野次馬がいっぱい
* Sideイスズ
「……いらっしゃったのですね」
セントラルパークの待ち合わせ場所。
今度はそれほど驚かなかった予定外の合流は、リックスレイド王子様と従者のキースさんだ。
「振られた相手の告白までお供するなんて、付き合いがいいんですね、リックお兄ちゃん」
ジェットの容赦ない嫌味に、王子様は苦々しく頬を引きつらせてる。
「可愛い顔をして、辛辣だな」
「今日は可愛い見習い後輩でなく、イズクラの会長として仕切っているので、新入り相手にしては優しい方では?」
「え、なんで、俺、こんな嫌われてるわけ?」
「お人柄のせいでは?」
「キース、お前、覚えておけよ」
「ところで、肝心の姫様は……」
これまた容赦なく話に割って入ったリリンさんの疑問には、キースさんが答えてくれた。
「あちらの馬車に乗っています。この日に相応しい装いをしているので、この辺りで姿を晒すわけにはいきませんから」
モモカ姫がどこから何まで理解してるのかは、強引に誘い込んだ私にも不明ながらも、お洒落をするに値する勝負どころの認識はあるらしい。
ふむふむと考察してたら、リリンさんの希望で同行することになったナナコさんから意味ありげな手厳しい視線が飛んできたので、ちっとも気づかない振りでやりすごす。
モモカ姫とは対照的で、私の本日の勝負服は普段の地味さそのもの。
髪型も、いつものきゅっと簡単にひとまとめしただけだ。
これでも、清潔感は意識してきたし、お化粧も自分でできる限りは丁寧に整えてみてる。
ただ、下手な背伸びはしたくなかった。
よって、ナナコさんにコーディネイターとしての出動を要請しなかったわけだけど、それがすこぶる不満らしい。
普段は泣きつく度に面倒くさそうに文句をつけられ、女子力の低さを説教されコースだというのに。
理不尽な気がする私には、乙女心は難しすぎる。
「これ以上、ここで目立ってもいいことはないので、さっさと移動してしまいましょう」
ジェットがそんなことを言って誘導を始めるけど、この先の動きを聞いてなかったから、疑問に思う。
「ここで待ち伏せるんじゃないの?」
「まさか。休日のセントラルパークで打ち明け話なんて、見世物になりたい大道芸人くらいですよ。僕がセッティングしたのに、そんな迂闊な選択をするわけがないでしょう」
いつもよりツンとした態度のジェットは、とある馬に向かってく。
そこで待っていたのは、いつかの接待観光でお世話になった覚えのある兄の隊の騎士様だ。
私服とはいえ、なぜ、イズクラ会員でもない騎士様が? との深まる謎は、ジェットの不機嫌さにより詳細を聞きだせなかったものの、乗せられてる馬車が目的地に到着してしまえば呆気なく理由が明らかになった。
「お疲れだったな。皆、よく来た」
と、さも客人を出迎える主人のように振る舞ってくれたのが兄のクレオスだったから。
「事情を聞いて、場所を提供させてもらった」
気を利かせたように示されたのは、貴族会議が行われた大きな大きなお屋敷だ。
「姫様のために、色々な配慮が必要だろう」
確かにそうだし、お姫様のプライバシーを守るには相応しい場所かもしれないけれども、兄の言い分は言い訳にしか聞こえない。
ただの野次馬のくせにと睨みつけてやったら、無駄に余裕の笑みを返してきて、ますます、自分本位で関わってる疑惑が深まった。
なので、矛先を変えて確認することにする。
「ねえ、ジェット。クレオス隊長とは、どんな取り引きをしたわけ?」
「別に、黒騎士様のスケジュールを照会させてもらっただけですよ」
「見え透いた嘘は意味ないから。不定期な騎士様のお休みを三週間もかけて世間一般の休日に合わせてもらっておいて、なんの取り引きしてないわけないでしょ」
「もう。ホント見事に、イスズさんは僕のこと理解してくれますよね。いっそ、憎らしいくらいです」
カマかけだったけど、大当たりだったらしい。
「そんなの、お互い様でしょ。ほら、今更、帰れなんて言わないから、白状しちゃいなさい」
「……もー、敵わないなぁ。イスズさんの言う通りです。休日を調整してもらう代わりに、隊長さんの見学を許可しました」
「なんで!?」
「いいじゃないですか。おかげで最適な場所を提供してもらえたし、後から隊長さんに一から百までねちっこく事情を聞かれるよりはマシでしょ」
「それは……」
養子に出てから何年も不通だったくせに、色々と把握されていたことを思えば、あり得る事態だ。
「それに、僕が招いた以外にも見学者がいるので、身内の数は多い方が安心ですよ」
「え、まだいるの??」
私の驚きに合わせて屋敷から出てきたのはラテア・ガバンさんだ。
いつも一緒の、超絶やんごとなき御方も現れるのではと緊張してたら、ラテアさんは笑って、本日は同行していないと教えてくれた。
「あの、だったら、ラテアさんは、どうしてこちらに?」
「おや。イスズ嬢はご存知なかったのですね。こちらの場所を提供するのに、私の父が手を貸してくれたからですよ」
ラテアさんの父とは、つまり宰相様なわけで、なんで、そんな大事にと気が遠くなりながら、本当にありがたがってもいいことなのかも不明なまま、とりあえず、会ったこともない宰相様に感謝を捧げてみた。