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続・飲み会


§ Sideクレオス



「それにしても、ビービー。現役を引退したっていうのに、どこから、そんな情報を仕入れてくるわけ? もしかして、研究所って、実は騎士団の暗部とか諜報組織だったりするんじゃないの」


酒精の強そうなのを飲んでいる割に酔った気配のない王子が、からかうように笑う。


「聞いてどうする、リック。実家に報告するつもりか?」


「いいや。純粋な疑問。てかさ、もう、そういうのはいいかなぁって思ってるし」


「さすがに、望まぬ見合い話にまで行きついて、放蕩息子するのも考え直したか」


「まあ、そんなとこ。だから、近い内に王族籍を抜けて平民になるつもり」


「な?」


「え!」


「は!?」


お客さんらしく静かに聞き流して飲んでいたら、危うく吹き出すところだった。

驚きの声には物静かにノンアルコールを嗜んでいた王子の従者であるキースさんのものも混じってる。


「どういうことだ、リック!」


立ち上がって追求する従者に、俺の見立て通り、相談も予告もされていなかったらしいと確信し、同じく仕える立場として少々の同情がわく。


「どうもこうも、国や家族に迷惑かけてたってことは、俺のやってたことは独りよがりだったってことだろ。しかも、国際規模だ。それに、つき合わせてる俺の従者が、そろそろ落ち着きたがってるのもわかってたから、ちょうどいいかなと思ったんだよ」


「いったい、どこに落ち着くつもりだ」


「ここ。見合いは終わりにしてもらうけど、色々と首つっこんでる状況なわけだし、平民になってもコネはあるから役立ちますよってラグドール王に売り込むつもり。キースに関しては、権力のある内に全力でどんな希望でも叶えるから心配無用だし」


「誰が、そんな心配してるんだ! 言っておくが、リックの外交力は優秀で、信頼できる身内の上に判断力も確かだから疑う必要もない。今回は上の方々が頼りすぎてたのを反省してるくらいだからな」


「でも、厄介払いで見合いを組まれたんじゃ?」


「それもないとは言わないが、結婚を意識するようになれば、落ち着きたくなるだろうという期待の方が大きい」


「……もしかして、キースが落ち着きたがってたのも、俺のため?」


「リックは利権絡みの派閥に関わらなくて済むように、早くから国を出ることが多かったから、付き添う俺も少し疲れただけだ」


「そっか」


「あ、あと、平民は無理だからな」


「なんでだよ」


「あれだけ各国で上の人間に顔と名前を売っておいて、なんの後ろ盾もない状態になったら、それこそ、囲いたい令嬢やら商人やら偉い人達が、わんさか押し寄せて取り合いの大惨事に決まってるだろ。ここに居着きたいんなら、長期で大使として派遣させてもらうのが妥当なところだ」


「えー」


「当然、俺もセットでな」


「……キース、そんなに俺のこと好きなわけ?」


「ああ」


「くうっ! 俺の従者のツンデレがずるすぎる!!」


どうなることかと思った打ち明け話が微笑ましい着地点に辿り着いたようで、王子は酔いが回っても見た目に出ないタイプかと横目で眺めながら安心して喉を潤す。


「ったく。最初から二人で話せばいいだろうに。言いにくいことだからって、俺を介して伝えるくせは直しとけ」


呆れる所長に、返す王子は潔く謝罪する。


「悪かった。けど、直すつもりはない!」


「こら、開き直るな」


「いいじゃん。これから、お世話になる関係なんだから」


「それこそ、隣の親愛なるキースに言ってくれ。だいたい、リックは会長に使われる立場だろうが」


「会長って、ドラグマニル公に?」


「あっちは名誉会長。じゃなくて、イズクラの方だ」


「ああ。イスズちゃんの研究のお手伝いくらい、喜んでするよ」


軽く考えている王子に、安易な契約は結ぶべきではないなと反面教師を意識してしまう。


「さっきの質問だが、あのラテアの情報はイズクラからだからな」


「へえ。城では有名な話ってわけだ」


「やっぱり、わかってなかったか。あれは会長が調査を指示したから上がってきた情報だ」


「ん、ジェット君が? なんでイスズちゃんのファンクラブが王様の付き人を調査する必要が??」


「イスズに接近したからだろ」


「ええー。接近したからって、そんなストーカーみたいなことしてんの?」


「そんなわけあるか。その辺の線引はきちんとしている。だからこその会長だ」


「……あのさ、イズクラって、純粋なイスズちゃんのファンクラブなんだよね?」


何かを察したのか、窺うような王子に所長は素っ気なく肯定している。

そんなやりとりを横目に、さすがに可哀想になったので、キースさんの方には、こっそりとアドバイスをしておこう。


「本当に定住する気なら、早い内にイズクラメンバーの確認なり紹介をしてもらった方がいいですよ」


聞こえていた王子はなんとも不可解な表情を浮かべているけど、キースさんは素直に頷いてくるたので、早々にイズクラの実態を理解してくれることだろう。


イズクラの会員数はそう多くないし、善良なオカルト好きの集まりなだけだが、一般市民から組織の上役までと恐ろしく幅広い。

そして、マメなジェットの統率力で身分差なく情報共有しているせいか、マニアックな趣味人の集まりという以上に仲間意識が強く、秘密結社みたいな悪ノリの雰囲気がある。

よって、出来ることが大きく、滅多にない新人は大注目されるので、メンバーからは一通りの接触、もしくはウザ絡みをされるのが通過儀礼となっている。


一応、他国の王族なので、主な窓口はジェットだけでやりとりするつもりだったらしいが、縄張りに居座るとなれば、全力でイズクラに染めるべく、全会員に顔合わせの通達が回ることだろう。


まあ、コミュニケーション能力が高いようなので上手くやり過ごせるだろうと、ここでは客人でしかない俺は差し出口は控え、お仲間入りを歓迎して改めて乾杯をするくらいだ。



これで、告白にまつわるアレコレは一区切りです。

この後は初デートからの一山とちょっとで完結しますので、もう少しお付き合いをしてもらえたら嬉しいです。


たぶん、年末か年始くらいには決着できるはずなんですが……。

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