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続・初デート


* Sideイスズ



「あー、実は今日の訓練で、昨日同行していた先輩達と一緒だった流れで、どこかいいお店がないか相談してみたところ、色々なアドバイスをもらったもので」


ソレイユさんが言い淀んだ後に打ち明けてくれたのは、普通にありふれたやりとりで拍子抜けする。


「隠れ家的なお店とかですか?」


「いえ、その、待ち合わせのパターンだとか、荷物の持ち方だとか……です」


答えながら、段々と俯いてしまうので首を傾げる。


「外で待ち合わせなら早めに行くのが当然だけど、家に迎えに行く場合、支度が終わってないかもしれないので早すぎるのはいただけないとか、他にも色々とご指導いただきました。あと、他にも色々とは、具体的に聞かないでくださると助かります」


「えーと、それは騎士様としての心構えみたいなやつですか?」


「いえ。先輩方の血と汗と涙の滲んだ経験談による男の勲章だそうです」


なるほど。

頼りになる先輩方は、様々な経験を実地で積んできたらしい。


「ソレイユさん。色々と考えてくれるのはありがたいですけど、そんなに気にしないでいいですからね。今日だって、ご飯に行くだけですし」


「ですが、最初のデートでつまずいて別れることもあると聞いては、なんとしてでも成功させないとと思って……実は、巡回中に、紹介してもらった店にこっそりと予約を入れてしまいました」


そんな告白をして、上目遣いで顔色を窺ってくる。


「イスズさん?」


反応できない私が不審なせいか、やや近くに顔を傾けてくるから慌てて逸らして怒った。


「仕事中は、仕事に集中してください!」


「すみません、ちょっと近すぎましたね」


全力の訴えを無視して謝ってくるソレイユさんの声に笑いが含まさっているのは、こっちが真っ赤な顔をしてるからに違いない。


悔しいことに、ナナコさんが正しかった。

今日は初デートで、気合いを入れるべきお誘いでよかったらしい。


「あ、もちろん、務めはきちんと果たしてます。ちょうど、お店が巡回の範囲だったので。ただ、あまり先輩達に気安く声をかけられた経験がなかったので、イスズさんとのこともあって、ちょっと浮かれていた自覚はなくもないですが……」


私も昼間はふわふわしてから気持ちがわからなくもないけど、私的なことは昼休みとかにしてくださいと念を押しておく。


「今後は気をつけます。でも、今日に限っては、昼は隊長に呼び出されていたので、先輩達には逆に気を使ってもらってたのかもしれません」


「え、ホントに呼び出されたんですか!?」


昨日、そんな会話を聞いてたけど、まさか、実行されるとか思わなかった。

慌てて、ソレイユさんの頭のてっぺんから足元までを確認する。

うん、見える範囲での形跡は見当たらない。

それじゃあ、見えないところに……


「イスズさん、殴られてはいないですよ」


先に困ったように答えられて、少々気まずくなる。


「もしかして、昨日のこととは関係ない用だったんですか?」


「いえ、おもいっきり、昨日の件で」


肯定されて、どんな顔をしたらいいのかわからないでいると、ソレイユさんは苦笑して、いいところの仕出しを奢ってもらったのだと続けた。


「なんか、変なこととか言ってなかったですか?」


無茶な遊びにも散々連れ回したくせに、時々、過保護に気を回してくる兄だから心配だ。


「特には」


対して、返されたのはお手本みたいな営業スマイル。


「ソレイユさん」


名前を呼んで同じ質問を繰り返すと、そっと視線を逸らされ、ほぼ無言だったと白状してくれた。


「ただ、退出する直前に引き止められて、大事にしてやってくれと言われたので、はいと答えておきました。いいお兄さんですね」


「……つい最近まで、音信不通の元兄ですけど」


つい、可愛くない言い方をしてしまったけど、ソレイユさんは気にせず優しい笑顔で居た堪れない。


「いらっしゃいませ。ご案内させていただきます」


多少の微妙な空気を引きずりつつ、少し脇道を歩いて、爽やかな笑顔のお兄さんに迎えられたお店に到着した。


緊張しながら案内されたのは、こじんまりとしながらも完全なる個室。

ちらりと横目に見たホールも賑わっていた様子だ。

これを昨日の今日で予約できたなんて、まさか、騎士様のいけない癒着や居丈高なごり押しでは……と、メニューより先に気になってしまう。


「やっぱり、イスズさんに黙っているのは無理そうですね」


気まずげに告げるソレイユさんに、やはり何か裏があるのかと身を乗り出す。


「本当は、今日、ここの予約をしていたのは、砦に出入りしている業者さんなんです」


「は! もしや、イケナイ取引の賄賂に!?」


「違いますよ。ただ、三ヶ月も前に予約していたのに、その直前に振られてしまったらしくて、先輩の仲介で譲ってもらいました」


「え? だったら、普通に教えてくれたらよかったじゃないですか」


「その、イスズさんは縁起が悪いとか思わないんですか?」


「うーん。譲ってくれた人には悪いですけど、ラッキーとしか……。私こそ、薄情とか図太いとか思われそうですね」


「そんなことありません。イスズさんが気にしないなら、よかった。とても評判のいいお店だそうです」


ソレイユさんの返事で安心したので、私も素直に楽しみになってくる。


「それにしても、私はあまり信用がないんですね」


拗ねた発言に顔を上げたら、なんとも訴えかけるように見つめられてて、慌てて弁明を試みる。


「信用はしてますよ! ただ、すごく張り切ってくれてるみたいだから、無理をさせたんじゃないかと思っ……たりもしたんですけど、そんなわけないですよね。ソレイユさんは立派な騎士様なわけですし……」


尻すぼみになったのは、妙に恥ずかしいことを言ってる自覚をしてしまったから。


「そうありたいとは思ってますけど、まだまだ難しいです。イスズさんが喜んでくれそうなら、ちょっとズルいこともしちゃいましたからね」


ソレイユさんは、せっかくぼやかした辺りを、はっきりと言葉にしてくれた。


私のために無理はしないでください――とか言い返したい気持ちはあるのだけども、実際に口にするには抵抗感のあるセリフすぎる。

他に上手い言い回しを見つけられなくて、楽しそうに笑いかけられたら、メニューで顔を隠す以外に何ができようか。

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