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* Sideイスズ



「ところで、イスズ嬢は驚くほど普段通りですね」 


ラテアさんにさりげなさを装って指摘された話題に、こっちでも気にされるのかと苦笑がもれる。

比較対象であろう馬車から降りてきたモモカ姫は、舞踏会に参加するほどの装飾じゃなかったけど、ドキドキな告白に相応しい乙女の着飾りと表情でリリンさんやナナコさんに囲まれてる。


「……もしや、モモカ姫にだけ告白させるつもりですか?」


声を潜めて聞かれて、今度は少々慌てる。

予想外の勘繰りというものだ。


「大丈夫です。ちゃんと私も振られますから。そのための残念会も用意してあります」


真面目に否定すると、そうですかと返事して、振られるつもりだからソレなのかと納得してくれたっぽい。

多少、騙してるみたいな罪悪感に流されかけながらも、嘘は言っていないと持ち直す。


ラテアさんに答えたように、振られるつもりはある。

ただ、誤解されてるようなドキドキの告白は最初からするつもりがないだけだ。


ボロを出さないように視線をずらせば、兄の騎士服姿が目に留まり、いつかのビービーが語ってくれた騎士の生態を思い出す。

騎士というのは調子に乗りやすい生き物だ、と。

正確には、調子に乗りやすくなるように教育される団体なのだと。


危険を伴う行動を強いる騎士団では、上官に鼓舞されると高揚して士気を高めるよう新人の内に仕込まれる。

逆に、上官になると、弱っている部下につけ込んで優しさを見せ、副官は隊長に尊敬と憧れが集まるように情報を操作するのが仕事に入るらしい。

だから、至高の主である王様と前王様が揃った場所で期待をかける空気を出されたら、それに応えてしまうのが騎士の生態というもので、ソレイユさんも後で我に返って頭を抱えて困ったことだろう。


じゃなかったら、逃げ出したと自供する元凶のモモカ姫を前にしても顔色を悪くしながら留まっていた騎士様が、私なんかを相手に、あんなわかりやすい逃亡なんてするわけがない。

だったら、もういっそ「全部わかっているので気にしないでください」と言って、こちらから振られてしまおう! と思いついたのが、今回のなりゆきだ。


モモカ姫を誘ったのは、ソレイユさんへの置き土産のつもり。

このままじゃ、専属の護衛任務から離れたって周囲から誤解されたままなのに変わりはないし、モモカ姫のためにも、よくない状態だと思ったから。

前回の誘拐騒動は一緒にいたのがナナコさんで、犯人が親族のサハラだったから内々で収められただけで、他の人だったら、モモカ姫の身も評判もどうなっていたかわからない。


きっと、モモカ姫だって、はっきりとソレイユさんに断られたら変われるきっかけになるはず。


ただ、知らぬ間に見学者が多くなってて、申し訳ない気持ちがぶり返してくるけど、自分も一緒にきっぱり縁を切るので、残念会で色々と水に流してもらおうと祈っておく。


「ラテアさん。そろそろ、中に案内してもらってもいいですか?」


懐中時計を確認しながらジェットが提案すれば、おや? という顔をしてラテアさんが振り返った。


「外で迎えるわけではないのですね」


「標的を罠にかける時は、仕掛けの奥深くまで引き込むのは鉄則ですから」


「なるほど。では、用意した部屋は満足してもらえると思いますよ」


と、なんだか黒い気配の会話をした後に案内されたのは二階の一室で、そこそこ広く、お洒落で贅沢な雰囲気だった。


私ひとりが気後れをしてると、ラテアさんは茶菓子の用意してあるテーブル席を通り過ぎて、奥にあるドアを開けてくれる。

人数がいるので最後に中を見せてもらったら、昼間だというのに明かりがついてるから不思議に思えば、その小部屋には窓がなかった。


「密談をするには、もってこいの部屋なんですよ。まあ、さすがに、誠実な黒騎士様と言えども、ご令嬢達と二人きりにするわけにもいかないのでドアは開けさせてもらいますけど、私達の席とは離してあるので、大声でもなければ聞こえませんから、ご安心を」


ラテアさんが言うので、一応の配慮をしてくれるらしい。

私はともかく、モモカ姫との会話はどう転がるのか、誘ったこっちもわからなすぎて不安があるけど、仮にも告白するわけだから本当に三人横並びで話し合いってわけにはいかないもんな。


「あの、モモカ姫、私から先に話をしてもいいですか?」


仕組んだ側の責任として、ソレイユさんに軽く事前説明をしておいた方が、どちらにとってもいいだろうと提案してみたら、モモカ姫には自分が先にと返された。

そう言われたら、わかりましたと引くしかない。


この感じだと、モモカ姫的に言いたいことを決めてきてるんだろうし、後からでも何かしらのフォローはできるはずと、色んな場合を想定しながら時を待つ。

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