騎士もどきの嘆き?
∅ Sideビートル
「はあ? モモカ姫と一緒に黒騎士様に告白をしに行くぅ!?」
ニコニコと研究所に戻ったイスズに、留守番班だった俺が久々のフィールドワークはどうだったかと聞いてみれば、なんだかヤケっぱちな勢いで、とんでも予定をぶちまけられた。
そして、話を聞くなり呆れ驚いた声を張り上げたのがナナコだ。
「違いますよ、ナナコさん。私は、けじめをつけるために振られに行くだけです」
「だから、それが告白しに行くってことでしょって、言ってんの」
「だから、そういうことじゃないんだって、言ってるじゃないですか!」
まったくの平行線な会話に、待て待て待てと止めに入る。
「イスズの心持ちはわかった。それで、どうしてモモカ姫を巻き込んだんだ」
「……ひとりよりは、ふたりの方が心強いじゃないですか……」
内容はともかく、思うところがあるのか、尻すぼみな返事。
この視線のそらし方なら、別の本音がありそうだ。
「また、お偉いさんに呼び出されたいのか?」
「そんなわけない。でも……」
「でも、何だ?」
容赦なく追及すれば、イスズは黙んまりに突入する。
こうなったら、いまは聞くだけ無駄だ。
まあ、さすがに、今回は危険に晒されてるわけじゃないだろうけど。
「まったく、小心なんだか、大胆なんだか。ジェット、イズクラで面倒をみてやってくれるか」
「ビービー、今回は自分で動く。個人的なことで、ジェットに迷惑かけるつもりはないから」
「と、言っているが?」
軽く問い返せば、ジェットは当然の如く任せてくださいと答える。
「ジェット……」
「イスズさんが動くより、僕が手配した方が早いです。ついでに、打ち上げの会場も抑えておきますよ」
「嫌じゃないの?」
「……時々、イスズさんは核心的に意地悪ですよね」
戸惑うイスズが何かを聞き返す前に、ジェットから質問を投げかえす。
「もし、僕と黒騎士様の誘いがかぶったら、どちらを優先させますか?」
「だったら、ジェットに決まってるでしょ」
思わぬ即答だったのか、ジェットはわかりやすく目を見開いた。
「どうしてですか?」
「だって、ジェットなら、絶対に空いてる日にしか誘ってこないよね? なら、先にした約束を優先させるのは当たり前だし」
「……はぁー。わかりました。イスズさんは当日まで、アイツになんて罵ってやるかだけを考えていてください。セッティングは僕が完璧に整えておきますから」
「え?」
なぜ、急にやる気になったのかわからないイスズは、それじゃあと立ち去る背中を首を傾げなから見送っている。
「イスズって、案外、男泣かせよね」
わかっていないイスズを眺めて呟くナナコには、苦笑しか返しようがない。
「泣かされる側じゃないなら、何も問題はない」
軽く言ってみるが、これに尽きる。
「所長も大概ですよ」
言い返されたものの、反論する気はない。
「まあ、安心しろ。ナナコが泣かされた時は、イスズを筆頭に俺達が成敗しに行ってやる」
「いや、それ、全然っ、安心できないやつじゃないですか!」
わかりきってる反応に、うちは何があっても安泰だなぁとか感じ入ってる俺は、ナナコの言う通り、大概なんだろう。