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再確認


※ Sideソレイユ



部屋を出る直前の束の間、後始末を任せるような形になるラテアやリリベル嬢に何か言うべきかと迷うも、これから言えることはどれも蛇足でしかないだろうと思い、退出する礼だけを丁寧に示して後にする。


イスズさん達の背中に追いつくことなく屋敷の玄関まで行き着き、焦りと緊張と浮ついた気分をシェイクしてる状態で外に出れば、彼らの馬車はまだ移動してなかった。

それだけでなく、イスズさんだけが馬車の外で待っていた。


そういう人だったと思い返せば、わざわざ自分を待ってくれていたのだと理解して自然に喜びが込み上げてくる。


「イスズさん」


夢の中でもなく、ため息を伴わずに、本人に向かって素直に名前を呼びかけられることですら自分にはご褒美だ。

思考回路の箍が派手に外れかけていることも、今日がこれだと明日以降は大丈夫だろうかという心配も、イスズさんわ前にしては心のクローゼットにポイポイ放り込んで後回し。

そうして、尻尾を振り振り駆け寄っていき、困った顔と向き合って青ざめる。


「すみません。勝手に挨拶に行くと決めてしまって……」


ジェット相手に引いたら負けだと対抗心が燃えさかった流れで、またやらかしてしまった。

いや、イスズさんと真剣に付き合っていくには、ビームス所長への挨拶は必要不可欠なことなのだけど。


「あの、ソレイユさん、無理してませんか?」


「え」


「これからも付き合いをするというだけの話ですし、別に所長に報告はいらないと思うんですけど」


「え」


衝撃すぎて、頭が真っ白になる。


「……ソレイユさん?」


「違いますからね! 私が言った好きは異性に対して、女性に対して、男として好きって意味です! こんな浮かれ天国に気持ちよく送り込んでおいて、今更、お友達としてなんて、さすがに私には無理です。ちゃんと、恋人として始めさせてください!!」


必死になって詰め寄ると、じわじわと赤くなって瞳が潤んでいくイスズさんがいる。

なんだ、これ。

すごく可愛い。

あと、かなりホッとした。

どうやら、気持ちがまったく通じてないわけではないようだ。


「あのですね、一応、私も、そういう意味だとはわかってるんですけど、その、なんて言いますか、その手のことに不慣れというか、向いてないというかですね……」


落ち着かなげに、懸命に話してくれるイスズさんは延々に見てられそうだけれど、なんとか理性の尻を叩いて働かせる。


「大丈夫ですよ。私も不慣れなので、嫌なことや不安があったら言ってください。それで、もしかして、イスズさんは所長に知られるのが嫌なんですか?」


「あー、いえ。あれだけ見られておいて、嫌とか何もないので……」


「でしたね」


保護者や王族の前で堂々告白だなんて、振り返れば、自分のことながら大胆不敵すぎた。


こういう関係になった現状では、言いふらして自慢したがりの浮かれポンチと誰にも邪魔されたくない時間を過ごしたい独占マンが個人的に同居を始めているものの、イスズさんの気持ちを優先させたい思い遣りは家出させるつもりはない。


「では、イスズさんは、何が引っかかっているのですか?」


「えっと、それは……」


適切な言葉が見つからないというよりは言い淀むといった様子に少々不安になるが、焦りは禁物だ。


「そのですね、知られる分には構わないんですけど、こう、いざ自分達で報告するとなったら、普通に照れくさいじゃないですか」


それは、なんてことのない感想で、安心すると同時に自分達と一括りに考えてくれた表現にジンとしてしまう。

これから、ずっと、こんな感じでいられるのだろうかと浸っていたら、すかさず冷え冷えとした横槍に突き刺される。


「あのー、いい加減、出発したいんですけど」


「あ、ごめん、ジェット」


先に馬車に乗っていたジェットが扉を開けて顔を見せたのでイスズさんは素直に謝っているけど、自分としては申し訳なさ六割の後ろめたさ三割に、もう少し気を利かせてほしいと話し足りなさが合わせて一割といったところだ。


「イスズさん、挨拶は日を改めた方がいいですか?」


「あー、いえ。こういうのは勢いも必要なので、ソレイユさんがいいなら今日で。たぶん、所長も研究所にいそうな気がするので」


「所長がいたところで、他の人みたいに反対されるかもしれないですけどね」


「ちょっと、ジェット。ビービーは、そういうこと言わないから」


「わかりませんよ」


ジェットが微妙に会話の主導権を持っていったところで少々引っかかりを覚える。


「イスズさん。つかぬことをお聞きしますが、これまで誰かに反対されたのですか?」


「……」


黙ったということは、そういうことなのだろう。

いったい、誰からなのだろう。

ものすごく気になる。

というか、今日の今日まで気持ちを封印しようとしていた自分なのに、どこから反対が湧いてきたのだろうか。


「あーもう。その辺の説明は時間がかかるから、ジェット、あんたが馬でついてきなさいよ。ソレイユさんの馬でも乗りこなせるでしょ」 


馬車の奥からナナコさんの声が聞こえてきたと思ったら、ジェットが押されるように降ろされた。


「ほら。イスズ、ソレイユさんも、乗って」


「いや、でも、馬を宿舎まで取りにいかないとなので……」


「いいですよ。場所はクレオスさんに聞けばわかるんで」


隊長を煩わせるのは申し訳ないものの、ジェットが反論せずに承諾したことと話の詳細が気になるので、このまま従うことにする。

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