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絶対の信頼と駆け引き


※ Sideソレイユ



「ちょっと、付き合ってもらえないか」


非番の日に先輩騎士から誘われて、ためらいながらも頷いた。


今回は三人組の内の二人しかいないものの、前回の誘いは途中で帰るという、身勝手な行動をしてしまった後ろめたさがあったので、暇でなくとも断る選択肢はない。

だから、どこへなりともついて行くつもりなのだけど……


「あの、先輩。どこへ行くのですか」


つい聞いてしまったのは、両側をがっちりと挟まれて、まるで護送される犯罪者か何かの気分になっているからだ。


「大丈夫、すぐ近くだから」


「そうそう。怖いことはないからな」


「……」


なんだか、悪党に拐かされている子どもみたいな気分に変わったけれど、悪いことにはならないだろうと信じてついて行くしかない。

親玉がいるなら連れていかれる先にいるのだろうし、大方、三人組のもうひとりの先輩が待っているのだろうと思って流されていたら、案内されたのは砦のご近所さん、貴族会議も行われた大きな屋敷だった。


「ここですか?」


確か、この屋敷は宰相が管理しているはずだと確認してみれば、先輩達は遠い目をして肯定してくれる。

そうして、今度こそ逃げ出さないように両腕をがっちり捕まれ、危険人物扱いで中に連れていかれた。


「ようこそ、ソレイユ・ヴァンフォーレ様」


待ち受けていた一室で舞台劇のように大げさな仕草で迎えてくれたのは、ラグドール王に侍っていたラテア・ガバンだ。

それだけでなく、見知った顔がわんさか揃っている。

その中には、もっとも会いたくて、もっとも会いたくない人もいるのだけど、さすがに前回みたいな行動は取りたくなくて足を踏ん張り立ち向かう。


「ヴァン様、お待ちしておりましたわ」


幸い、モモカ姫が前に出てきたので、そちらに対応することで、その場しのぎをしてられそうだ。


「ごきげんよう、モモカ姫。私に何か用ですか」


こんなに人を動かし巻き込んで、人の休日に予告もなく呼び出すなんて相変わらずだなと思いながら、睨みつけないように気をつけつつ相手をする。


「はい」


口元で両手を合わせて上目遣いで見つめてくるモモカ姫が、そこから先は、いつもの如く無言で何かを訴えてくるのだけど、こちらには周波数を合わせるつもるは一切ない。


「えーと、ゆっくり話せるよう別室を用意したので、詳しくはそちらで……」


場所の手配しただろうラテアが気を利かせて口を挟んできたので、ギョッとして見返した。


「まさか、密室で2人きりになれと?」


「え、いやいや、この部屋の続き部屋で、扉は開けておきますから」


「それは、なんの保証にもなりませんよね」


何をしたいのか知らないけど、せっかく公的に否定されたのだから、任務外の関わりは、ほんの僅かでも避けておきたい。


「えーと、でしたら、証人として誰かひとりを付き添いとして指名するとか、いかがでしょう。騎士様なら、守秘義務とか慣れているでしょうし」


ふむ。

ドア口に立っていてもらえば、常に誰かしら控えているモモカ姫は気にしないだろう。

しかし、人選は慎重にならないと、話の流れよっては向こうに取り込まれかねない。


「では、ナナコさん。ご負担をおかけしますが、お願いしても?」


「私ですか??」


「はい。この中で、もっとも公平だと信頼できる方なので」


上司や同僚や、やんごとなき身分の方々を差し置く発言は問題を孕んでいる自覚はあれど、それは紛れもなく心からの本音だ。


「えーと、モモカ姫が問題ないのであれば……」


ナナコさんの返答にモモカ姫があっさり了承したので、三人で小部屋に移動する。


何をどうされようとも、自分が姫様信者の一員になるつもりはないけれど、イスズさんに対して潔白を証明できない状況に陥るのだけは勘弁してほしい。

その点、ナナコさんが保証をしてくれるのなら、心強いこと、この上ない。

後で個人的に礼をしておかなくてはと申し訳なく思いつつも、拒否られては困るので、いまは何も言わずに流されてもらおう。


指定されたドアを開き、室内を確認して、尚更、ナナコさんを指名した自分を褒めたくなった。

窓もない、広くもない密室。

いったい、こんなところでどんな話をしようというのか……。


半分開いたドア口付近、やりとりを余すことなく見守れる位置でナナコさんに立ってもらうと、こちらも渋々とモモカ姫に向き合う。


「それでは、用件を伺いましょう」


何を言われても動揺しない心づもりをして、静かに反応を待つ。

それに対し、モモカ姫は胸の前で両手を組んで一言。


「ヴァン様、好きです」


「……!?」


これには普通に驚いた。

まさかのストレートな告白。

ラテアが余計な人を入れるのを躊躇ったわけだ。

むしろ、人目が多かったら、自分の望まない雰囲気に流されていた可能性が高い。


ぱっちりとした瞳に、バランスのよい顔立ちが赤く染まって見上げてくる。

人気があるのもわかる。

たけど、自分にとっては、それだけだ。

嫌悪感や恐怖心が苦手意識に変わった分、冷静に見ていられる。


重要なのは、ここからどうやって姫君に恥をかかせずに断れるかという手順だ。


現時点で断っても、無垢な好意を拒絶するなんて騎士にあるまじき無礼だと評価されるのは、経験上、簡単に予想がつく。

幸い、ここには素晴らしい識者がいてくれるので、うまくやれば肩を持ってもらえるかもしれない。


肝心なのは、いかにモモカ姫から自分がきっぱりと断れる要望を引き出せるかだ。

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