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ご相談


* Sideイスズ



「……」


全員が注文をして料理が出揃い、いくらか食べ進めているというのに静かなる無言が続いてる。


本来なら調査経過とか、目をつけてる不思議現象とか、仲間内で楽しく弾む話題がいくらでもあったのにと、食欲が減退するばかり。

いや、もったいないから食べるけど。


「みなさん、よろしいでしょうか」


そんな中、勇気ある最初の発言をしたのは、割り込み申告をしてきたキースさん。


「何のつもりですか」


研究所メンバーを代表して応えたクリップは不機嫌そうだ。


そうだと予測でしか言えないのは、私が飛び入り組とは一番遠い席を確保されたから。

同じ並びの端からはクリップの表情が見えにくい。

なのに、斜め向かいのモモカ姫からチラチラと送られてくる視線は分かるので、こっちは今度こそ気づかない振りを頑張ってる。


「この度は、突然、お邪魔して申し訳ありません。お詫びに今回の精算はお任せください、我が主に」


勝手に決められたリックさんは苦笑してるけど否定はしない、太っ腹な上司だ。

どうりで、隣のジェットが、おもいっきり贅沢をしましょうと誘うわけだ。


「それで、本題は?」


「主がイズクラ会員のよしみで、少々相談に乗って欲しいことがありまして」


「キースが相談?」


「ええ。私が、です」


微妙な気配が漂う中、ジェットが判断を委ねる視線を向けてくるので頷いておく。


「実は只今、我が主がモモカ姫とお見合いをしているのですが、なかなか進展しないようなので、何か、よいアドバイスがないかと思いまして」


「お見合い!?」


モモカ姫にお見合いの話があるとは会見の記事で知ってたけど、そのお相手がリックスレイド王子だとは思わなかった。


「……その気はあるんですか?」


「俺にはないよ、イスズちゃん。もちろん、相手がモモカ姫だからって言うんじゃなくて、そもそも結婚願望が薄いんだよね。いつかはとは思ってるけど、当分は先かな」


思わず余計なことを聞いてしまったと反省する間もなく、リックさんは大して気を悪くした様子もなく答えてくれた。


「だったら、ラグドール王かドラグマニル公にでも、早く伝えた方がいいのでは」


「そうなんだけどね……」


「我が主は普段の素行が悪すぎて、誠意を見せなければならない立場ですから、こちらからは断れません」


歯切れの悪い王子様に、キースさんが妙な解説をしてくれる。


「末っ子風来坊が、あちこちで気位の高い令嬢を手のひらで転がして虜にした挙句に、いともたやすくサヨナラをするものですから、毒された彼女たちがリック様に気に入られようと自主的に恋文と称した情報をたれ流してくるので困っているのです。中には国家機密すれすれアウトの内容もあるので、リック様の親戚一同は頭を痛めているところだったので、ラグドール王からの見合い話は願ったり叶ったりだったのでしょう」


従者らしい口調で語ってくれたけど、言っている内容がひどすぎる。


「キース、人聞きの悪いことを言うな。というか、今回のお見合いだって、真の目的は……」


そこまでを勢いよく反論したリック王子は続きを躊躇い、モモカ姫を見やる。

そうして、にこりと王子様スマイルを繰り出すと、失礼と断りを入れて椅子ごと後ろに回って耳を塞いだ。


「ぶっちゃけ、彼女の意識改革が本命で、お見合いは単なる名目。けど、一見は礼儀作法に申し分ないから、俺にできることがないんだよね。あと、庇うわけじゃないんだけど、キースは彼女みたいのが苦手らしくて、地味にストレスを溜め込んでるんだよ。たまには休めって言ってるんだけど……」


「俺しか付いてないのに休んでどうする。しかも、お忍びだからって、彼女の護衛を置いてきただろ。あと、苦手なわけじゃない。はっきりしないのが性に合わないだけで、お見合いだって成立する可能性がないわけじゃないんだぞ」


「わかってるよ」


小声なのに言い合うという器用なやり取りを見せる王子様と従者さんに、つい、内輪揉めなら余所でやってくれないかなぁと思ってしまう。


「だったら、ハッキリさせればいいだろう」


普通の声量で、そんな提案をしたのは生真面目なロケットだ。

何か策があるのだろうと期待してか、王子様は言われるがままにモモカ姫の塞いだ耳を開放するけど、個人的にはちょっと嫌な予感がする。

ロケットは無駄が嫌いな性質というか、時々、率直すぎる表現で、周りを引きつらせることがあるタイプだから。


「モモカ姫、少々質問してもよろしいだろうか」


「ええ、どうぞ」


訊ねられたモモカ姫は、耳が塞がれていたことを気にもしてないお姫様スマイルで応じる。


「リックスレイドのことを、どう思っているのだろうか」


私は、やっぱりとしか思わなかったけど、王子様と従者さんは目を見開いて固まった。


「そうですね。お喋りが楽しくて紳士な振る舞いの、素敵な友人ですわ」


一部で緊張感が高まる中、モモカ姫から出てきた返答は至極無難なもの。

しかし、ここで胸をなでおろすのは早かった。


「では、リックスレイドとの見合いについては、どう思っていますか」


質問を、ど直球に修正してきたロケットの顔は、周囲のハラハラ具合いをものともしない涼やかさ。


「……」


「……」


んん?

何、この無言。


意味がわからなくて隣のジェットを見てみたけど、同じように首を傾げてる。

それで、モモカ姫に視線を戻してみたけど、注目が集まれど黙ったまま、困ったような笑みを浮かべてるだけ。


「質問が聞き取れなかったのだろうか」


呟いたロケットが再度、質問を繰り返そうとしたけど、リック王子が止めた。

そうして、再びモモカ姫の耳を塞いで解説をはじめる。


「無駄だよ。こういう不本意で責任を伴う類の質問は、王族の危機管理に相応しく、無言で笑って誤魔化してきたんだろ。というか、これだけで周りが忖度して回っていたらしい」


「とても信じられないが、モモカ姫に関しては成立していたのだろうな。しかし、逆に黙っていることで、都合よく拡大解釈をされたりしたら終わりだぞ」


「だから、この国のトップ二人が俺なんかを頼りにしてるんだろ」


「なるほど」


説得されたロケットは納得をして引き下がったものの、国民としては、とても残念な会話に他ならない。


「まあ、どんな事情があろうと、主従揃って君達の憩いの時間を台無しにしたことは潔く認めて謝罪する。ごめんね、イスズちゃん」


席を離され、気を抜いてたタイミングで名前を出されて、おたおたと碌な受け答えができなかった。


「すっかりお邪魔してしまったけど、予定もあるから、そろそろ失礼するね」


モモカ姫の耳から手を放したリック王子は、親しげに別れの挨拶をして立ち上がり、優雅な仕草でモモカ姫の椅子を引く。


「行くぞ、キース」


含みを感じる主人の短い指示に、従者は反発することなく、当たり前に続く。


「皆様、無礼をいたしました。お詫びというわけではありませんが、ここの焼き菓子を頼んでありますので、お帰りの際に受け取ってくださいませ」


行き届いた手配の申し出には、感心するよりも、実は本当に話を聞いてほしかっただけなのでは? と思ってしまう。


「リックもキースも、気晴らしがしたくなったら研究所に来たらいいよ。それくらいは所長も許してくれるだろうし、二人だって、フリーな時間がないわけでもないんでしょ」


甘いものに絆されたのか、二人の境遇に同情してなのか、ブレッドがそんな言葉を背中に向けて言う。

そんな些細な提案に反応してみせたのは、なぜか鈴を転がしたような声。


「まあ、それは素敵ですね。ぜひ、私もご一緒させていただきたいですわ」


華やかな笑顔のモモカ姫に、さすがの私も見惚れるよりも、ぎょっとする。


誰も、モモカ姫には言っていない。


本日、出会ってから、いまのいままで会話に入らず、時々、耳を塞がれてたというのに、なぜ割って入れるのか不思議でならない。

ましてや、さっきまで、なんやかんやと言い繕って体裁を保っていた王子様と従者さんが、ヒクリと頬を引きつらせる素が垣間見えては、モモカ姫の存在が、益々、浮いてしまうというもの。


「えーと、モモカ姫については、所長に聞いてみないとかなぁと……」


下手を打ったと、ブレッドがなんとか即答を回避したら、モモカ姫は素直に引き下がる。

というよりは、断られるなんて思ってもいないんだろうな。


「あー、僕達も食べ終わったから、一緒に出ませんか」


そんなことを言ったジェットは、この微妙な空気が耐え難かった皆を代表してくれていた。

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