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※ Sideソレイユ



コンコン――予定にないノック音にやや警戒して反応すると、外から同僚が呼びかけてくるのでドアを細く開く。


「移動ですか?」


「いや。ラグドール王がヴァンフォーレをお呼びだ」


「王が?」


昨日の聴取で不足があったのだろうかと首を傾げながらも、伝言に来た同僚がサハラ・アザリカの見張りを交代してくれるというので部屋を出る。

この時間なら、ビームス所長やナナコさんを迎えているはずだ。


ともかく、いつも以上に姿勢を正して、案内してくれるラテアに従った。


「どうぞ。中で王がお待ちです」


促された部屋で待ち構えていたのは妙に緊迫した気配で、とっさに室内を見渡せば、クレオス隊長と隣に並ぶサクラ団長、それにビームス所長が揃って自分を睨みつけるような目つきで鋭く見てくる。

何より、予想していたナナコさんの隣にイスズさんがいることが衝撃すぎて、内心でパニックに陥った。

にも関わらず、ラグドール王とドラグマニル公に向かって騎士として相応しい礼を取っている自分に気づいた時には、普段の訓練がいざという場面で生かされたことに偉く感動をしながら、澄まし顔で姿勢を正す。


「任務中に済まないな」


「いえ」


王に直接話しかけられて短く答える。

とにかく、ここには騎士として呼ばれたわけで、公私は明確に区別しなくてはならないし、また昨日のような、うっかり発言を繰り返しては立ち直れる気がしない。


「ひとつ、聞きたいことがあって呼び出した」


何か伝え損ねたことがあっただろうかと、昨日の事件を頭の中で思い返しながら質問を待つ。


「君はイスズ嬢が好きだと言ったようだが、それは親しみと敬いのこもった友情由来の告白なのか、それとも、異性としての恋情が溢れた結果の想いなのかを教えてほしい」


「……」


爆速の期間で、いまほど自分を誉めたいことはない記録を更新した。

うっかり声を上げていたなら、無様な大混乱の失態を見せていたことだろう。

まあ、運よく無言を貫いたところで、内心でパニック状態なことに変わりはないのだけれど。


ぐるぐる脳内迷走した結果、これは公私の私の部分だとして、答えを控えさせてもらえるのでは? と思いついたところで、王から催促の言葉をもらう。


「個人的な話ではあるが、告白自体はすでに周知の話題だ。この後の会見でも必ず取り上げられるから、事実関係をはっきりさせておきたい」


言われて見れば、視線を向けないようにしていたイスズさん達の前にあるテーブルに数社の新聞が広げられ、どれもに昨日の写真が載せられている。

この距離からでも読める見出しに、必死な思いで顔色と表情を固定した。

その努力が成功しているのか、鏡でもなければ自分ではわからないのが冷や汗ものだ。


「それで、どうなんだい? ソレイユ・ヴァンフォーレ」


「う……あ……」


声にならない呻き声を上げる最中に考えついた答えは、これ以上誤解されたくない、だった。

それに、騎士の自分が、仕える王に問われて無反応でいるわけにもいかない。

覚悟を決めろ。


「私は、イスズ・コーセイさんを女性として慕っています。できることなら、特別な関係になりたいと願うくらいに」


この回答は前半はラグドール王に向かって、後半はイスズさんに向けて告げていた。


言ってしまったと高まる鼓動に支配されながら、どんな反応をしてくれるのだろうと期待して見守る。


実は、ドアのすぐ前に立ち、イスズさんの座るソファの背後に当たる場所のため、振り返らないイスズさんの顔は本日、一度も見れていない。

見なくても困らせていることはわかる。

それでも、うっかり零れた本心をなかったことにはしたくなかったし、多少の迷惑になろうと、少しでも意識してくれたらいいのにと願ってしまう最低な自分がいる。


「ラグドール王、騎士隊長として進言をよろしいでしょうか」


硬質な声にハッとすれば、片隅に控えていたクレオス隊長が移動して、こちらの視界を封じるように斜め前に躍り出た。


「この度は、私の部下がお騒がせして申し訳ありません。ソレイユ・ヴァンフォーレが公私共に誠実であることは、上司としてクレオス・ボーデンが保証いたします」


隊長が騎士の忠誠を示す礼をしたのが背後にいてもわかったので、自分もすかさず倣う。


「しかし、彼のせいで、一人の一般市民に多大なる迷惑をかけているのも事実です」


隊長に対する信頼の念をぐんと高くしていた矢先の流れに、ひゅっと体温が下がって硬直した。


「騎士にとって、礼節と護衛の力を備えることが何よりの誇りとなります。ですから、衛るべき市民を困らせるなど、忌むべき不名誉だということをご理解くださると、騎士隊長として何よりの幸いです」


言葉以上に厳しい指摘に、自分は絶対に顔を上げられなくなった。

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