との差が多くて、戸惑いや悩みは尽きませんでしたけど」


俯き加減で苦笑する姿に、その美貌も含めて色々とあったんだろうなと庶民感覚で想像してみたところで、ふと思いついた。


「もしかして、ソレイユさんが憧れた騎士って、ハイターですか?」


「え、なんでわかるんですか」


顔を赤くして慌てる態度に、やっぱりと納得する。


騎士ハイターはシリーズになってる人気作だ。


ロマンス物や難解な哲学など、見る人を選ぶ作品が主だった頃に活劇ものを目指した珍しい作品は、当初、小さな劇場で低予算だったらしい。

それが、蓋を開けてみれば、初めて観る舞台に最適と話題になり、チケットの安さから若者にも注目されて、あれよあれよと人気となり、再演では大劇場で本格的なものになったのだとか。


という情報を、つい先日、新作のチケットをゲットしたと喜ぶナナコさんにレクチャーされたばかりだ。


それに、このシリーズは私でも二回観たことがあるほど有名な作品。


「幼い頃って言うと、マダムオーガストさんに連れて行ってもらったんですか?」


ちなみに、私の場合は一度目は兄と、二度目はビービーと観に行った。


「いえ、それは父が……」


「へえ。面倒見のいいお父さんなんですね」


「そうなんですけど、そうではなくて」


見るからに、まごまごしているソレイユさんに首を傾げる。


「実は、その舞台の脚本と演出を担当しているのが父なんです」


「え、脚本と演出!?」


まさかのびっくり情報だ。

ついでに、延々とハイターシリーズを語ってくれたナナコさんなのに、肝心な情報を何一つ教えてくれてなかったことが発覚した。


「本当に、ただの一般市民なんですが、ちょっと派手な家族なんです」


肩をすぼめるソレイユさんに、前にも似たようなことを言われたなと思い出す。

確かに、華やかな家族っぽい。


「でも、いい家族ですよね」


「え?」


「だって、騎士ハイターはソレイユさんの為に考えてくれたんじゃないですか」


「なんでもお見通しなんですね、イスズさんは。でも、私は親不孝なんじゃないかと、ずっと思ってたんです」


「どうしてですか?」


「舞台に興味を持ってほしかったはずなのに、そうではなかったから」


「それでも、お父さんは嬉しかったと思いますよ」


そこはかとない憂いを否定すれば、「そうだったみたいですね」と苦笑しながら同意が返された。


「実は、正式に騎士に任命されるのが決まって、父に聞いてみたんです。そしたら、イスズさんが言うように喜んでくれていました。ただ、一度は私が言ったみたいに、やっぱり残念に思ったそうです。何せ、舞台を観た直後に飛び出した感想が騎士になる! だったわけで。一応、俳優になればなんにでもなれると促してみたそうなんですが、私がハイターみたいな本物の騎士になると言い返したらしくて、何よりの褒め言葉だったと、時々、思い返しているそうです」


自分は全く覚えていなかったとまで白状してくれる正直さに、つい笑ってしまう。


「すみません。あまり格好のつかないきっかけで」


恥ずかしげに謝られて、そうじゃないと、こちらも否定する。


「違いますよ。ちゃんと、すごくいいお話でした。そうじゃなくて、こういうソレイユさんの個人的なエピソードが聞けて、嬉しいなと思っただけです」


素直に思ったままを口にながら、はたと、妙に恥ずかしいことを告白しているのではと顔が熱くなってくる。


「……ありがとうございます。その、私にもイスズさんのことを色々と教えてください」


「えっと、その……はい。よろしくお願いします」


なんだか異様に恥ずかしくて、でも、とてつもなく嬉しくて浮かれている自分に驚きで、お付き合いをするというのは凄いことなんだなと変に感動してしまう。


本当に凄い騒動が起こるのは、これからのことなのだとも知らないで。

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